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新規開拓「俺ルート」

「ニイットー王子!」


 ニイットー王子を捕まえて、私は心の底から叫んだ。


「本当にあり得ないんですけど!!」


 もちろん周囲には聞こえないように小声でだけど。


 学生同士同じ講義を専攻していない限り、この広いアカデミー内で会うことは滅多にない。


 しかも同じ講義を専攻していても、ニイットー王子は授業が終わるとすぐに教室から出て行ってしまう。間違いなく聖地巡礼のためだ。


 王城で待っていれば確実に会えるだろうけれど、他国の王城で他国の王子様に文句を言えるほど私の神経は図太くない。


 ゆえに今まで文句を言う機会がなかった。


 今日は珍しく教室に残っていたので、今しかないと、積もり積もった文句を爆発させた。


「そんな怖い顔をしてどうしたんだ? 続編でも悪役令嬢役をやるつもりか?」

「やりません!! 何ですか、その悪役令嬢役って。悪役令嬢のサファイアはマジ恋で死んでますから! って、そんなこと言わせないでくださいよ!! もうっ、入学式のことですよ!!」

「入学式?」


 しらばっくれるニイットー王子の態度が余計に腹が立つ。


「ノルンちゃんがいないからマジアカの世界じゃない、とか言ってたくせに、わざと入学式で出会いのイベントを再現しましたよね?」


 マジアカの出会いのイベントなんて、マジアカのゲームをやっていない私が知るはずがない。


 けれど、入学式でのあの出来事は絶対に出会いのイベント、しかもスチルシーンだと思う。


 倒れるヒロインのハイネちゃんを攻略対象者が抱きかかえて保健室に連れて行く。


 絶対に口には出したくないけれど、あの時のニイットー王子は本当に王子様みたいで格好良かったもの。


「……違うんだ」

「何が違うんですか! マジアカのスチルシーンの再現。絶対に確信犯ですよね?」

「違う! 断じてわざとではない。ノルンがいないからマジアカの物語は破綻していると信じて疑わなかった。ましてやイベントが発生するなんてこれっぽっちも思っていなかったんだ」


 信じてくれと言われても全く信じられない。無言で疑いの眼差しを向けているのに全く気付いていないのか、ニイットー王子はさらに訴える。


「だって、ノルンがいないんだぞ? それにルーカスもアカデミーに入学している。認めたくはないけれどマジアカの攻略対象者はルーカスで、俺は死んでいるはずの第三王子だから。……でも俺の思いとは裏腹に、気付けば俺はヒロインを、ハイネを探していたんだ」

「いや、あの時のニイットー王子は絶対にハイネちゃんを見つけようと思って探していましたよね?」


 私と会話しながらもキョロキョロと誰かを探していた。それはもうあからさまに。


「ハイネの姿を視界にとらえた瞬間、俺の体は動いていたんだ。気付けば俺はハイネを抱きかかえていた。きっと無意識のうちに俺の本能が……はっ!? もしやこれが噂の物語の強制力ってやつか!?」

「そんなの絶対にありませんから!!」


 私は絶対に物語の強制力だなんて認めたくはない。


「きっとそうだ。神様が俺をマジアカの攻略対象者の一人だと認め、さらにはハイネが俺を攻略対象に選んでしまったんだ。はあ、俺は普通のアカデミー生活を送ろうと思っていたのにな。仕方がない。腹を括るしかないな。不本意ながらルーカス役を演じてやるか」

「乙女ゲームと同じ世界を作ろうとする神様なんているわけないでしょ!!」


 神様の存在を信じていないわけではない。けれどラノベ的なふざけた神様は絶対に嫌だ。


 それにラノベの神様と言ったら転生時に特別なチート能力を与えてくれるものだけれど、結局私にはチート能力はなかった。


 ノルンちゃんからもそんな話は聞いたことがないし、聖魔法はマジ恋の設定だから神様から特別に与えられたチート能力とは違う。


 もちろんニイットー王子にもあるはずがない。


 約一名、明らかにおかしい転生者を知っているけれど。でもまさかねぇ……


「それにしてもサファイアがノルン役か。……神様がお決めになられたのならそれに従うしかないだろうけれど……」


 ため息を吐いて残念そうに私を見るニイットー王子に、すかさず拒否の構えを見せる。


「絶対に嫌ですから! 絶対に私を巻き込まないでくださいね! 私はモブとしてアカデミーを満喫するんですから!!」


 モブ万歳! モブこそが青春を味わえるんだから。


「残念だが、そうも言ってはいられないぞ」

「えっ、どうしてですか?」

「物語はもう動き出している。さっきの講義、聞いてなかったのか?」

「グループごとに魔族や魔物に関するレポートを書くって話ですよね? 楽しみだったんですよね!」


 今まで“魔もの学”という講義を受けていた。


 高等部で学んだ魔物学とは少しだけ違っていて、その名の通り、“魔”の付く“もの”についての学問、魔族(者)や魔物について学ぶことができる。


 ロバーツ王国では魔物の存在については広く認知されているけれど、魔族についての話はほとんど聞かなかった。


 けれどチェスター王国では、魔族は存在するという認識が強く、魔族との共生を目指して、国を挙げて研究を進めているのだとか。


 私もラズ兄様に魔族の魂云々の話をされていなかったら、乙女ゲームに魔族なんているわけがないと言って、魔もの学を専攻しようとは思わなかったと思う。


 それに、魔もの学では現地調査をしてグループごとにレポートを提出するという課題がある。


 グループ学習、しかも旅行(現地調査)付き。意見の衝突もあるだろうけれど、それを乗り越えて仲を深めることができるに違いない。


 それはつまり、信頼できる友達ができるかもしれないということ。


「今に分かる。ほら、グループのメンバーが集まって来たぞ。乙女ゲームとか言っていたら、頭がおかしい人扱い必須だからな」

「それくらい分かってますよ!!」


 今日に限ってニイットー王子が教室に残っていた理由。


 それは、これからグループごとに集まって、出された課題について話し合うからだった。


 ニイットー王子の話から察するに、このグループが大きくマジアカの物語に関係してくるに違いない。不安だ。


 と言うことで、集まってきたメンバーをおそるおそる確認すると、黒髪美女のナタリー様と、少し気弱そうだけどとっても優しそうなアンソニー様だった。


 お二人が乙女ゲームの登場人物だと言われたら納得せざるを得ないだろう。


 特に黒髪美女のナタリー様。釣り上がり気味の目だなんて、何役かを想像できてしまう自分が悲しい。


 だからこそ親近感を覚えたので、ぜひお友達になれたら嬉しい。それに黒髪つり目だなんて黒猫ちゃんとお揃いだし。


 そんな風にナタリー様を見ていたら目が合った瞬間、ぷいっと顔を背けられた。


 どうしよう、お友達を作るのって難しいかも……


 

 


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