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ヒロインの出生の秘密

「……ということで、今日の内容は必ず試験に出るからよく覚えておくように」

「!?」


 我に返った私を待ち受けていたのは、試験に出るという教授の言葉だった。


「どうしよう、全く聞いてなかった……」


 だって、さっきのハイネちゃんの爆弾発言が衝撃的すぎたんだもの。


 まさか王様が好きだなんて。すでにご結婚されていて、お子様も四人いらして、しかもそのうちの二人は同級生で……って。


 まさにその同級生の片割れが視界に入った。そうだ!


「ニイットー王子、お願いします! ノート写させて!!」

「はぁ? サファイアはバカなのか? ノートなんて取る必要ないだろう?」

「バカはどっちよ!? 教授が試験に出るって言ってたじゃない!! どうして取ってないんですか!?」

「分かってないなあ。取る必要がない、と言ったんだ。つまり、全てこの頭の中に入っている」


 俺様は天才だからな、と自信満々なその言葉に深いため息が出る。


「……ニイットー王子、残念ですけど、ニイットー王子もあまり頭がよろしくないですよね? 今さらそういうのはいらないですから」

「いや、俺様は全て覚えている」

「だから、強がんなくていいですよ」

「強がってなんかない。何回も何回もマジアカをプレイしたんだ。忘れるわけがない。まあ、一言一句完璧に、というわけではないが、それは仕方がないだろう。俺様は絵の方が得意だしな」

「はぁ?」


 意味不明。一言もマジアカの話なんてしていないのに。


 物事の全てをマジアカと結びつけて考えてしまうなんて、

マジアカの再現をしすぎて、とうとう末期の症状が現れたのかもしれない。


 ニイットー王子に聞いた私がバカだったと思った私は、ナタリー様にお願いしようと席を立ったその時、深いため息をつかれた。


「サファイアはマジアカをやってない上に攻略本も読んでないから知らないのか。可哀想に。よし、優しい俺様が説明してやろう。さっきの魔もの学の講義で習った内容はマジアカのストーリーの中に出てきた魔族についての話と同じだった」

「マジアカでの魔族の話……ってことは、ハイネちゃんの中にいる魔族のことですよね?」


 ぜひ聞きたい! と、座り直してニイットー王子に詰め寄る。


「まあ、落ち着け。そもそもどうしてハイネの中に魔族の魂があるのかは知っているのか?」

「それ! 私、すごく気になってました! どうしてなんですか? 魂が二つなんて、そんなこと可能なんですか?」


 と言っても、私は前例を知っている。ラズ兄様と黒猫ちゃんだ。


 ラズ兄様は生まれた時から黒猫ちゃんと一緒にいると言っていた。


 それに黒猫ちゃんは私にもとても優しくしてくれる。全ての魔族が黒猫ちゃんのようなら、と思うと、魔族って全然怖くない気さえしてくる。


「ハイネは、人間の世界を征服しようと企む魔族の魂が無理矢理ハイネの体の中に入り込んだんだ。しかし、幸か不幸か、そのおかげで一命を取り留めた」

「人間の世界を征服? その魔族ってめちゃくちゃ悪者じゃないですか!! でも一命を取り留めたってどういうことですか?」


 ニイットー王子が言うには、魔族の魂が人間の体を乗っ取る方法は三つあって、


 一つ目は、その体の持ち主が同意して魂を受け入れる方法。おそらくラズ兄様と黒猫ちゃんはこれだろう。


 二つ目は、死にかけている人間の体を無理やり乗っ取る方法。


 三つ目は、死んですぐの体を乗っ取ること。


「……ということは、ハイネちゃんが生死を彷徨うほど弱っていたところに、魔族の魂が入り込んできたってこと?」

「魔族自身も魂が消滅する寸前だったから、生まれたてで弱っている赤ん坊の体くらいしか選ぶ選択肢がなかったようだ。けれど、魔族の魂が入ったことで本来離れるはずだったハイネの魂が体に残ることができた、とハイネの母親のもとに現れた神様が言っていた」

「ハイネちゃん、だからあんなに体が弱いんだね。死にかけていたなんて……って神様?」


 魔族に神様。どんどんファンタジー色が濃くなる。


 そもそも魔法学園だからファンタジー味はあったけれど、魔族に神様まで出てきちゃったら、純粋な学園もの乙女ゲームのマジ恋とは全くの別物だ。


「ハイネが国を照らす光になるか、国を滅ぼす悪になるか、それとも……それはハイネの心次第だ、ということで、品行方正を貫くことにしたハイネは、俺様(本当はルーカス王子)に出逢ってしまった。俺様ってば罪な男だ。けれど、俺様の心はすでにノルン一筋だから、ハイネには悪いが、ハイネがハッピーエンドルートを歩むことはない」

「はいはい。……でも、もしもハイネちゃんがハッピーエンドじゃなかったら、ルーカス王子は体を乗っ取られるんですよね?」

「おお、その通りだ。だが、俺様は体を乗っ取られるようなヘマはしない。ヘマをするとしたらルーカスだ。だが、ルーカスはハイネに嫌われている。すなわち物語から除外されているはずだから、心配しなくてもいいだろう」

「まあ、そのへんはどうでもいいですよ。ルーカス王子を信じてますし、私的には魔族がチェスター王国を乗っ取りさえしなければモブとして楽しみますから」

「サファイアはとうとうモブという役割を受け入れたか。まあ、モブでもマジアカの世界観に足を踏み入れることができたことを嬉しく思いたまえ。なんたって、サファイアはマジ恋で死んでいるはずだったんだからな」


 なんとでも言えばいい。私にとって、マジアカの世界観を特等席で楽しめるモブこそが勝ち組だと悟ったんだから!


 マジ恋のように断罪に怯える学生生活とはおさらばだ。


 だからこそ興味本位で尋ねることができる。


「ちなみに、マジアカには隠しルートとかないんですか? ありますよね?」


 王様ルート。


「隠しルート? 隠しルートなんてものはマジアカにはない」

「えぇっ!? ありますよね? ニイットー王子が辿り着けなかっただけですよね?」

「ない。断言できる。公式以上にマジアカを熟知していた呟きの主も、どうして隠しルートがないんだ、と荒れていたから間違いない」

「でも、ハイネちゃんは王様のこと……あっ」


 だめだ。勝手にハイネちゃんの気持ちをバラしてはいけない。しかも恋のお相手の息子になんて絶対に言ってはダメだ。


「ん? 父上がどうした?」

「ううん、何でもないから気にしないでください」

「おかしい。実におかしいぞ……いや、サファイアがおかしいのはいつものことか。ははは」

「んぐっ」


 悔しい。言い返したいけど、言い返して詮索されるのも嫌だ。ハイネちゃんとの友情のためにも我慢だ。


 高らかに笑いながら去っていったニイットー王子を信用できない私は、ナタリー様にノートを借りることにしたのは言うまでもない。







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