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続編ですと!?

 一瞬にして全身に戦慄が走った。笑顔で放たれた悪魔、もとい、お母様の言葉が呪いのように私の頭の中を反芻し埋め尽くしていく。


 聞き間違いだと思いたい。……きっと聞き間違いだ。だから念のため聞き返してみよう。


「あ、あの、今、お母様は何て? えっ、ぞ……」


 思わず口を両手で抑え言葉を呑み込んだ。その先の言葉は言いたくない。二度と聞きたくもない。


 それなのに、目の前にいる悪魔(いや、もう魔王にしか見えない)は、わざとらしく言い放つ。先ほどよりもさらに意地の悪い笑みを浮かべながら。


「あら? もしかして聞こえなかったのかしら? ぞ・く・へ・ん♡ って言ったのよ」

「無理ですっ! 絶対に嫌ですっ!! えっ? だって私は、マジ恋で破滅エンドを迎えている身ですよ? 死んだ人間が続編に出るなんて、絶対におかしいじゃないですか!?」


 盛大に拒否し焦る私の背後から、他人事だと言わんばかりのテンションの人が近付いてきた。


「では、私がご説明いたしましょう!」

「うわあっ!!」


 もちろんノルンちゃんだ。


 ノルンちゃんも私と同じく前世の記憶を持っている転生者だ。しかも私と同じ時代を生きていた。というか、前世の私の主治医の先生だったりする。


 そして何と言っても、この「マジ恋」の乙女ゲームのシリーズを愛してやまない奇特な人だ。


「お義母……スーフェ様にはこちらをどうぞ」

「まあ! いつもありがとう。とても嬉しいわ〜」


 ちゃっかり賄賂まで持って登場だ。


 ノルンちゃんは手先が器用だから、前世では当たり前のように使っていた便利品を作ってはお母様に献上している。


 さすがノルンちゃん。ラズ兄様に会えないから外堀から埋めていくつもりなのだろう。 


 それはそうと、


「ノルンちゃん、一体どういうことなの?」

「知りたい? 知りたいよね? そうねぇ〜私のことをお義姉様と呼んだら教えてあげてもいいわよ?」


 前世ではお姉ちゃんのような存在だったけれど、今世では私はラズ兄様の気持ちが最優先だ。外堀から埋めよう作戦には屈しないぞ。


「……ノルンちゃん、そんなこと言わないで教えてよ!!」

「お、ね、え、さ、ま」

「もぅっ!!」


 それにしても信じられない。無理。今さら乙女ゲーム、しかも続編が開幕するとか言われても、絶対に私は関わりたくない。


 だから私ははっきりと自分の意思を告げる。


「教えてくれなくてもいいもん! いくら続編って言ったって、サファイアは断罪されたんだから私には絶対に関係ないもの。絶対に関わらないから! 絶対に!!」


 しかもルーカス王子ルートの断罪は刺殺だった。本来なら私はこの世に存在すらしていないはずだ。


「あらあら、仕方がないわね。いい、サフィーちゃん。たしかに、続編に乙女ゲームのサファイアは出てこなかったわ。サファイアのサの字も一切ね。けれどサフィーちゃん、あなた、ルーカス王子ルートを攻略したのよね? ノルンじゃなくて、サフィーちゃんが、ルーカス王子と婚約してるのよね?」

「えっ、まあ、はい。……私の婚約者はルーカス王子です」


 言ってて恥ずかしくなる。けれど心の中では何度だって言いたい。


 私の婚約者はルーカス王子。


 実は私たちは正式に婚約することができた。手続きとか色々大変かな? と思っていたけれど、それらはすでにお母様たちの間で進められていたらしい。


 つい先日、チェスター王国に行ったことで正式に婚約が結ばれたのだとか。


 あの時のあの訪問で婚約が正式に結ばれたなんて、正直言って全然実感が湧かないけれど。


 特に何かが変わったわけでもないからドッキリなんじゃないかって疑いそうになるけれど、こうしてはっきりと口にすることで、婚約したんだな、ってようやく実感できた気がする。


 そんな私に祝福の声が降り注ぐ。


「おめでとうございます! ルーカス王子は人気があったので続編にも出てくるのです。そして、そのルーカス王子と恋愛中のノルンも留学生として出てくるのです」

「ということは……」


 だめだ、やっぱり嫌な予感しかしない。けれどやっぱり続きが気になってしまう。


 ちらりとノルンちゃんを見れば、その思いは見透かされていて。満面の笑みでそれは告げられた。


「私の代わりにルーカス王子を攻略したサフィーちゃんが、私の代わりに続編に参加できることになったと考えるのが妥当だと思われます!」

「やっぱり!?」


 私はがっくりと項垂れた。


 どうして留学生の女子枠に急な欠員が出たのか。どうして私に白羽の矢が立ったのか。認めたくはないけれど、ゲームの強制力は顕在なのか……


「あれ? もしかして、欠員が出た留学生って……」


 ちらりとノルンちゃんを見やれば、さらりと答えは返ってきた。


「ああ、それね。もちろん私のことね」

「どうして? 聖地巡礼って言いながらアカデミーに通えばいいじゃん!!」

「無理よ。私はあのマッスルモンスターをけちょんけちょんにするのに忙しいのよ!!」


 相変わらず王都の冒険者ギルドで冒険者登録をしようと試みているノルンちゃん。


 でもどうしてか、闘う相手が毎回マリリンさんで返り討ちにあうらしい。しかも瞬殺だとか。


 ノルンちゃんを瞬殺するなんて、やっぱりマリリンさんって只者じゃないよね。


「それにラズライト様のいない続編なんて、……どれだけ周回してもラズライト様ルートは一向に現れないし、……せめてシルエットだけでもいいのに」

「一応、淡い期待を抱いて頑張ったんだね」

「……ということで、回避させていただきました!」

「ずるっ!!」

「今世の私は、リアルな愛を追いかけるのに忙しいのよ! 二次元も良かったけれど、やっぱり実物には敵わないわよね。さあ、今すぐ会いに行くわ。ラズライト様〜!!」

「はいはい、でもまずはマリリンさんに会いに行かなきゃね」


 続編の存在を知っていたノルンちゃんは余裕で回避できただろうけれど、続編の存在を知らなかった私が回避できるわけがない。もう立ち直れない。


 でもそこで不思議に思う出来事がひとつ。


「どうしてお母様は続編の話を知っているのですか?」


 お母様も前世の記憶がある転生者だとつい最近教えてもらった。しかもマジ恋の前身の乙女ゲーム「マジDEATH」の悪役令嬢。


 その悪役令嬢は、全ルート死亡エンドという最低最悪な設定だ。


 そう、お母様も死んでいるはずの人間だ。それなのにお母様が生きていることが不思議でたまらない。


 そもそもマジDEATHで死んだはずのお母様が、マジ恋で子供(私たち)を産んでるって設定もおかしすぎるし。


 ……まあ、それを言ってしまったら、私もラズ兄様もこの世に産まれることができなかったことになるから、そこは素直に神様に感謝しておこう。


 話は元に戻して、キラキラ王子が苦手だと豪語するお母様がマジ恋の続編などやっているわけがない。


 だって、マジ恋ですらほとんどやっていなかったというのだから。マジ恋の内容なんてほとんど覚えてないらしいし。


「それはね、知りたい? 知りたいわよね? ふふふ、秘密よ!」

「またですかっ!!」


 相変わらず、お母様は秘密でできているらしい。


「サフィーちゃん、続編でのノルンはヒロインではないからあまり気負わなくても平気よ。続編でのノルンの役目はお助けキャラと……」

「お助けキャラと?」


 盛大に溜めを作られ、私の心臓は無駄に高鳴る。そんな私に、さすがはマジ恋のヒロインと言わしめるほど完璧な笑みを向けて、無邪気にそれは告げられた。


「ヒロインにルーカス王子を譲るだけだから!」

「はあ!?」


 もちろん私は大声で叫んだ。今度こそ聞き間違いに違いない。


「ヒロインに譲るって、全く意味が分からないし!! 続編も乙女ゲームなんだよね? 冗談でしょ? ルーカス王子もお助けキャラとかじゃないの?」


 マジ恋で運命的な恋をした二人が続編では別れることになるなんてそんなのあり得ない。間違いなくマジ恋プレーヤーからクレームの嵐だ。


「ばっちり攻略対象者よ。それに仕方ないじゃない。続編の乙女ゲームの“裏”テーマは、略奪愛なんだもの」





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