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祝福の魔法

 私たちは、ジェイドと一緒に別邸に戻ることにした。


「アオ、私たち二人を乗せることってできる?」

『うん、サフィーたち二人くらいなら余裕だよ』

「えっ!?」


 私とアオの会話に、ジェイドはなぜか驚きの声を上げた。


「どうしたの、ジェイド?」

「どうしたの、って、アオ様に乗せてもらうなんて、そんな……」

「もしかして、怖いの?」


(アオはとっても可愛いから、怖いはずはないよね?)


 私の言葉に、ジェイドは首を左右に振る。


「怖くはない。けど、どうしよう、すごく嬉しい。まさかフェンリルの背中に乗れるなんてっ」

『ジェイドは今回だけだよ。ボクは本当はサフィーしか乗せるつもりはないから』


……とか言いつつも、私は知っている。


 お母様に頼まれて、お母様を背中に乗せていたことを。ラズ兄様に頼まれて、ラズ兄様のことも背中に乗せていたことも。きっとお父様も……


(長いものに巻かれるアオは、絶対に世渡り上手だわ)


「ふふ、じゃあ、アオ、よろしくね」


 アオは、私たちが乗りやすいように寝そべってくれた。そこで、ようやく私は気付く。


(近っ!! これって、密着しすぎよね!?)


 アオの背中には今、私が前で、後ろにジェイドが乗っている。あり得ないほど、胸の鼓動が早鐘を打つ。


(しかも、ジェイドはとてもエスコートが上手いから、余計にドキドキしちゃうわ。きっとあれよね、妹がいて、一緒に乗馬とかしてたりしたんだわ)


 アオに乗る時も、当たり前のように手を差し出してくれたり、私が危なくないように、と今も気を遣ってくれている。


 正直言って、別邸に着くまでの道中に起きた出来事のほとんどを、私は何も覚えていない。


 そして、私たちは無事に別邸に着いた。


 別邸に着いてすぐにジェイドの治療をしようとしたけれど、アオの生命力と魔力のおかげか、それとも飲んだ回復薬のおかげか、致命傷と思われる傷のほとんどが、嘘みたいに綺麗に治っていたという。


 ジェイドが身支度を整えている間に、お母様に一連の経緯を説明した。


「ふふふ、森の中で光が見えたから、何事かと思っていたのよ。やっぱりイケメンは目の保養にいいわね」


(うん、相変わらずお母様は動じないわね。去年はフェンリル、今年はイケメンを拾ってきてもウエルカムって、どれだけ心が広いのかしら)


 お母様にはやっぱり敵わないなと、私は改めて感服した。


 ジェイドの支度が整い、部屋に入ってきた。ひととおりの挨拶を済ませたあと、お母様がジェイドをジーッと見つめる。


 得意の鑑定か!? と思いつつも、違ったらしい。お母様の表情は心なしか、笑って見えた。


(笑ってる? やっぱりジェイドがイケメンだから?)


 少し長めの白銀色の短髪に、子犬のように愛らしい翡翠色の瞳。年齢はおそらく私と同じくらいで、身体は細めながらもしっかりと筋肉が付いている。それでいて、どこか影のある色気を醸し出す。


(うん、やっぱり、ジェイドはイケメンだわ。でも、ラズ兄様の方が超絶イケメンだけどね!)


 一番のイケメンはラズ兄様だということは絶対に譲れない。きっと私は重度のラズ兄様大好き病(ブラコン)だろう。


「いいんじゃない。まずは、サフィーの専属従者として働いてもらいなさい。年齢も近そうだし、学園にも一緒に通える護衛を探していたから、ちょうど良かったわ。あとのことは私がやっておくから、安心しなさい」


 実にあっさりとお母様の許可が下りた。その事実に一番驚いていたのはジェイドだった。


「恐れ入りますが、私は護衛ができるほどの実力もありませんし、恥ずかしながら、魔法も使えません」


 ジェイドが戸惑いつつも、素直に答える。


「あら? そんなことないはずよ。その手と体格を見ると、剣技は十分に鍛錬を積んでるだろうし、それに魔法。アオちゃんの魔力を入れたでしょ? 今まで使えなかった原因はわからないけれど、アオちゃんの魔力が引き金となって、本来のあなたの魔力が使えるようになったはずよ。得意なのは風と、ふふふ、ゆくゆく分かるわ。ね、アオちゃん」


 お母様はアオの方を向いてウインクする。


『アオの魔力とも相性が良かったから、それは間違いないよ』


 魔力には相性があり、同じ属性はもちろんだけど、風と水、火と土が相性が良い。


 貴族の間では、魔力を高めるために、わざわざ相性の良い属性の結婚相手を探すことも珍しくはないという。


「でも……」

「ジェイド、大丈夫よ! きっとできるわ!! 今から試しに思いっきり魔法を使ってみない?」


 と言うことで、魔力が暴走しないとも限らないからと、念のためにみんなで庭園にやってきた。


 今日も庭園には色とりどりの花が綺麗に咲いている。オルティス侯爵家専属庭師ケンさんの弟子のタッキーさん自慢の力作だ。


 そこに、お母様がどこから持ってきたのか、ビニール製のボールを置いてくれた。


「これを風魔法を使って、空高く飛ばしてみてくれる?」

「はい、やってみます」


 お母様の提案におそるおそる答えたジェイドは、両手を体の前に突き出して全神経を集中させる。


----ブワッ


 まるで竜巻のように、風が下から上に捲き上がる。ボールはおろか、辺り一面の草花が空高く舞った。


 ジェイドが慌てて風魔法を止めた途端、空高く舞った花たちが、ひらりひらりと私たちのもとへと舞い落ちる。


「きれ〜い」


 思わず感嘆の声が溢れた。まるで、ジェイドの魔法を祝福するかのような光景がとても綺麗で、私の目は釘付けになった。


「ふふふ」


 予想どおりだったのか、お母様の笑みも溢れる。


「で、できた、できたよ!!」


 両手の拳を握りしめ、ガッツポーズをしながら喜ぶジェイドの瞳が、かすかに潤んでいるの分かった。


 だからなのか、私まで嬉しくなって涙が零れた。





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