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ハッピーエンドで終わったはずなのに……

「アカデミー、ですか?」


 お母様とケール王妃様に告げられたその言葉に、私は首をこてりと傾げた。


「そうなの! サフィーちゃんは、チェスター王国のことをよく知らないでしょ? ケールと話し合って、チェスター王国のアカデミーに入学するのはどうか、ってことになったのよ!」

「そんなっ、アカデミーなんて私には無理です!!」


 アカデミーは前世でいうところの大学のような教育機関だ。


 ケール王妃様が王妃になってから、チェスター王国では女性の地位向上を目指すとともに学問にも力を入れていて、チェスター王国のアカデミーと言ったら、選ばれし者しか入れない名門中の名門だ。


「心配しなくても大丈夫よ。高等部の延長だと思ってくれればいいの。それに女の子でもアカデミーに通う子が多いから、お友達を作るのにも適しているのよ」

「お友達、ですか?」

「えぇ、そうよ。それにもちろんルーカスもアカデミーに通うわよ」

「はい、それは伺っています。けれど、突然私が入学なんてできるものなんですか? 自慢じゃないですけど、私の頭はよろしくないですよ?」


 実はそこが一番問題だったりする。私の頭はよろしくない。


 高等部の三年間は何とかSクラスを維持できたけれど、正直言ってギリギリの戦いだった。


 記憶を失くしたことも関係しているらしいけれど、一番の原因は、事あるごとにお母様にぐらんぐらんと揺すられたせいだと思っている。きっと私の脳みそはぐちゃぐちゃだ。


 そんな私がロバーツ王国よりもレベルの高いチェスター王国のアカデミーの入学試験に受かるわけがない。


 しかも国外向けに開催されている入学試験はとーっても難しいらしく、今までに合格できた者は片手で足りる程度だと言う。絶対に無理。


「サフィーちゃん、そこは心配しなくても大丈夫よ。全てお金が解決してくれるわ〜」

「裏口入学! お母様ったら、そんな堂々と提案しないで少しはオブラートに包んでください!!」

「それに国家権力もあるわよ!」

「ケール王妃様まで!?」


 さすがに裏口入学は心が痛む。だからと言って国家権力に頼ってしまったらその代償が怖い。


 ケール王妃様に限ってそんな心配はいらないだろうけれど。いや、ケール王妃様はお母様のお友達だし、類は友を呼ぶって言うし……


 お母様とケール王妃様を交互に見やる私に気付いたケール王妃様は慌てて訂正する。


「ちょっとサフィーちゃんったら! 絶対に勘違いしてるでしょう? 国家権力と言っても国の施策のことよ! 毎年ロバーツ王国魔法学園の卒業生から、成績優秀だったり何か特別な技能を持った留学生を迎えることになっているの。でも理由あって一人分の欠員が出てしまったのよ。だからサフィーちゃんが代わりに入学してくれるととっても助かるの」

「国の施策ですか? それならなおさら国交に関わる大切な役目を私なんかでいいんですか?」

「あら、サフィーちゃんったら難しく考える必要なんてないわよ。欠員が出た枠は女子枠だから、どれだけおバカでも女子なら誰でもいいのよ!」

「もうっ、お母様ったら!! オブラートに包んでくださいってば!!」


 ふふっと笑うお母様は、きっと他人事なのだろう。


 今までお母様に「勉強しなさい」だなんて一度も言われたことはないし、お母様自身、勉強だとか進学だとかに全く興味がなさそうだもの。


 私の将来のことに関して特に何も言わないのは、貴族令嬢として良いところに嫁ぐことができればそれで良いと思っているからかもしれない。


 ……その点は期待に応えられそうだし。


 “遠い”未来の自分を想像して、思わず口元が緩んでしまう。


「スーフェの言い方は悪いけれど、おかげで少しはサフィーちゃんの気持ちが楽になったようね。スーフェの言う通り、難しく考える必要はないわ。サフィーちゃんには魔術っていう特別な技能があるし、今進めてもらっている医療改革や食糧難の改善にも、アカデミーで学ぶことがプラスになるはずよ」


 魔術を使った医療改革や食糧難の改善。ケール王妃様の言葉に浮ついていた私の思考は一気に現実に引き戻された。


 果たして、前世の記憶(私の知識)がどこまで通用するのだろうか?


 はっきり言ってしまうと、計画が進めば進むほど、本当に私にできるのだろうかという不安に押し潰されそうになっているのが現状で。


 前世でもっとたくさんのことを学んでおけばよかったという自責の念と、どうしてもっと多くの人たちと関わっておかなかったのだろうかという後悔が私を襲ってくる。


 ……とは言っても、学校に通うことができなかった前世の私には限界もあったのだけれど。


 でも、だからこそ今回のアカデミー入学の話は私にとって願ってもない大チャンスだ。


 アカデミーに入学して、噂の特別講義を受講することができれば、きっと何かが変わるかもしれない。


 心揺れる私に、ケール王妃様は追い打ちをかけるようにさらに提案をしてくる。


「それにチェスター王国にもサフィーちゃんが心許せるような同年代のお友達がいないと寂しいでしょう? だって、結婚したら王城に住むかもしれないし、何なら好きなところにお家を建ててあげるわよ!」

「け、結婚っ!!」


 お母様にだけでなくケール王妃様にまで私の思考はダダ漏れだったのか!?


 先ほどまで想像していたうふふな出来事を見透かされたようで急激に恥ずかしくなる。


 そんな私をよそに、凄い剣幕で怒り出したのはお母様だ。


「ケール! そんな話は聞いてないわよっ!! 約束が違うじゃないっ!!」

「だって、サフィーちゃんはとっーても可愛いし、やっと帰ってきてくれたルーカスとももっと一緒にいたいんだもの。スーフェはサクッと転移魔法で会いに来れるんだしいいでしょ?」

「ダメよ! サフィーちゃんをチェスター王国になんて嫁がせないわよ! そっちが婿によこしなさいってば!!」


 お母様が他国の王族相手にめちゃくちゃなことを言っている。ルーカス王子は王位継承権第二位だ。そう易々と他国に婿へなど行けるわけがない。


 まあ、お母様の気持ちは嬉しい。ラズ兄様が冒険の旅に出てしまったからお母様は余計に寂しいのだろうし。


 けれど、さすがにこのままお母様とケール王妃様が戦い始めたら色々と問題だ。


 おそらく屋敷が吹っ飛ぶだけでは済まないだろう。どうにか話を逸らさなくては。


「えっと、アカデミーのお話はとても魅力的です! むしろ、とても条件の良いお話すぎて、何となく嫌な予感がするだけなので……」


 なぜか先ほどから嫌な予感しかしない。お友達作りのためにアカデミーへ行く。こんな良い話には必ず裏があるはずだ。


 だって、少しずつ私の周りに集まりはじめてくれている精霊さんたちが「お母様(スーフェ)たちの言葉は信用するな」と言っている気がするんだもの。


「まあ! 嫌な予感なんてあるわけないじゃない!! 全て気の持ちようよ。絶対に行った方がいいわ。今すぐ行くべきよ。青春がサフィーちゃんを待ってるわ!!」


 必要以上に熱弁を振るうお母様。やっぱり何かあるとしか思えない。私はもちろんジトリとした視線を送る。


 そんな私にダメ押しの言葉をかけてくるのはやっぱりケール王妃様だ。


「ルーカスもサフィーちゃんとアカデミーに通えるのをとーっても楽しみにしているのよ。だめかしら?」

「だめ、……ではないです。私も一緒に通いたいですから」


 ケール王妃様の言葉に、私の頬は赤く染まる。


 最近では一緒にいられる時間が極端に減った。卒業前まではそれこそ毎日、四六時中って言っていいほど一緒にいたのに……


 だから私はとても寂しい。ほんの少しの時間でもいいから会いたい。


 高等部ではあくまで主従の関係だった。けれど今度は彼氏彼女としてのキャンパスライフ。


 夢のキャンパスライフをルーカス王子と一緒に送れたら絶対に楽しいに違いない。


 それに、前世では“今の目標”はあったけれど“その先のこと”なんて本気になって考えることなんてなかった。


 それは最近までも同じで。


 普通なら高等部在学中に考えていたはずの卒業したその先のことについて、私にはぼんやりとした道筋しか見えていない。いや、それさえも見えているのかも分からない。


 私は、将来の夢というものを上手に描けないままここまできてしまったのだ。


 そんなことを考えていた私の気持ちはやっぱりダダ漏れだったらしく、お母様に優しく微笑まれる。


「ふふ、それを見つけに行くというのもアカデミーに通う十分な理由よ。そのための学び舎でもあるのだから。それにせっかくのチャンスを逃したらもったいないわよ?」


 私も懐かしい夢を叶えたくなっちゃったわ、と嬉しそうに微笑むお母様に背中を押された私は決意する。


「私、アカデミーに通いたいです!!」

「そうこなくっちゃ! それじゃあケール、手続きよろしく!」

「えぇ、予定通りこちらで全部済ませるわ。詳細は後で連絡するわね。さっそく今すぐ行ってくるわ」


 ケール王妃様は、ドア型のどこでもモンでチェスター王国へと戻っていった。


 そしてこの後、私は地獄に突き落とされる。あのお方の一言で。


「サフィーちゃん! とーっても楽しみね。続編♡」


 目の前にいる悪魔がにこりと微笑んでそう告げた。





ということで、続編を開始しました。のんびりと不定期に更新していく予定です。

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