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【SIDE】 ジェイド:サファイア救出作戦会議

 卒業式の少し前の某日。


「みんな、集まったわね」

「「「「はい」」」」


 スーフェ様の声に続き、ここに集まった一同が声を揃えて、勢いよく返事をした。


「みなさま、ありがとうございます」


 俺はたまらず、深く頭を下げ、お礼を言った。

 ここにいる人たちは、ある共通の目的のためだけに集まったということを知っているから。それが、すごく嬉しかった。


「あら、何? ジェイドのためじゃないわよ、サフィーちゃんのためよ?」

「誰がお前のためって言った?」

「ジェイドさん、もしかしてもうサフィー様のことを『俺のもの』扱いですか? 独占欲が強いんですね」

「ジェイドさん、もうそこまでサフィーお嬢様と……夜の庭園デートは使用人一同の暗黙の了解でしたけど」


(……なんだよ、この人たちは、一気に居心地が悪くなったんだけど)


と思ったものの、みんなの顔は笑っている。


 今日、この場所に集まったのは、紛れもなくサフィーお嬢様のため、サフィーお嬢様を助けたくて集まった人たちだ。


 スーフェ様、ラズライト様、ノルン様、ミリー、その他にも……


 みんな、サフィーお嬢様が大切に思っている人たちで、サフィーお嬢様のことを大切だと思っている人たち。


 そして、サフィーお嬢様を破滅エンドから回避させるための、作戦会議が始まった。


「サフィーちゃんは今、アオにコックス村の別邸に連れ出してもらってるから、思う存分作戦を立てましょう。そもそも、断罪イベントなんて、あってないようなものよ。私の時なんて……」

「母様は特殊だろって、ルベが言ってますよ?」


(特殊って、一体何があったんだろう? そもそも在学前から冒険者として活動していたみたいだから、殆ど学園に通っていなかっただろうし。サフィーお嬢様もスーフェ様の半分くらい神経が図太ければよかったのに……)


と思っていたら、突き刺すような視線が俺を射抜く。


(スーフェ様には脳内まで筒抜けなのか?)


「サフィー様は、きっと、断罪イベントのスチルシーンが起きない限り、その後も安心できないと思うんです。だから、敢えてスチルシーンを再現しようと思うんですけど、どうですか?」


 ノルン様が言うことに、俺も同意だった。


 きっとサフィーお嬢様は、明確なゲームの終わりが訪れない限り、際限なく、乙女ゲームというものに囚われることになるだろう。


 その意見には、ここに集まったみんなも異議を唱えるものはいない。


「それなら、誰のスチルシーンにするかよね? レオナルド王子が斬首で、ワイアットが刺客による暗殺だっけ? 刺客ってラズなんだっけ?」


 やけにマジ恋のゲームに詳しいスーフェ様。


(さっきも私の時って言っていたし……)


 でも、どうして詳しいのかは、聞かない方がいい気がする。


「はぁ? 俺がサフィーを暗殺なんてするわけないでしょ。寝込みを襲いたくなるくらい可愛いとは思うけど」


 その瞬間、スーフェ様によって物理的にラズライト様の口は閉ざされた。


「イーサン先生ルートは没落だっけ? それもいいよね〜。いっそ没落っていうか、クーデターでも起こす? 新しくオルティス王国とか作っちゃったりして!」

「本当にやりそうだから、そして確実にやり遂げられるだろうからやめてください。そんなことしたら父様が過労死してしまいます」


 復活したラズライト様が魔王以上のクーデターを阻止してくれた。彼はきっと勇者に違いない。


「ということは、消去法で言っても、ルーカス王子ルートのスチルシーンになりますね。私の計画通りってことで、だいたいのイメージはできています」

「ルーカス王子ルートは心臓をグサッと刺されるんだろう? 身代わりの石を使うにしてもサフィーにそんな痛い思いはさせたくない」


 さすがラズライト様。サフィーお嬢様のことになると過保護全開だ。


「心配には及びません! 今回使用する短剣はこちらです!!」


 ノルン様は、一本の短剣を取り出した。

 それは、俺が持っている短剣……と、うり二つだった。


「凄いわね。良くこれ程までに精巧に作り上げたわね。あら! チェスター王国の紋章までばっちり入っているわ」

「はい、鍛冶屋さんにも行ってきました。スーフェ様のお名前を出したら、快く作り方をご教授していただけました」


 俺も実は一緒に行ったのだが、名前を出した瞬間、鍛冶屋さんは震えていた。快くご教授というか、平伏していた。


 ただスーフェ様の名前を出しただけなのに……


「凄いな、これ、刃が柄に収納するぞ? よく考えついたな」


 ラズライト様が短剣で、試しにクッションを刺してみたところ、見事に刃体部分が柄の内部に収納され、一見すると深くクッションに刺さったように見えた。


 そして短剣をクッションから離したところ、刃体は元の長さに戻り、クッションには傷一つついていない。ちなみに刃先は怪我しないように少しだけ加工がされてあるようだ。


「ラズライト様に褒めていただけるなんて、私、天に召されそうだわ……ちなみに当日は、中に血糊を仕込めます!」

「血糊は、イーサン先生の時のようなトマトジュースみたいにショボいものじゃなくて、ジョナ料理長が、丹精込めて特製ソースを作ってくれるそうよ。今も試作品を作っているわ」

「ジョナ料理長の特製ソースですか! 私もいただきたいです。絶対に美味しいですよね!!」


(ミリー、血糊の話をしているんだよ……)


「でも、これで突いたら流石に痛いんじゃないの?」


 先ほどから、ノルン様の作った短剣を興味津々に見ているラズライト様が、サフィーお嬢様のことを心配する。さすが、過保護。


「そこで、スーフェ様特製の制服の出番です! シルクのような肌触りの制服風防具です。卒業式当日、サフィーお嬢様には間違いなくこの制服を着ていただきます!」


 ミリーが、学園の制服を手に持ち説明してくれた。見た目は至って普通の、学園指定の制服だった。


「サフィーちゃんに借りている間に、ちょっと細工をしたわ。刃物っていうか、オリハルコン製の刃物だって通さない仕様よ」

「「欲しい……」」


 オリハルコンの刃物も通さないと聞いて、思わず俺とラズライト様の声が揃ってしまった。


「あなたたち、そういう趣味があるの?」

「ジェイドさんのはどうでもいいですけど、ラズライト様の女装姿……見てみたいです」


 スーフェ様は心から嫌そうな顔をした。ノルン様は、きっと今頃、お得意の脳内変換をしているのだろう。


「違う、違う、その防具の効果のことだ、な、ジェイド」

「はい、オリハルコン製の刃物も通さないなんて、男の夢です」


 ラズライト様と俺は必死で弁解をした。


「あら、そうなの? 仕方ないから、後で作ってあげるわ」


 スーフェ様の言葉に、ラズライト様と俺はハイタッチで喜んだ。但し、きちんと制服以外の好みの形状をお伝えしないと、絶対に制服で作られるだろう。


「万が一、サフィーちゃんが制服以外のところを刺されるようなことや、予期せぬ事態が起こった時は、その制服に身代わりの石を隠してあるから、それが守ってくれるわ」

「でもそんなことすれば、今度はスーフェ様が……スーフェ様が身代わりになったと知ったら、サフィーお嬢様は……」


 きっと、サフィーお嬢様は自分のせいでスーフェ様が傷ついたと知ったら、後悔に押し潰されてしまうに決まっている。


「ジェイド、その辺は心配しないで大丈夫よ。ね、ルべ」


 スーフェ様がラズライト様の方を見てルべライト様に話しかけると、一気にラズライト様の瞳が真紅色に変わった。


「あぁ、俺もサフィーを妹のように可愛いと思っている。万が一サフィーが傷ついて、スーフェが身代わりになるようなことがあっても、命に関わるような場合は、スーフェの持つ俺の身代わりの石が発動する。いなくなるのは俺だけだ。俺は魂だけだから、外見上は気付かれない。スーフェとラズにしか分からない……スーフェには悪いけどな」

「本当よ。言い出したら聞かないんだから。それに、ただの怪我くらいなら、すぐにベロニカが治してくれることになってるわ」


(ベロニカ王妃様までご協力くださっているなんて、サフィーお嬢様は本当にたくさんの方に愛されてるんだな)


「あの……」

「どうしたの? ミリー?」


 おずおずと手を挙げたミリーが口を開く。


「サフィーお嬢様、もしかしたら自分でご自身を刺すご予定なのかもしれません。この間、サフィーお嬢様がお持ちの護身用の短剣を眺めておいででした」

「あ、きっと私が差し上げたものです。確かにあれにもチェスター王国の紋章が入っています」


 迂闊だった、俺がサフィーお嬢様の可愛い我儘を叶えてしまったから。


「となると、サフィーちゃんのことをよく見張ってなきゃだめね……ジェイドはその時ノルンちゃんの隣にいなきゃいけないんでしょ?」


 そう、ノルン様の説明だと、ヒロインであるノルン様の隣にいるのが、乙女ゲームの中でのルーカスの役目だ。


「だったら、あれでいいんじゃない? なんだっけ? ニート? ちょっとぽっちゃりだけどそっくりじゃん。カツラでも被せてノルンの横に立たせとけば、ニートも喜ぶんじゃないの?」

「今、ラズライト様がノルンて呼んでくれた……私、嬉し過ぎて死ぬかも」

「ニート? あ! ニイットーですね。似てるなんて心外です!! それに、サフィーお嬢様がその事実に気付かなかったら、それはそれで俺は立ち直れませんよ?」


(まさか、サフィーお嬢様に限って、俺とニイットーが入れ替わっていることに気が付かないなんてことは、あり得ないとは思うけれど、まさかね……)


「確かに痩せてきたので、いけるかもしれませんね。じゃあ、ラストスパートでジェイドさんと同じ体格になるよう絞らせてみせます」


 ニイットーは、ノルン様によるスパルタ特訓が確約された。


「じゃあ、ノルンちゃんの隣にはニイットー王子に並んでもらうとして、ジェイドは気配を消して、サフィーちゃんの近くにいてね。必要だと思ったら幻影術も使いなさい。その時にお守りの石はサフィーちゃんに見えるようにしといてね。きっと精霊たちが力になってくれるはずだから。あと、最後の役目は本当にジェイドでいいの?」

「はい、サフィーお嬢様の願いは私が叶えると約束しました。私にやらせてください!」


(俺以外にはやらせたくない。俺の手でサフィーお嬢様を前世のトラウマから解き放ってみせるんだ!)


 そんな決意をしている俺の横で「くすんくすん」と涙を零し始めるミリーがいた。


「あら? どうしたの? ミリー?」

「サフィーお嬢様がみなさんに愛されてるな、と思ったら自分のことのように嬉しくて」


 ミリーは、嬉し泣きをしていた。思わず俺ももらい泣きをしてしまいそうだった。


 そして最後に、何故か円陣を組んで解散となった。


 その直後、ノルン様を送るために屋敷の外に出た際に、ノルン様が刃体が収納する短剣を使って、俺に見本を見せてくれた。


 ノルン様が俺の役、俺がサフィーお嬢様の役を演じて、ノルン様が俺に向かって短剣を思いっきり突きつけた。


(うっ!!)


 普通に痛かった。いくら防具を着ていようが、これをサフィーお嬢様にやらなきゃいけないと思うと、心までもが痛い……


 そして、そのやり取りをサフィーお嬢様に見られて、誤解されたことは言うまでもない。





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