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ヒロインの攻略対象は誰!?

 ルーカス王子の隣に並んでアカデミー内を歩く。触れそうで触れないこの距離が、手を繋ぐよりも何だかとても照れくさい。


 正直、その場に居合わせた人たちの視線をこれでもかと感じた。


 けれど、ようやくルーカス王子との関係を認められた気がして……いや違うな。私に浴びせられるこの視線たち、明らかに軽蔑の眼差しだ。


「絶対にニイットー王子とルーカス王子のイケメン二人に二股かけてる女だと思われてるよね? それって悪役令嬢じゃなくて悪女ってことじゃない! いつのまにかレベルアップしてるよね!?」


 ルーカス王子はマジ恋の隠し攻略対象者に選ばれるほどのイケメンだし、そのルーカス王子と異母兄弟のニイットー王子も性格を除けばぽっちゃりイケメンだ。


 しかもヒマラ山に行く前と比べると少し身体が引き締まった気もする。


 チェックスターくんと戯れていただけのはずなのにずるい、と羨ましく思うも、前世自室警備員のニイットー王子にとって、遠出するだけでとてもエネルギーを消費するのかもしれない。


「可愛いサフィーを悪女だなんて誰も思わないよ」

「いやいや自分で言うのも何だけど、目は釣り上がってるし、無駄に整った顔をしてるから、見た目だけなら悪女として申し分ないと思うよ?」

「サフィーが悪女でも悪女じゃなくても、悪い虫が寄り付かなくなればいいけどね」

「悪い虫って、私に好意を持つ男の人ってことのことだよね? そんな人いるわけないよ。それよりもルーカス王子に好意を寄せていた女の子たちに刺されないかが心配だよ」


 そんなことを口にしたら、さっそく私の前にとっても可愛い女の子が立ちはだかった。


「サフィー様……」


 明らかに絶望を滲ませているハイネちゃんだ。


「おはよう、ハイネちゃん。どうしたの? とても具合が悪そうだよ?」

「おはようございます……」


 挨拶を返してくれたものの、その表情はやはり芳しくない。ちらりとルーカス王子を見ては今にも泣き出しそうで。


 その姿を見てしまっったら、ハイネちゃんはルーカス王子のことが好きなのかも、嫌いな素振りで逆に気を引こうとしていたのかも、と思ってしまったのも束の間、ハイネちゃんが声を荒げた。


「失礼を承知で伺います。サフィー様は浮気をされているのですか!?」

「私が浮気!? 浮気なんてするわけないじゃない! どうしてそんなことを言うの?」

「だって、ニイットー王子殿下が婚約者ではなかったのですか? よりによって、光魔法使いの……」

「違う違う!! ニイットー王子と私は何の関係もないから!! 私の婚約者は初めからルーカス王子だもの。それにルーカス王子が光魔法使いだから好きとかじゃなくて、ルーカス王子だから好きなの!!」


 そこでハッと気づき赤面する……私、何を盛大に告白してるんだ。


 ちらりとルーカス王子を見ればとても嬉しそうに「もう一回言ってみて」と言うものだから、余計に恥ずかしくなる。それに本当のことだから訂正するのもおかしいし。


「嘘……それではニイットー王子殿下は……」


 そこで私はピンと来た。ハイネちゃんはニイットー王子のことが好きなのかもしれない。


 何をどう間違えたのか、乙女ゲームのバグでなのか、はたまたニイットー王子の地道な頑張り(再現)のおかげか、ルーカス王子役にニイットー王子が選ばれてしまったのかもしれない。


 もしそうだとしたら、私はモブとして特等席でニイットー王子演じるルーカス王子ルートが見られるということ。それはそれで楽しみかも。


 ええいっ! 聞いちゃえ!!


「もしかして、ハイネちゃんはニイットー王子のことが好きなの?」

「私がニイットー王子殿下を、ですか?」

「そう! だってニイットー王子のこと心配してるのよね? それってすごく気になってるってことだよね?」

「私なんかに優しく接してくれたとても素敵な方ですから、幸せになって欲しいです。でも、不敬になるとかは抜きにしても、ニイットー王子殿下のことが好きという感情は全くないですよ。だって、私が好きな人は別にいますから」

「え!? ハイネちゃんには好きな人がいるの? それって私の知ってる人?」


 恋バナはテンションが上がる。


 それにヒロインの好きな人ってことは攻略対象者が判明するということ。今がまさに分岐点。


「はい。……おそらくサフィー様の知っている方ですよ」

「そうなの!? もう早く言ってよ! 協力するよ!! あ、もちろん婚約者がすでにいる人だったら応援はできないけれど」


 ルーカス王子ではないことは確定済みなので、協力できることは協力したい。


 私が出した条件、婚約者がいる人以外ってことになると攻略対象者たちも必然的の除外になってしまう。


 だから気まずい顔をするかな、と思ったけれど、その予想に反して満面の笑顔が弾けた。


「本当ですか! サフィー様の協力がなければ絶対に無理だと思ってたんです!! だって私が好きなのは、……」


 突然ハイネちゃんの言葉が詰まる。やっぱりいけない恋をしているのだろうか?


 でもここまで聞いてしまったら、ここで引くわけにはいかない。


「好きなのは?」

「ええっと、あの、……あ! 王様です!! 私の好きな人は王様なんです!!」

「「王様!?」」


 ハイネちゃんの告白に、私とルーカス王子は同時に顔を見合わせてしまった。


 そしてハイネちゃんには聞こえないように作戦会議。


「王様って、国王陛下のことだよね? てことは、ルーカス王子のお父様ってことでいいんだよね?」

「う、うん。普通なら、自国の王様のことを指すと思う。ロバーツ王国の国王陛下のことなら隣国の王様とかロバーツ王国の王様って言うと思うから。でもまさか……」


 流石に自分の父親が好きだと宣言されたルーカス王子は動揺を隠せないらしい。


「もしかして、ルーカス王子のことを避けていたのは恋敵の息子だから?」

「いや、まさか……それならニイットーも同じだし」

「確かに。じゃあさ、ルーカス王子とニイットー王子の決定的な違いが関係してるのかな? そうなると、正妃の子と側妃の子ってことが一番分かりやすい違いだよね?」

「……サフィー、他にもたくさんあると思うんだけど」


 不服そうなルーカス王子は無視して、私はその線で考えた。


「もしかして正妃になりたいってことじゃない? 正妃の座を奪う、略奪したいってことかも! あぁっ! 確かに続編の裏テーマは略奪愛だってノルンちゃんが言ってたかも。私以上の悪女だね!!」


 そんな悪女疑惑が持ち上がったハイネちゃんは、というと期待に満ちた眼差しで私を見てくる。


 チェスター王国は一夫多妻制だし、すでに国王陛下には側妃様がいらっしゃるという前例があるのだから、ハイネちゃんの恋の応援を断る理由にはならない。


 けれど、百歩譲ってケール王妃様が認めたとしても、先ほどから何とも言えない微妙な表情のルーカス王子のために協力はできかねる。


 だから、それとなく諦めてもらう方向で。


「えっと、ハイネちゃん、年齢差とかは気にしないの?」

「年齢差ですか? そんなものはあってないようなものじゃないですか!」


 どう考えても国王陛下とは二十歳近く離れているはずだ。それを平然と関係ないと言えるハイネちゃんは本気だ。


「でもさ、年上だと先に死なれたら、って不安にならないの?」

「いつ死ぬかなんて誰にもわからないことですから。アカデミーに入学してから私も何度も死にかけましたし」

「えっ……」


 やっぱりハイネちゃんは病弱なんだ。確かに入学式の時も生気を失っているのではないかと思うほど具合が悪そうだった。


「私、本気なんです。王様以外考えられない。ずっとずっと好きで、忘れられなくて。……実はスーフェ様にも頼んだんですけど、会わせてさえもらえなくて」


 そこでルーカス王子がこっそり教えてくれる。


「母様に聞いた話なんだけど、実はスーフェ様、父様が側妃を迎えた時、めちゃくちゃ怒ったらしいんだ」

「お母様、一夫多妻制は反対派だからね」


 前世の記憶がある私も一夫多妻制には抵抗がある。


「だからサフィー様だけが頼りなんです!! って、もう講義が始まっちゃう! サフィー様、後でゆっくりお話しさせてくださいね」

「え、う、うん……」


 協力者を得た嬉しさか、ハイネちゃんは満面の笑みで走って行った。残されたのは戸惑いを隠せない私とルーカス王子だけ。


「ル、ルーカス王子も講義が始まるんじゃない? 私はまだだけど」

「……」

「ルーカス王子?」

「えっ、あっ、うん。行ってくる……」

「行ってらっしゃい」


 ふらふらとしたルーカス王子が心配だ。


「ルーカス王子、大丈夫かな? 攻略本(前編)には書いてない新事実なんだね」


 ヒロインが選んだルートが、親子ほど年の離れた国王陛下だというまさかの展開に、普通ならあり得ないだろうと私は考えを巡らせる。


 巡らせた結果、一つの可能性に辿り着いた。


「もしかして、隠しルート!?」


 あり得る。マジアカにも隠し攻略対象者がいてもおかしくない。


 マジ恋では隣国の王子様という特別感満載のルーカス王子が隠し攻略対象者だった。


 だからと言って、他国の王子様を隠し攻略対象者にしてしまってはマジ恋と被ってしまう。面白みがない。


 だから予想を遥かに裏切って、しかも略奪愛という裏テーマにも該当する人物、既婚者の国王陛下がマジアカの隠し攻略対象者違いない。





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