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夢オチ!?

「今日のこと、ルーカス王子に早く話したいな!」

『話してる暇はないかもしれないけどね。向こうはまだまだ忙しいみたいだよ』

「えっ、そうなの? それなら大広間の方に行ってみようか!」


 私とアオを含めた魔術の特講のメンバーはロバーツ王国から無事にアカデミーに戻り解散となった。


 医学の課外授業は救急システムについて学ぶって聞いてるから私でも手伝えるし、何より早くルーカス王子に会いたくて大広間へと向かう。


「あそこにいるのはノルンちゃんだ! アオ、医学の課外授業も終わってるみたいだよ」

『……課外授業は、ね』

「おーい、ノルンちゃーん!」


 意味深なアオの呟きを無視して、私はノルンちゃんに向かって大きく手を振った。


「あら、サフィーちゃん。魔術組は終わったの?」

「うん! ノルンちゃんは一人? 他のみんなは?」

「大広間にいるわ。たぶんそろそろ終わるころよ。(再現が)」

「ん? 何か言った?」

「いいえ、さあ、サフィーちゃんも一緒に行きましょう。最後の仕上げの時間よ」

「医学の特講の人たちで最後の挨拶ってこと? それなら外で待ってようかな?」

「何言ってるの! 確かにサファイアはマジアカには出てこないけど、最後くらいはサフィーちゃんも一緒に楽しみましょうよ(再現を)」


 ノルンちゃんに背中を押され(物理的に)ながら、私は大広間のドアを開けた。


 すると、勢いよく飛び出してくる人たちとぶつかりそうになった。


「「魔王様!!」」


 えっ、と思う間もなく、目の前に飛び込んできたのはニイットー王子とハイネちゃん。その勢いのままニイットー王子が突然私を抱きしめてきた。


「会いたかったっす〜!!」

「きゃぁっ!!」


 驚きすぎて叫び声を上げてしまった。だって、あのニイットー王子が私に抱きついてくるんだもの。


「あれ、サフィー様!? 二番隊隊長、人違いです! 早く離れてください」

「にゃにっ!?」


 ニイットー王子は私を抱きしめる腕を解き、一歩後ろに下がる。そしてまじまじと見つめてくる。


 頭の中が真っ白になって今何が起きてるのか理解が追いつかない。


「何言ってるんすか! この魔力は魔王様の……」

「この豚っ!! サフィーちゃんに何してんじゃーっ!!」

「ぐぉっ!!」


 ニイットー王子の言葉を遮りスピアータックルを決めたのはもちろんノルンちゃんだ。ニイットー王子ははるか彼方へと飛んでいった。


 おかげで私は解放された。同時に知ってる魔力が私の前に現れたことで一瞬にして安堵した。……のも束の間、新たな叫び声が上がる。


「あぁぁぁっ!!」


 ハイネちゃんが、私の方を、正確には私を守るように立つ存在を指差しながら叫んだのだ。その目には大粒の涙が今にも溢れ出しそうになっている。



 一方、


「な、何しやがる、グハッ!!」


 物足りなかったのか、倒れていたニイットー王子が起きあがろうとした瞬間、そのお腹を目掛けてエルボードロップ。


 ノルンちゃんの小柄な身体からは想像もできないほどの威力だ。


 3、2、1、あ、死んだ。と思ったら、ニイットー王子は勢いよく起き上がる。


「ノルン! 俺様のノルンが帰ってきた!! これこそが俺様の求めていたノルンだ。そうか、今までのは夢だったのか……ということは、まさかの夢オチ!?」

「何バカなこと言ってんのよ。豚は冬眠なんてしないんだから、早く起きなさいよっ!!」


 安定のノルンちゃんの毒舌がニイットー王子に突き刺さる。


「ブヒっ! もっと罵って、いや、目覚めのもう一発、さあ、心ゆくまで踏み付けておくれ!!」

「本当にあんたは気持ち悪いわね。一生寝てた方が良かったんじゃないの?」


 と言いつつ、ノルンちゃんは蹴りの準備に入る。


「ダメっす! これ以上は死ぬっす! 何すか、ニイットー(コイツ)気持ち悪いっすよ! てか、どんどん俺の居場所がなくなってるっす。生きる屍だったはずなのにおかしいっす!!」


 ニイットー王子がおかしい。いや、おかしいのはいつものことだけど、ニイットー王子の中に何か別の人格がいるみたいだ。


 すると、お母様がニイットー王子に近づき何かを取り出し離れていった。ニイットー王子の中にいる魔族の魂を盗んだのだ。


 そのままケール王妃様の方に向かうと、ケール王妃様の腕の中で不思議な布に包まれた可愛い男の子の中にその魂が入って行く。


「生き返ったにゃ!! ん? そうでもないか? でもどうせ死ぬならケールさんに抱かれて死んだ方がいいっす!」

「ミケちゃん、この布は魔力を遮断してくれるそうよ。小さくなればそれだけミケちゃんを守ってくれるわ。だから!」

「……にゃんと! 最高じゃないっすか!!」


 可愛い男の子は一瞬にして三毛猫ちゃんの姿に変わった。三毛猫ちゃんを抱くケール王妃様がとっても幸せそうだ。


 ちなみに魔族の魂から解放されたニイットー王子は念願叶って、踏み付けからのギロチンドロップ。こちらはこちらで幸せ、なのかな?



 そして目の前の出来事に戻る。


「ハイネちゃん、どうしたの? 大丈夫?」


 大粒の涙を流しながら、私を守る存在のことを抱きしめて離さない。


「魔王様、会いたかったです。ずっとずっと探してたんですから!!」


 その言葉を聞き、私はその人を見上げた。緋色の瞳をしたラズ兄様ーー黒猫ちゃんを。


 私が叫び声をあげたことで、私のピンチだと思ったラズ兄様は、黒猫ちゃんの転移魔法で助けに来てくれた。そしてハイネちゃんに見つかってしまったのだ。


「わかったから、とりあえず離せ」

「嫌です! 離したら絶対に逃げるじゃないですか!!」

「逃げないから」

「絶対に離しません!!」


 少しだけ困った顔で、でも優しい瞳で、それはまるで私を見るときのようで、黒猫ちゃんにとってハイネちゃんがどんな存在なのかがわかった気がした。


 同時に、ハイネちゃんの本当の想い人の存在についても。


 ハイネちゃんは王様が好きと言っていた。自国の王様。魔族の魂を持つハイネちゃんにとっての自国=魔界だ。ハイネちゃんの想い人はチェスター王国の王様ではなくて、魔王様、黒猫ちゃんだった。


 照れくさくなったのか、ラズ兄様の瞳の色が一気に紺碧色に変わる。そして小さく「逃げるのかよ」と呟かれた。そして「仕方がないか」とも。


「すまないが、離れてくれないか?」

「えっ?」


 ラズ兄様に代わったことにハイネちゃんも気付いたようで、顔を赤く染めながら勢いよく離れた。


「ルベは……会わせる顔がないと思ってるみたいなんだ。だからもう少しだけ時間をやってくれないか?」

「魔王様は兄様のことをまだ気にしてるんですね。兄様の自業自得だから気にしなくてもいいのに」

「俺には理解できないけど、気持ちは痛いほど伝わってくるから。アカデミーを卒業する頃までには俺が責任を持って会わせるから待ってもらってもいいか?」

「いいえ、私はもう絶対に離れません! だから、私も一緒に旅について行きます!」

「旅に? でもハイネちゃん、アカデミーはどうするの?」


 ハイネちゃんの決意に私が驚く。ハイネちゃんはアカデミーの中でもトップスリーに入るほど優秀な生徒だ。このままアカデミーを卒業すれば就職先も嫁ぎ先も高待遇が約束されるだろう。


「アカデミーは魔王様を探すために入っただけなので、私にはもう必要ありません。それに私、闇属性だけど、ありとあらゆる回復魔法が使えるので必ず役に立ちますよ!」

「……それは助かるかも」


 意外や意外、ラズ兄様が乗り気だ。


 マジアカヒロイン、まさかのアカデミー中退。チェスター王国は乗っ取られなかったけど、魔王ルートでエンディングを迎えたようだ。


 と思いきや、お母様の前で正座をさせられているチェスター王国の国王様が目に入った。魔王以上の存在によって、すでにチェスター王国は乗っ取られていたのかもしれない。


 それにしても、ルーカス王子はどこにいるのかな?


 そんな疑問が頭に浮かぶと同時に、もう一つの疑問も浮かび上がる。


 どうしてチェックスターくんがここにいるのかな?


 その二つの疑問はすぐに解けた。チェックスターくんが話しかけてきたからだ。


「サフィー」

「えっ、ルーカス王子!? 何してるの?」

「何もしてない……本当に何もせずに終わったよ」


 どうしてチェックスターくんの着ぐるみを着ているのかという意味で聞いたのだけれど、これ以上聞き返せなかった。


 それどころか、悲しみに暮れるルーカス王子にかける言葉が見つからなかった。チェックスターくんの着ぐるみを着ていたので表情はわからないけれど。


「大丈夫よ、あなたの出番はまだまだこれからよ。さあ、罰ゲームの続きよ♡」

「お母様!? えっ、罰ゲームって……」


 いつのまにかお母様も私の側に来ていた。


 そういえば、私に知られずにマジアカのストーリーの対処をする約束をしてしまったと言っていた。私に知られた上に、魔王以上の存在によってチェスター王国は乗っ取られてしまったのだから、もう逃げようがないだろう。


 ルーカス王子をちらりと見ると、やっぱり表情はわからないけれど、この世の終わりのような絶望感と悲壮感を漂わせていた。




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