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イベントは起こした者勝ち!

「ねえ、アオ〜。ニイットー王子の俺ルート発言をどう思う? あれで本当に出会いのイベントが発生したと思う?」

『出会いのイベントが発生したかって、つまり乙女ゲームの続編ってやつが始まったかどうかってことでしょ?』

「そう! もしも本当にマジアカの物語が始まってしまったとしたら、私はどうすればいいと思う?」

『どうすれば、って、どうもしなくていいんじゃないの?』

「もうっ、アオったら他人事なんだから!!」

『サフィーにとっても他人事でしょ? アカデミーではモブに徹するって決めたんだから』

「まあ、たしかにそうだよね。百歩譲ってニイットー王子がルーカス王子の代わりに俺ルートを切り開いて物語が始まったとしても、モブの私に出来ることはなさそうだものね」


 ディナーを終え王城の部屋へと戻ってきた私が、アオに向かって誰にも言えずにいた不安を吐露していた。


 ニイットー王子の俺ルート発言。自意識過剰の意味不明なあの発言のせいで、どうしても一抹の不安が拭えなくて。


「アオのおかげで気が楽になったよ〜! アオ大好き〜!!」


 思う存分もふもふを堪能していると、突然隣の部屋ーールーカス王子の部屋からガタガタっとものすごい音がした。


「アオ、今すごい音がしたよね!?」

『うん。でも気にしなくていいと思うよ』

「いやいや、さすがにあの大きな音は気になるでしょ」

『あ〜あ、せっかくのサフィーとの時間が邪魔されたよ。昼間はアカデミーでいないから一緒に遊べないし。どうせならボクも一緒にアカデミーに行きたいよ』


 嬉しいことを言ってくれるアオにきゅんと胸がときめく。


 アオは王城でお留守番をしてくれている。今日はケール王妃様と一緒に王城の中を散歩したり、ティータイムをするなどして優雅な1日を過ごしていたみたい。


 それはそれで疲れるんだよ、と寝転がったまま動こうとしないアオを部屋に残して、私はルーカス王子の部屋へと向かった。


 何が起きたのかな、と不安に思いながらノックをすると、間髪入れずにドアが開いた。


「サフィーっ、ただいま!」

「お、お帰りなさいっ」


 そしてぎゅっと抱きしめられた。抱きしめたまま離れようとしないルーカス王子のいつもと違う行動に、不安は増すばかりで。


「ねえ、どうしたの?」

「ん? サフィー不足だよ」

「……」


 やっぱり少しだけおかしい。でも、


「ふふっ、なにそれ」


 その返答はちょっと嬉しい。


「だって、すぐ近くにサフィーがいると分かっているのに会ったらいけないだなんて、本当に辛いんだけど……」


 それならどうして他人のふりをしようなんて言ったの?


 そう問い質したかったけれど、その答えはこの前聞いた通り“私のため”だろうから、ぐっと我慢した。


 ルーカス王子のいつもと違う行動の理由は分かったけれど、もう一つ、先ほどの大きな音の理由についても解決しなくては。


「ところで、さっきすごい音がしたよね?」 

「ああ、驚かせちゃった?」

「うん、突然大きな音がしたからびっくりしたよ。何があったの?」

「本を探していたらバランスを崩して落ちただけだよ」

「えっ! 怪我しなかった? 大丈夫!?」

「全く心配いらないよ。そんなことより、サフィーは今時間ある? 少しだけ話せないかな?」

「ある! 私もルーカス王子とアカデミーでの出来事を話したかったの」


 本が散らばっていて汚いから、ということで、私の部屋に移動してお互いに今日の出来事を伝えあった。


 アカデミーで一緒にいられないからこそ、こうやってお互いのことを話し合えるこの時間が、より一層特別なものに感じる。


「先にルーカス王子の話が聞きたいな。入学式はどうだった?」

「俺? えっと、……絡まれた」

「絡まれた? って誰に?」

「ノ、リノリで入学式に参列していたチェックスターくんに」


 本当は知られたくなかったんだけど、と言いながらも教えてくれた。けれどその情報は遥か後方にいた私の耳にもすでに届いていた。


ーーー第二王子、チェックスターくんに絡まれてるってよ


 ひと目見たかったその光景。


 想像して必死に笑いを堪えて肩を震わせていると、それに気付いたルーカス王子は文句を言う。


「笑い事じゃなくて本当にタチが悪いんだから!! サフィーは絶対にチェックスターくんに近付いたらだめだからね」

「えぇ〜!! でもまあ、お近付きになりたくても私には雲の上の存在だよ。だって、チェックスターくんは入学試験で一位なんでしょ?」


 さすが学問の先進国。ゆるキャラマスコットの設定が頭脳明晰だなんて。


 チェックスターくん、裏口入学か否か。前代未聞の好成績で入学を果たす。

 チェックスターくん、伝説を作る。不敬罪で入学初日に退学か。


などなど、入学初日から話題の的で、今やルーカス王子とチェックスターくんの存在を知らない者はこのアカデミーには存在しない。


「俺のことより、サフィーはどう? 友達はできた?」

「友達、というか、ハイネちゃんっていう女の子と仲良くなったかな」


 果たして仲良くなったと表現して良いものなのか些か疑問ではあるけれど、わざとハイネちゃんの名前を出したのには理由があった。


「ホワイト伯爵家って言ってたから、もしかしたらルーカス王子も子供の頃に会ったことがあるかもしれないね」


 白々しく聞いた私だけれど、結局のところ幼馴染み設定があるかどうかが知りたいだけ。


 私が不安なのは、“俺ルート”の出会いのイベントが起きたせいで、モブの私は関係ないにしても、本来の攻略対象者であるルーカス王子の心が私以外の誰かーーハイネちゃんに強制的に向いてしまうのではないか、ということ。


 ルーカス王子を信じてないわけではないけれど、高等部時代、どうにかして防ごうとしてもマジ恋のスチルシーンらしきものは起こってしまった。


 だからこの先、マジアカのスチルシーンが起きてしまう可能性もあり得るわけで。


 そしてそのスチルシーンがどのようなものか、私は知らない。だから少しの異変も見逃さないように、ルーカス王子の反応を窺うしかないのだ。


「ホワイト伯爵家のことはもちろん知ってるけど、ハイネ嬢には会ったことないよ」

「本当!」

「とても箱入りのお嬢様で、高等部に通う以外ほとんど姿を見せたことがなかったみたいだし」

「そうなの?」


 保健室で話した感じではとても人懐っこそうで引きこもるようなタイプには見えなかった。


「もしかして、とても身体が弱いのかな?」


 入学式で突然倒れたのもそのせいかもしれない。すぐに顔色が戻ったからと言って、大病を患っていないとは言い切れないし、入学式で感じた儚げな印象も気のせいではないのだろう。


「どうだろう? 入学式の時も席にはいなかったし、……ハイネ嬢がいれば俺が絡まれずにすんだのに」


 最後にぼそりと呟かれた言葉に、どれだけ大変な思いをしたのかが伝わってきた。


「ルーカス王子とチェックスターくんの間の席がハイネちゃんだったんだね、……待って! ハイネちゃんってそんなに頭がいいの!?」


 チェックスターくんは一位で、ルーカス王子は三位だった。ということは、ハイネちゃんが二位。


 頭脳明晰というキャラ設定のチェックスターくんを除けば、ハイネちゃんが一位だということ。マジアカのヒロインすごすぎる……


 でもようやく私の不安も晴れてきた。


 ルーカス王子はハイネちゃんに出会っていない。出会っていないということは、さすがに芽生えるものも芽生えないだろう。


「サフィーはハイネ嬢とは、その、仲良くなるきっかけとか何かがあったの?」

「えっ?」

「深い意味はないんだけど、ハイネ嬢のことを気にしてるみたいだから」


 ルーカス王子にはマジアカの話は一切していない。私自身モブに徹すると決めたし、アカデミーでまで要らぬ心配をさせたくないから。


 でもここで嘘をつく必要もないから、入学式であった出来事をきちんと話すことにした。


「入学式でハイネちゃんが倒れる瞬間に居合わせたんだけど、ニイットー王子がハイネちゃんの調子が悪いことに気付いて、倒れる寸前に助けてあげたって出来事があったの。間一髪怪我せずにすんだけどそのまま意識を失っちゃって。それで私も保健室まで付き添ったの」

「入学式で倒れた? 保健室!?」


 ルーカス王子は一気に青褪めた。


 その表情を見て私は確信した。やっぱりハイネちゃんは重い病を患っているのかもしれないと。


 ルーカス王子はこの国の王子様だから、この国の貴族に関する噂は耳に入ってくる筈だ。だから箱入りのお嬢様だと言う話も知っていた。


 それか、考えたくはないけれど物語の強制力がルーカス王子の感情にまで作用しているか。


 後者であってほしくないと、私はその考えを排除するかのように必死で違う話題を探した 。


「でもすぐに元気になってたよ。そうだ! ルーカス王子は特講は何にするか決めたの?」

「特講?」


 ずいぶん話が飛んだね、とルーカス王子が笑う。私自身も明らかに下手な話題転換の術だったと思う。


「いろいろと迷ったけど、医学を専攻することに決めたよ」

「本当! 私もだよ」

「魔術はイーサン先生に習うことができるけど、医学はそうもいかないからね」

「ノルンちゃんにお願いしたら、あとが怖いしね……」


 通常の学科選択の他に、特講と呼ばれる特別な講師を招いた特別な講義がある。


 特講は誰でも希望通り受講できるわけではなく、適正があるかどうかで判断される。


 その特講に今年から医学と魔術、調理、美術が増えたのだ。しかも特講には人数制限があり、その中でも一番狭き門なのが医学だと言われている。


 そしてその医学こそが私がアカデミーに通いたいと思った理由の一つでもある。


 医療改革をどうするかと考えた時、圧倒的に人手不足だという現実を突きつけられた。


 だからこそ、聖魔法が使えなくても私自身がお医者さんになることができたら、たくさんの人の命を救えるのではないか、と思ったから。


 前世からお医者さんは私の憧れでもあるし、尊敬する職業でもある。


 前世の私には、医学の専門知識はなかったけれど、自分自身が病を患っていたからこそ持ち得た知識はある。


 その中の衛生管理に関する知識をこのチェスター王国で実際に広めている最中だから、そのあたりのことをアカデミー側が加味してくれれば、人数制限があっても医学を専攻したいという希望が通る可能性が増すに違いない。


「話を戻すけど、サフィーはどうしてニイットーと一緒にいたの?」

「えっ?」


 そう言われてみればそうだ。


 ニイットー王子のことだから、聖地巡礼だと言いながらアカデミーをくまなく歩き回りたかったはずだ。


 だから私の隣で大人しく入学式に参列していることがぶっちゃけ珍しいと思った。


 知らない場所でルーカス王子にも頼れなくて不安だったから、ニイットー王子が隣にいてくれて私的にはありがたかったのも事実だけれど。


「私が一人で不安に思わないように一緒にいてくれたのかな?」


 ニイットー王子にも優しいところがあるんだね。まあ、最後にはハイネちゃんを助けるという聖地巡礼、というか再現をしていたけれど。


 そこで思い直した。ニイットー王子に人を思いやる優しさなんて持ち合わせていないだろうと。


「やられた……」


 ニイットー王子はノルンちゃん(先生)と同じくらいマジ恋を愛してやまない人だ。


 それは前世の記憶を思い出したニイットー王子が、マジ恋のゲームに参戦するためにルーカス王子を生贄にしてルーカス王子“役”を奪おうとしたほど。


 口では「ノルンがいないから、この世界はマジアカの世界ではない」と言いつつも、目の前で繰り広げられるであろうマジアカの世界を満喫したくないわけがない。


 つまりは、乙女ゲームを満喫するためなら手段を選ばないニイットー王子が、自らが攻略対象者としてマジアカの物語に参戦するためだけに、モブの私をノルンちゃんの“代役”にして無理矢理マジアカの出会いのイベントを再現させたに違いない。


 




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