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私にできること

「ケール王妃様、遅くなってすみません」

「サフィーちゃんお帰りなさい。さあ座って!」


 今日は私が専攻している講義が午前中だけだったので、ケール王妃様にランチに誘われていた。


 アカデミーから急いで戻りケール王妃様を訪ねると、当たり前のようにお母様も座っていて。


「お母様もいらしていたんですね」

「サフィーちゃんの様子を見にきたのよ。こわいこわーいケールに、いじめられてないかなって」

「スーフェにだけは絶対に言われたくないわ。サフィーちゃんが帰ってくるまで大変だったんだから」

「春先に訓練したからって油断してるのが悪いのよ」


 察した。また奇襲をかけたのだろう。国王陛下に会わす顔がない……


「もうっ、お母様ったら!! それにケール王妃様をこわいなんて思ったことは一度もないです! お母様のご心配には及ばず、みなさんとっても優しいのでとっーても平和に過ごしています!」


 むしろ平和すぎるくらいだ。


 毎日アカデミーに通い、勉強をして、同じ講義を受けている子たちとも少しずつ話もするようになって、まさにキャンパスライフを満喫している。


 ただ一つ残念なことは、ルーカス王子が本当に忙しすぎるということ。


 最近ではアカデミーに通うだけでなく、王族としての公務も行なっているので、隣の部屋なのに会う機会がめっきり減ってしまった。


 淋しいのはもちろんだけど、公務をしているという話を聞くと、ルーカス王子だけどんどん大人になっているのに、私はまだ全然未来が見えていないから、置いてかれている気がしてどうしたらいいかわからなくなる。


「ところで、サフィーちゃんはニイットーと一緒に魔もの学のレポートのために現地調査に行くんですって?」

「はい! グリーン男爵領にあるエッティ村というところに行ってきます」

「まあ! エッティ村!」


 エッティ村という名前を出した瞬間、すごい勢いでお母様が食いついてきた。


「お母様はエッティ村をご存知なのですか?」

「もちろんよ! 懐かしいわね〜!! ケールはもちろん覚えてるわよね?」

「当たり前よ!!」

「「ベロニカの美味しい水!!」」


 二人で声を揃えて何やらとても楽しそうだ。


「ベロニカ王妃様の美味しい水、ですか?」


 美味しい水、というワードに覚えがある。普通の水だと思ったら大間違いだろうな。


「エッティ村の水はお世辞抜きでとても美味しいのよね」

「山奥で採れたという氷も絶品だったし」

「えっ!?」


 意外にも、本当に美味しい“水”のことらしい。でもどうしてベロニカ王妃様の、なんだろう?


「どちらもベロニカも大絶賛していたものね。そう言えば、最近手に入らないと嘆いていたわ」


 それもそのはず、今では飲み水の確保さえ難しいというのだから。


「サフィーちゃん、神妙な顔してどうしたの?」

「それが……」


 本当のことを言おうかどうしようか躊躇ってしまった。


 ニイットー王子の言う通り、ナタリー様のグリーン男爵家が取り潰しにならないためにも内緒にしておく方がいいのかもしれない。


 でも、やっぱり今のままにはしておけない。


 チェスター王国の国民が困っているのだから、解決できるものは解決するに越したことはないし、何より、お母様とケール王妃様が事情を汲むことなくお家取り潰しなんて非情なことをするわけがない。


 だから私はお二人に相談することを決めた。


「ケール王妃様、お母様、今、エッティ村に魔物が棲みついて悪戯をしているみたいなんです」

「魔物? もふもふちゃんのことかしら?」

「もふもふちゃん元気かしらね? でもスーフェ、もふもふちゃんは悪戯はしないはずよ?」


 もふもふちゃんとはおそらくもふ神様のことだろう。


 このお二人がこれほどまでに好印象を持つと言うことは、もふ神様はとっても素敵な魔物に違いない。


「いいえ、残念ながらもふ神様ではなく、もふ神様に大きさは似てるけどまったくもふもふしてない魔物のようです」

「……もふもふしてないけど大きさは一緒?」

「はい。数年前に突然もふ神様が姿を消して、代わりに魔物が棲みついて、一年中極寒の地へと変えてしまったらしいんです」


 お母様が頭の中にある魔物大全集を捲って、該当する魔物を探してくれているようだ。


 お母様もお父様に負けず劣らず魔物にはとっても詳しい。


「……あっ!」


 突然思い出したように声を上げた。そしてなぜだか苦笑いをしている。


「サフィーちゃん、それっていつ頃からか分かる?」

「えっと、私が中等部のころだって言っていました。お母様、何か知ってるんですか?」

「えっ、ああ、一応心当たりはあるわ」

「まさか……」


 お母様が今回の騒動の原因なのか、と私はお母様にじとりとした視線を向けてしまう。


「今回は私じゃないわよ!!」


 いつもは自分が原因だと自覚しているのだろう。


「極寒の地にしてしまうだけでなく、人を見て威嚇もするのよね……」

「はい。どうすればいいんですか? 私にもできますか?」

「この問題を解決できる人はそうはいないの。サフィーちゃんにもできるかもしれないけれど時間がかかってしまうと思うわ。だから今回は私の方で手配しておくわね」

「そう、なんですね……」

「そんなにがっかりしないで。こればっかりは仕方がないのよ。あまり言いたくはないけれど、物事には向き不向きっていうものがあるのよ。それにサフィーちゃんが教えてくれなかったら一生解決しなかったかもしれないし!」

「そう言っていただけると嬉しいです。ありがとうございます」

 

 少しだけ残念だけれど、私も力になれたってことだよね。


「それはそうと、エッティ村もベロニカの美味しい水だけでなく、他の産業にも力を入れるべきよね? ちょうど国内の貧困格差をどうにかしなきゃと思っていたのよね」


 領主任せにしてるからか、切り捨てられた村は廃村の一途を辿っており、ケール王妃様は国でどうにかできないかと考えていたそうだ。


「それなら私、エッティ村の話を聞いて思ったんです」

「なにかしら? サフィーちゃんのアイデアなら大歓迎よ!」

「エッティ村に転移の魔術陣を置いてみませんか?」

「転移の魔術陣? 医療体制の確保のための、ってやつよね? たしかにエッティ村は高齢の方も多いし、交通の便がとっても悪いから置けるに越したことはないけれど、それが産業と何か関係があるの?」

「そうよ、エッティ村は山ばかりで何もないわよ?」

「ちなみにお母様、温泉は?」

「まあ、掘れば出るとは思うわ」


 あるかないかではない、出るか出ないかだ。


「でもそれじゃ、フロランドの二番煎じじゃないの。そんなのつまらないわ」

「山なんですよね? 寒いんですよね? ちなみに雪は?」

「冬は大雪ね」

「お母様、人はそこに山があれば登りたくなると思いますが、雪山があったらどうしたくなりますか?」

「もちろん滑りたくなるわ」

「私をスキーに」

「連れてって」

「からの」

「温泉ではんなり気分。サフィーちゃん、あなた、天才だわ」


 でも私はスノボ派よ、というお母様のプチ情報。


「魔物の件はお母様がどうにかしてくれるとおっしゃったので、私はエッティ村をどうにか復興させたいと思います!」


 魔物との共生というレポートだけれど、もふ神様がお戻りになりたいと思える環境づくりも必要だ。そもそも村がなくなってしまったら共生どころではないだろうし。


「国の施作として考えるならルーカスも一緒に行ってもらおうかしら?」

「いえ、その日はルーカス王子もアカデミーの課題でお出かけすると言っていました。ヒマラ山って言っていたかな?」

「ヒマラ山? ……そう、サフィーちゃんには敢えてヒマラ山と言っていたのね」

「そもそもヒマラ山ってどこにあるんですか?」

「せっかくだし、エッティ村の場所と一緒に調べてみたら? この前ルーカス王子の部屋の本棚に国内の地図や情報が載った本を見たわ。そこらへんの紙っぺらの地図よりも正確な地図が載ってるしおすすめよ」

「勝手に部屋に入り込んでいた時ですね。ケール王妃様、聞いてくださいよ!! お母様ったらルーカス王子が不在だと言うのに勝手に部屋に侵入してるんですよ!!」

「スーフェだから仕方ないわね」


 スーフェだからで済んでしまうなんて。


 それから美味しいランチを終え他愛のない話をしてお開きになった。




「アオはヒマラ山って知ってる?」

『エッティ村ととーっても近かったと思うよ』

「本当! もし近かったら途中まで一緒に行けたりするかな! よし! ルーカス王子にお母様おすすめの本を借りに行こう!」


 いつも通り中通路を通り、ルーカス王子に部屋のドアを叩いた。


「ルーカス王子いますか?」

「……」

「いないみたいだね」

『入っちゃえば良いじゃん』

「でも……」

『いつでも入っていいって言っていたんでしょ? それにサフィーが作ったそれも、渡せないままになっちゃうよ?』


 それ、とは、忙しいルーカス王子のために作ったお菓子と手紙だ。


 さっき、会えないなら手紙でも書いてお互いのことを伝え合えば? とお母様にアドバイスをもらったから早速書いてみたのだ。


 お母様とお父様は、お母様が冒険の旅に出て会えない間ずっと交換日記のやりとりをしていたらしい。


 そもそも会えないのに交換日記をどうやって渡すの? と首を傾げたくなったけれど、お母様なら何らかの方法があるに違いない。


 結局私は、手紙とお菓子を置いて、本だけを借りてルーカス王子の部屋をすぐに出ようと決め、ルーカス王子の部屋に入った。


 お菓子と手紙をテーブルに置き、目的の本を探そうと本棚に近寄る。


 すると意外と早く見つかった。


 本はケースの中に入れられており、私は内容を確認するためにケースから本を取り出そうと手をかける。だって、難しすぎる本じゃ見る気もなくなるもの。


「……えっと、攻略本。……えっ?」


 本の背表紙にはなぜかそう書かれていて。


「しまい間違えたのかな? でも攻略本って?」


 本だけを借りてすぐに部屋を出ようと思っていたけれど、さすがに気になる。不可抗力だ。


「あ! チェスター王国を攻略するって意味の攻略本か!!」


 ポジティブに考えてみたけれど、それが運の尽きだった。本を取り出してさらに驚愕した。


「マジカルアカデミーSTEALゲーム☆攻略本 後編」


 しかも、表紙には見知った顔がならんでいて。


 ハイネちゃんを囲むようにルーカス王子とアンソニー様をはじめとしたキラッキラのイケメンが描かれていた。どう考えてもマジアカの乙女ゲームの攻略本だった。






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