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浮気現場、押さえたり!

「サフィー久しぶり、元気だったか?」


 久しぶりにラズ兄様に会えて思わず泣きそうになってしまった。本当に安心感が半端ない。


「どうした? どこか痛いのか?」

「いえ、ラズ兄様に会えたのが嬉しすぎて。助けてくれてありがとうございます。さすがに死ぬかと思いましたよ」

「もっと早く来られたら良かったんだけど、探すのに手間取った」


 そう言えば、ラズ兄様に貰った髪飾りはお母様に預けたままだ。あの髪飾りに込められている魔力を辿って私の位置を把握するんだっけ。


「私に何か用事ですか? もちろん用事なんてなくても嬉しいですけど!」

「母様から頼まれ物をしたんだ。サフィー絡みじゃなかったらもちろん断るつもりだったけどな」


と言いつつも、きっとお母様の頼みじゃ断れないだろう。


「もしかして、ラズ兄様があの悪い魔物をどうにかしてくれるんですか?」

「悪い魔物? 何のことだ?」


 ラズ兄様は本当に何も知らないらしく首を傾げる。


「この辺り一体を極寒の地に変えてしまったりする魔物がいるんです。お母様に相談したら、どうにかできる人を手配してくれるって言ってくれたんで、てっきりラズ兄様のことかと思いました。でも違うんですか?」

「それは俺らのことじゃないな。俺らは届け物をしに来ただけだから」

「お届け物? それなら一体誰が解決してくれるのでしょう?」


 そう思っていると、ラズ兄様はため息をついて呟いた。


「だからアイツがいたのか……」

「あの、アイツって誰のことですか?」

「いや、何でもない。……あ、あいつがいたんだ」

「だから、誰のことですか!?」

「ジェイド、……じゃなくてルーカスのことだ」

「ルーカス王子がいたんですか? でもルーカス王子は今頃ヒマラ山にいるはずですよ?」


 結局、攻略本の存在に動揺して地図を確認するのを忘れていた。ヒマラ山って一体どこにあるのだろう?


 そんな私の言葉にラズ兄様は心底呆れた様子で教えてくれた。


「サフィー、お前何言ってるんだよ。ここがヒマラ山だよ」

「……えぇっ!? ここがヒマラ山ですか!?」


 まさかの事実が判明した。今いるこの場所がヒマラ山。エッティ村のすぐ目の前。


『だから、エッティ村からとーっても近いって教えてあげたじゃん』

「近いとかそんなレベルじゃないよね?」


 心配して駆けつけてくれたアオはそう言うけれど、同じ場所だと言ってもいいと思う。ていうか、ルーカス王子も教えてくれればよかったのに。


 教えてくれていれば、ここまでの道中もニイットー王子とじゃなくてルーカス王子と一緒に来れたのに。


 いや、お母様も“敢えて”と言っていた。


 つまり、ルーカス王子はわざと教えてくれなかったのかもしれない。と言うことは、もしかして……


 サーっと青褪めた。もう嫌な想像しか浮かばない。

 

「言ってる側から来ちまったし。なあサフィー、何があっても俺が黒猫になれることは絶対に秘密にしろよ」

「えっ? はい」

「ルベの名前も存在も、絶対に出すなよ」


 ラズ兄様がどうしてそんなことを言うのか分からなかったけれど、もともとラズ兄様たちの秘密は誰にも言うつもりはない。


 そう思っていると、いつのまにか目の前にはハイネちゃんがいた。


「あれ? ハイネちゃん?」

「あー! サフィー様!! お久しぶりです〜!!」

「久しぶりね。ハイネちゃんもアカデミーの課題?」

「はい! ヒマラ山を中心に展開されている魔法の歪みと異常気象の関係を調べて解決するために調査しに来たんです」

「……何だかとても難しそうだね。それに、大丈夫? すっごく疲れてるようだよ?」


 顔色も悪い気がする。体が弱いのに無理してここまで来たからかもしれない。


 心配していると、ハイネちゃんはちらりと後方を見る。少し離れた場所に……いた、ルーカス王子だ。


 ルーカス王子は私と視線を合わせないようにしている。そんなあからさまに避けなくてもいいのに。


 敢えてヒマラ山といった理由。ハイネちゃんと内緒の旅行で、浮気するつもりだったから。


 ハイネちゃんも、浮気がバレるのが怖くて顔色が悪かった可能性も……


 もはやそうとしか考えられなくなっていた。


 もしかしたらあの攻略本に、アンソニー様ルートのイベントのことが書いてあったのかもしれない。


 攻略本を駆使して、アンソニー様の役割をルーカス王子が奪おうとしていたとしたら……


 全ての攻略者とのイベントをルーカス王子が成し遂げようとしていたら……


 最終的には好感度爆上がりに決まっている!!


 嫌っ、そんなの絶対に嫌なんだけど!! でも、ルーカス王子に限ってそんなことあるはずない!!


 今すぐルーカス王子の胸ぐらを掴んで問いただしたい。けれど他人のふりをする約束だ。他人のふり……


 本当にこのまま他人のふりをしなければならないの?


 葛藤の中、悔しいけれどルーカス王子に問いただすのはやめた。そもそも胸ぐらを掴むなんて野蛮なことできないもの。


 それに、私のためを思ってくれているルーカス王子を信じなければいけないよね。


「伝えてしまえば楽になるとは思うんですけど、でも、私が我慢すれば済む話ですから……」


 我慢って、伝えるって!! それってやっぱりルーカス王子のことが好きってことだよね?


 好きだけど、婚約者(私)がいるから好きと言う気持ちは秘めたままでいると。それをその婚約者(私)に言う!?


 もしかしたら私が婚約者だと知らない可能性もある。だってルーカス王子と私は他人のふり……


 やっぱり他人のふりなんて嫌だよ!!


「それに、出発する直前にスーフェ様からお話を伺って、異常気象の原因は分かってはいるので簡単に解決できそうです!」

「えっ? お母様?」

「あれ? スーフェ様はサフィー様からのご相談って仰っていましたけど?」

「じゃあ、ハイネちゃんがあの魔物に関して解決してくれる人ってことなの? それはさすがに危険だよ!?」

「大丈夫ですよ! むしろ楽しみなくらいです」


 楽しみって、何があってもルーカス王子が守ってくれるだろうから、ってこと?


 もしかしたらハイネちゃんはとっても頭が良いから全てが計算で、プラシーボ効果狙いなのかもしれない。


「ところでサフィー様、そちらの方はもしかして?」


 ハイネちゃんちゃんがちらりと視線を移したのはラズ兄様だった。


 さすがヒロイン! ラズ兄様に関心を持つなんてお目が高い!!


……って、攻略対象者じゃないラズ兄様まで狙うつもりじゃないでしょうね!?


「私のお兄様です!! 絶対に好きになっちゃダメですからね!!」

「ふふ、兄妹仲良しなんですね。……羨ましいです」


 最後に少しだけ淋しそうに呟いていた。そんなハイネちゃんと挨拶を交わすことなくラズ兄様は言う。


「サフィー、寒いから俺らは先に帰ってよう。アオ、上の奴らに伝えに行ってくれ」

『ラジャー!』


 ノルンちゃんの時もそうだったけれど、ハイネちゃんほど可愛い女の子が目の前にいてもラズ兄様は素っ気ない。


 ラズ兄様ってどんな女の子が理想なのかな? 浮いた話のひとつも聞かないし、女の子を連れてくることもない。やんちゃなことだって……


 そこで思い出される唯一のやんちゃなことーーいつの日かの朝帰り。


 はっ!? やっぱりラズ兄様ってルーカス王子のことが……


 ルーカス王子が訓練をしていただけだとはっきりと否定してくれたからと言って、ラズ兄様の本当の気持ちまでもをルーカス王子が否定できるわけがない。


 そう思っていると、ラズ兄様にため息をつかれた。はい、ないですよね、ごめんなさい。


 それからすぐに、アオは崖の上から心配そうに覗き込んでいるナタリー様とアンソニー様に無事を伝えに行ってくれた。


「なあ、サフィー」

「何ですか?」

「あれは危険だから絶対に近づくな」

「あれって、ハイネちゃんに、ですか?」


 もしかしてラズ兄様は気付いているのだろうか? ハイネちゃんの中に魔族の魂があるということに。


「いや、アイツはサフィーに害するようなことはないってよ」

「え? じゃあ、ルーカス王子ですか?」

「あいつは不器用っていうか、本当にばかだよな」


 一国に王子にばか呼ばわり。相変わらず不敬だけど、今回ばかりはもっと言ってやれと思ってしまう。


「本当ならあいつの味方をするつもりはないけど、さすがに同情はするから、優しいお兄様からにアドバイスだ。あいつは誰がどう見てもサフィーにベタ惚れだ。だから、信じて待っていろ」

「……でも」

「それにハイネの方があいつじゃ無理だって」

「ハイネちゃんが無理? どうしてですか?」


 マジアカのストーリーではヒロインと攻略対象者だ。ハイネちゃんがルーカス王子に惹かれるはずなのに、ラズ兄様はどうして言い切れるのだろうか。


 不思議そうにラズ兄様を見ると、ラズ兄様は他人事のように笑っていて。


「だって、正反対だから」

「正反対?」

「ああ」


 よく分からなかったけれども、それだと危険な人って他に……


「……もしや、チェックスターくん!?」


 ハイネちゃんとルーカス王子と一緒にいたのは、チェックスターくんだった。人としてカウントしていいのかは微妙だけど。


「どうしてですか? どうしてチェックスターくんが?」


 みんなの愛されマスコットキャラクターなのに。


 ふと思い出してみると、先ほど私がハイネちゃんと話していた時、チェックスターくんはラズ兄様に擦り寄っていた。距離が近かった。


 初対面で距離が近い変な着ぐるみ。確かに危険かもしれない。


「……あのヘンテコなのは魔力を遮断している。どうしてそんなことをしているかはわからないけれど、大体そういう時は碌でもない存在が関わってるに違いない」

「でも、チェックスターくんですよ! みんなの愛されマスコットキャラクターですよ!?」

「いや、絶対に関わらないのが一番だ」

「……魔力を遮断だなんて、そもそも今まで他の人の魔力なんて気にしてなかったです」

「冒険者をやってると自然と相手の持つ魔力には敏感になるからな。俺だって必要に迫られなかったら気にしてなかったさ。とりあえず帰るぞ」


 そして、ラズ兄様と一緒に村長さんの家に帰ってきたら、ぬくぬくとしていたニイットー王子が「どうして無事で帰ってくるんだ」と驚いていた。やっぱりか。


 けれど、ある意味イベントが発生した(落ちたのはハイネちゃんじゃなくて私だけれど)のに、その場に居合わせることのできなかったニイットー王子がとても悔しそうで、その姿を見て少しだけスッキリした。


 ありがとう、ニイットー王子。



 そしてその夜、アオに散歩に行こうと誘われ外に出ると、そこで待っていたのはルーカス王子だった。





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