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新生活は最高のロケーション

誤字報告ありがとうございます。

 ハイネちゃんとエンカウントしつつも、無事に?入学の日を終えた私は、いの一番に王城の一室ーー私の部屋に戻ってきた。


 アカデミーでは他人のふりをしなければならないため、言葉を交わすどころかほんの僅かな接触さえもできなかった寂しさから、早くルーカス王子に会いたくて。


 中通路を通り、ルーカス王子の部屋のドアをコンコンと控えめにノックした。


 自由に入ってもいいよ、とは言われたものの、やっぱりプライベートな空間に勝手に足を踏み入れることはできない。


 すると、ガチャっとドアが開いて満面の笑みで私を出迎えてくれた。


 ……お母様が。


「どうしてお母様がルーカス王子の部屋(ここ)にいるんですか!?」


 本当に信じられない。部屋主のいない間に忍び込むなんて、この人の辞書にはプライバシーのプの字も載っていないのだろうか?


 それとなく今までのことを思い返してみると、載っていないのだろう、という結論に至った。


「あら? もちろんサフィーちゃんに会いに来たのよ! 待てど暮らせどサフィーちゃんが帰ってきてくれないんだもの」


 ハンカチで涙を拭うふりをしながら、わざとらしく言い放つ。けれど心外だ。全て事実無根の言いがかりだ。だって、


「何を仰ってるんですか! 今朝も一緒に朝食の席についたじゃないですか!! この後の夕食だって一緒に食べる予定ですし!!」


 何を隠そう、チェスター王国の王城の一室を借り受けた私だったけれど、食事やお風呂はオルティス侯爵家で済ませている。


 と言うのも、オルティス侯爵家にある私の部屋に入ろうとドアを開けると、王城の一室の私の部屋に至る。


 反対に、王城の私の部屋のシャワールームのドアを開ければ、オルティス侯爵家の私の部屋の前の廊下に出る。


 ゆえに、シャワールームを使うことができない。だからお風呂に入るためにも一日一回は必ずオルティス侯爵家に帰らなければならないのだ。


 常設されたどこでも◯アだと思ったのは私だけではなかったらしく、あろうことか私の部屋のドアではなく、シャワールームのドアをピンク色のペンキで塗ろうとしたお母様を、ぎりぎりの理性で止めた私を褒めてあげたい。


 そもそも王城に部屋を借りなくてもどこか差支えのない場所に魔術陣を展開すれば、オルティス侯爵家に住みながらも普通にアカデミーに通えたはずなのだけど。


 きっとルーカス王子と気軽にかつ頻繁に会えるようにと、お母様たちの優しい親心だったのかもしれない。


 それに何と言っても一番は、気を張りながら衣食住の全てをチェスター王国の王城でしなくて済むということ。本当にこの生活スタイルには感謝しかない。


 けれど、今は感謝している場合でもない。


「ルーカス王子がいないのに、勝手に部屋に入るのはモラルを疑われますよ!!」


 しかも、隣国の王子の部屋に。普通ならば外交問題に発展するのではないのだろうか。


「大丈夫よ。私はルーカス王子のために来たんだもの。それに、ルーカス王子に見られたら困るものなんてないでしょ?」

「……自由に部屋に入ってもいいって言ってくれたから、ないと思いますが、でも……」

「そうよね、ルーカス王子も年頃の男の子ですものね。じゃあ、探してみようかしら!! ……うーん? ここにはないわね?」


 真っ先にベッドの下を確認した後に本棚に向かって歩いていくお母様。うん、探しているのは確実にアレだよね。


「ルーカス王子に限ってそれはないです!! いかがわしい本なんてあるはずがないです!!」

「本当にそう言い切れる? ほら、サフィーちゃんも一緒に探してみましょうよ!」

「探しません!!」


 早くルーカス王子の部屋から出てきてください、と促すと、お母様はしぶしぶ私の部屋の方に向かっていった。


 そしてソファーに座るかと思いきや。


「はあ〜、このもふもふは人をダメにするわ〜」

「わかります、その気持ち……」


 床に座って寝そべるアオにだらりと寄りかかる。アオ、巻き込んでごめんね。


「……そんなことよりも、お母様はハイネちゃん、マジアカのヒロインのハイネちゃんとお知り合いなんですか?」


 とても重要なことを忘れていた。お母様に会ったら聞こうと思っていたのに、すっかり頭から抜け落ちていた。


「ハイネちゃん? もちろん知ってるわよ〜!」

「あの、どのような御関係で?」


 軽く答えるお母様だけれど、私は知っている。軽い口調な時ほど気を付けなければならないということを。


「私が冒険の旅をしていたのは知っているわよね? その時の縁で、ハイネちゃんのお母様から子育てについての相談を受けていたのよ」

「お、お母様に相談!? しかも子育ての!?」


 確かにお母様は家族に対する思いは人一倍強いと思う。けれど、普通の貴族の家の子育て方法とは180度正反対な気がする。


「何が言いたいのかしら? もうっ、心外だわ」

「いえ、あ、だからハイネちゃんがお母様のことを慕っていたのですね。さすがお母様!」


 きっと、ハイネちゃんのお母様は、お母様のことを反面教師として見ていたのだろう。ハイネちゃんは品行方正という設定みたいだし、実際に素直な良い子そうだったから。


「サフィーちゃんこそ、続編とは無関係に過ごすと言いつつも、入学初日からハイネちゃんに会うなんて、さすがサフィーちゃん! もってるわね!!」

「全く嬉しくないんですけど」

「ところでどこでハイネちゃんに会ったの? 入学式は礼拝堂でやるのよね? ハイネちゃんは入学式には参列しないって言ってたはずよ?」

「参列しない予定だったんですか? あ、だから、お母様が“もう手は打ってある”って仰られていたのですね」


 入学式が出会いのイベントの場だから、ハイネちゃんが入学式に参列しなければ“出会わない=イベントが発生しない”はずだ。


「でも、礼拝堂で会いましたよ。せっかくの入学式には出たいに決まってるじゃないですか!」

「……それで大丈夫だったの?」

「大丈夫かと問われれば微妙ですね。ニイットー王子曰く、俺ルートに入った、って言っていましたから。ルーカス王子ではなく、ニイットー王子が倒れたハイネちゃんを保健室に運んでくれたんです」


 果たしてあれは本当に出会いのイベントとしてカウントされたのだろうか?


「……ところでサフィーちゃん、アカデミーにもその髪飾りを付けて行ったの?」


 突然話題を変えたお母様が指す髪飾りとは、もちろんラズ兄様からいただいた髪飾りのことだ。


「もちろんです! 私の大切な宝物ですし、私の意志に反して魔法石が割れて記憶が戻ることはないって聞いてからは毎日のように付けてます」


 私の記憶が封じられているから本来なら大切にしまっておくべきだろうけれど、お気に入りの髪飾りだから毎日でも使いたい。


 それに、私に何かあった時のためにも付けていてほしいってラズ兄様と黒猫ちゃんが言ってくれたから。


「宝物なら余計にメンテナンスが必要よ。ラズたちの代わりに私がやってあげるわ」

「メンテナンス、ですか?」

「そうよ。魔法石を使った魔道具だって点検が必要だったり、魔力の充填が必要だったりするでしょう? 魔法石自体には問題ないだろうけれど、大切に長く使いたいものだからこそ、こまめなメンテナンスは必要よ?」

「確かに、腕時計も長く使うためにはオーバーホールが必要だって言いますものね。今まで一度もメンテナンスなんてしたことがないんですけど、今からでも大丈夫でしょうか?」

「もちろんよ! この匠の技を持つスーフェ様に任せなさい!」

「よろしくお願いします」


 ドンと自身の胸を叩くお母様。きっとお母様が信頼できる腕の良い職人さんに頼んでくれるのだろう。


「さあ、そろそろ我が家に帰りましょうか。料理長が腕を振るってくれた豪華なディナーが待ってるわよ! を早く帰りましょう」

「本当ですか! 楽しみです!!」


 ルーカス王子とは寝る前に会えばいいよね、と私はお母様とディナーに向かった。本当にこの生活スタイルは最高だと思う。





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