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もふもふもふもふ

 魔物意見交換会を終えたお母様が、別邸に帰ってきた。


「お母様、お帰りなさい!」

『ワウ!!』


 お母様を驚かせようと、アオと一緒にお出迎えをした。


(ふふ、どんな反応してくれるのかしら〜!)


「ただいま。あら〜可愛いもふもふちゃんね。お友達?」

「……はい」


 お母様は全く驚かなかった。


(どうしてだろう? たしかに、もふもふは正義で、特にアオは可愛いすぎるけれど?)


 きっと可愛すぎるからだと一人で納得している間にも、お母様は「よしよし」とアオを撫でている。アオも気持ちよさそうに『クーン』と鳴いた。


「アオは、お利口さんね」


(長いものに巻かれることは、世の中をうまく生きていくコツだって知っているのね、さすが、もふもふ) 


 この様子なら拒まれないだろうと、私はお母様に話を切り出した。


「あの、お母様、さっき、アオとお友達になったんです。一緒に暮らしても良いですか?」

「もちろん大歓迎よ〜。アオちゃん、私のことはスーフェって呼んでね」


 お母様は、可愛らしくウインクをしながら即決してくれた。


『クーン』(わかった)

「あら、私のことを可愛いって言ってくれてるのね、ふふ、嬉しいわ。アオちゃん、よろしくね。私のところにも可愛いワンちゃんのお友達が遊びに来てくれるから、会ったら仲良くしてあげてね!」

『クーン』(う、うん……)


 お母様とアオは、もう仲良くなったようで嬉しい。会話は全く噛み合っていないけれど。


 お母様のワンちゃんには、私も会ったことがない。


(お母様のワンちゃんにもぜひ会ってみたいな。そして、もふもふ祭りをしたい!!)




******




「アオ〜、ここがおうちよ!」


 お母様との女子旅から、無事に本邸に帰ってきた。


「お帰りなさい、母様、サフィー」


 屋敷に帰るとすぐに、ラズ兄様が出迎えてくれた。久々に見るラズ兄様は、やっぱり超絶イケメンだ。


「ただいま、ラズ〜、私がいなくて寂しかったでしょう?」


 お母様がラズ兄様を、ぎゅーっと抱きしめる。


「母様、いつまでも子供扱いしないでください。それに……まあ、いいや」


 ラズ兄様は、必死でお母様に抱きしめられている腕を解こうとするも、早々に抵抗するのをやめたみたい。


(お母様のバカ力には、ラズ兄様でさえ敵わないのね)


 きっと、お母様に敵う人はいないだろうと思ってしまう。いくら文句を言おうが、お母様は我が道を行く。全く御構いなしだから。


「ラズ兄様、ただいま戻りました。ラズ兄様に紹介したい……」

「なに!? そんなの聞きたくないっ」


 私の話を最後まで聞かずに、食い気味に拒絶してきた。


(あっ、たぶん、また勘違いしてるな)


 瞬時に理解するのと同時に、ラズ兄様の瞳がまた夕焼け色に変化しようと揺らいでいるのに気付いた。


「ラ……」

「ラズ」


 私がラズ兄様に声を掛けようとしたところで、お母様の低い声がラズ兄様を呼ぶ。


(こんな声を出すお母様って、初めて見たかも……)


 ひどく冷静でいて、そして少し怖かった。


(あっ、ラズ兄様の瞳の色が戻ってるわ。何回見ても不思議ね。きっと、何かきっかけがあるはずなんだけど?)


 ジーッと、ラズ兄様の瞳を見つめていると、ラズ兄様は少しだけ恥ずかしそうに、コホンと咳払いをした。


(おおっと、いけない、いけない。アオのことを忘れていたわ)


「ラズ兄様が想像していることとは違います。じゃん! このもふもふちゃんです。名前はアオです。可愛いでしょう」


 私の合図とともに、アオがラズ兄様の前に走ってくるという、見事な連携プレーを披露した。そして、私は満面の笑みを浮かべながらアオを紹介した。


 アオはラズ兄様の前に座り、尻尾をパタパタと振っている。その姿が何とも健気で可愛らしい。


「可愛いもふもふだな。俺はサフィーの兄のラズライトだ。よろしくな、アオ……って、フェンリルじゃないか! スゲ〜!! 俺は初めてみたぞ」


 ラズ兄様が興奮気味にアオを撫でまくる。アオはとっても気持ちよさそう。


(ずるい! 私も一緒にもふもふしたい! ん? ちょっと待って……)


 今さっき、耳を疑うような言葉が聞こえてきた。


「アオって、大きい犬じゃなかったの!?」


 私も一緒になって、もふもふしながら問いかけると、その場にいる全員の冷たい視線が私に突き刺さる。


「だって、フェンリルって恐ろしい魔物でしょ? こんなに可愛い魔物が存在するなんて思わないです!!」


(あっ、この流れもラノベあるあるだわ)


「もしかして、サフィーの従魔か? 良かったな! 俺も手に入れたいコがいるけど、なかなか手強くて。まぁ、そこも可愛いんだけどな」


 ラズ兄様が自分のことのように喜んでくれた。


(従魔じゃないけど、まあ、いいか。どうして契約しないのか、理由を聞かれたら困るものね)


「ラズ兄様は、どのような従魔をお探しなのですか?」


 ラズ兄様は、それはそれは嬉しそうに、説明をはじめた。


「美しい青色の毛並みに、同じ色の澄んだ瞳で」


(アオみたいな子かな?)


「小柄で笑顔が可愛くて、二階から落ちても怪我をしないくらい頑丈で」


(ん? どこかで聞いたエピソードな気がするわね?)


「ヒト科の女の子で名前は……」

「もういいです。最後まで言わないでください」


 私はその続きを言わせまいと、ぴしゃりと断った。


「サフィーがいなかったから、サフィー成分が足りなすぎて、俺は今にも倒れそうだよ。むしろ俺がサフィーと契約して、俺の全てを捧げてあげるから」


 聞かなきゃよかったと、心底後悔した。


「ラズ、分かってはいたけど、あんたって本当に気持ち悪いのね」


 お母様の冷たい言葉と視線が、ラズ兄様に突き刺さった。


(お母様、彼はあなたの息子ですよ!!)


 とりあえず、この場の空気を収めるために、みんなでアオを、もふもふしまくることになった。


 もふもふもふもふ。






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