王妃様救出隊結成
王妃様を救う方法を考えるため、王妃様のお話と乙女ゲームの状況を照らし合わせて、二人で考えてみることにした。
旅行の出発は、来週の連休初日。
王妃様とレオナルド王子と、少人数での護衛でのお忍び旅行。
ペレス村に行く途中で、レオナルド王子が誘拐される。
王妃様が、賊に襲われて亡くなってしまう。
最近、ペレス村に行く途中の道で、賊が出没している。
「さすがに、旅行を取りやめて欲しいとは言えないですよね。せめて、旅行に同行させてもらうのが良いとは思うのですが」
「そうよね、同行か……」
私たちとレオナルド王子の間には、一緒に旅行に行くほどの深い付き合いはない。私とジェイドの力では、もう手詰まりだった。
「お母様に相談してみようかしら? お母様も信じて、くれるかな?」
「スーフェ様ならきっと信じてくれますよ。いきなり現れた私の事も、すんなりと受け入れてくれた方ですよ」
「うん、そうよね。どんなことにも動じないで、ウェルカムなお母様だったら、きっと『任せなさい!』って言ってくれるはずだわ」
ジェイドの言葉に後押しされ、王妃様とのお茶会も終えて、部屋に戻っているお母様を訪ねた。
「お母様!」
お母様の部屋のドアをノックすると、私は返事も待たずにドアを開けて、部屋に飛び込んだ。
「あら、サフィーちゃん。どうしたの? そんなに慌てて?」
「私もペレス村に行きたいです」
突然の私の訴えに、しばしの沈黙の後、お母様がニヤリと笑った。
「ははーん、もしかして、サフィーちゃんはレオナルド王子のこと……」
私のことを肘で突いてくるお母様に、私は必死で否定する。
「違います! それだけは絶対にあり得ません!!」
そして、私はお母様にペレス村に行きたい理由、王妃様たちの旅行に同行したい理由を説明した。
さすがにジェイドのように「前世の記憶の乙女ゲームだ」と言っても、絶対に信じてもらえないと思い「予知夢を見た」と言って、お母様に王妃様の件を全て話した。
話し終えて少し冷静になると、予知夢も大概無理があるだろうと反省する。
「そう……」
お母様は神妙な面持ちで考え込みはじめた。それだけで、事の重大さを再認識させられる。
「誘拐、ね。サフィーちゃんは大丈夫? 何か思い出したりしてない?」
お母様は心配そうな表情で、どうしてか私の様子を窺ってくる。私はもちろん盛大に焦る。
(まただわ。何か思い出した? って。やっぱり、前世の記憶のこと? せっかく予知夢って言ったのに、どうしてバレバレなの? もしかして、お母様のお得意の“鑑定”で? とりあえず……うん、誤魔化そう)
「い、いえ、特には何も……」
きっと私の目は、盛大に泳いでいるだろう。
「そう、ならいいわ。出発は来週の連休の初日、出発時間は8時頃って言ってたわ。一緒に行けるように手配しておくわね。それと、レオナルド王子の居場所が分かるようにしておきたいわね。ラズも連れて行きましょう。ベロニカの件に関しては、私にとってもいい案があるわ」
ちらりとジェイドの顔を見て、お母様は悪い顔をする。その表情に気付いてなのか、咄嗟にジェイドは目を逸らしていた。
(おそらく、もう逃れる事はできないと思うわ。巻き込んでごめんね)
ジェイドに心の中で謝った。おそらく今度の旅で一番の被害者になるのは、ジェイドだろう。
あれやこれやとトントン拍子で決まっていき、さすがの私も呆気にとられる始末だ。
「お母様も、私の話を信じてくれるのですか?」
「当たり前じゃない! サフィーちゃんは人を傷つけるような嘘を吐く子じゃないわ。私とベロニカが親友だと知っていて、ベロニカのことを助けてくれようとしてくれているのでしょう? サフィーちゃん、ありがとう」
「お母様……」
私の視界が再び涙で滲む。私の周りは本当にいい人ばっかりだ。私は本当に恵まれている。
それから、屋敷中に聞こえるほどの大きな声で、お母様はラズ兄様を呼びつけはじめた。
「ラズー! ラズー!! いるんでしょう?」
「そんなに大きな声を出さなくても、きちんと聞こえてますよ。何ですか?」
「!?」
ラズ兄様は5秒も経たずにやってきた。一体どこにいたのだろうか。
「来週の連休初日朝8時頃出発。ペレス村に家族旅行に行くわよ。あなたたちの役目はレオナルド王子の追跡よ」
お母様は要点だけを淡々と伝える。とても大雑把な説明だ。さすがのラズ兄様も困惑顔を隠せていない。
「王子の追跡なんて、そんなことできませんよ」
ラズ兄様は呆れた声で「無理だ」と告げる。
(そうよ、追跡なんて技は、余程の訓練を積まないと難しいはずよ。いくらチートなラズ兄様だって、無理よ……)
「へ〜、サフィーちゃんに言うわよ?」
たった一言、されどその一言でラズ兄様は掌を返す。
「お任せください。いやぁ〜、家族旅行なんていつぶりだろう。とっても楽しみだな〜」
明らかにおかしい。ラズ兄様を横目で見るも、素知らぬ顔のラズ兄様。
(私に隠し事ってなんだろう? 作っておいたプリンがなくなっている件かしら? 別に怒らないのにな。いくらでも作れるし)
「よし、決まり! ジェイドはちょっと残ってね。特別任務よ」
お母様はウインクしながら、ジェイドを見る。一瞬にして、この場にいる全員が悟った。
(やっぱり、お決まりのだめなやつね……)
ジェイドは「嫌な予感しかしない」と呟いていた。