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家族

「サフィーちゃん!!」

「ぅん……? おかぁ、さま……?」


 目を覚ますと、そこはいつも私が眠っているふかふかのベッドの上だった。


 私の顔を覗き込むお母様の表情が、酷く焦っていて、次第に安堵していくのが分かった。そして、初めてお母様の涙を見た。


「ごめんなさい、本当にごめんなさい……結局サフィーちゃんを危険な目に遭わせてしまったわ」

「おがあざまぐるじい……」


 起き上がるのと同時に、私はぎゅーっと抱きしめられた。抱きしめる力は、今までで一番強い。


 でも、その苦しさはさっきまでの苦しさとは全く違う。苦しいのにとても優しい温もりで、苦しいのに生きているって実感した。


 けれど、せっかく助かったのに、このままでは窒息死してしまうかもしれない。


 助けを求める私の目には、お母様の斜め後ろに立つ、ラズ兄様の姿が映った。やっぱり、今にも泣き出しそうな表情だった。


(ラズ兄様、お父様まで……)


 とても忙しくて滅多に会えないのに。お父様の目の下のクマが、また一段と濃くなっていて。


 それなのに、いつもの優しい笑顔を私に向けてくれた。


 どれだけ心配させってしまったのかを、このほんの僅かなひとときで、全身で感じた。


 悪役令嬢だけど、私はきちんと愛されて育っている。前世の記憶があっても、幼い頃の記憶がなくても、それだけは絶対に間違いない。


(私って、どれだけ幸せ者なんだろう……)


 涙が溢れ出して止まらなくなった。



「大変だったんだぞ、母様が取り乱して。母様のあんな姿、初めて見たよ」


 だから、もう少し我慢して母様が満足するまで抱きしめられな、とラズ兄様に言われた。


「何よ、ちょっと部屋の中を壊しちゃっただけじゃない」


 私を抱きしめたまま、顔だけをラズ兄様の方へ向け、お母様は文句を言った。


「ちょっと、じゃないですよ。あの隠し部屋は今、見るも無残な姿になってますからね。王妃様は気にしなくても大丈夫とは言ってくれたけど……」


 実際は「気にしなくても大丈夫」というか「何も起こってない」と、暗黙の了解になっているらしい。たぶん、それは無理だと思う。

 


 私に毒草を使われていることを知ったお母様は、転移魔法を使い、ピンポイントで隠し部屋に転移した。


 カーヌム先生の代わりに、学園内で魔法無効化の魔術陣を張っていたラズ兄様は、黒猫ちゃんからお母様の様子がおかしいとの声を聞き、すぐにお母様のもとへと駆けつけた。


 王妃様たちも、転移の魔術陣で急いで学園に転移した。


 けれど、もう遅かった。その時にはすでに手遅れ。


 錯乱状態のお母様は、隠し部屋の中に私がいなかったことで混乱し、部屋中を壊しまくったのだとか。


 天井は抜け、幻影術がかけられていた出入口は壊され、見事に部屋の中はぐちゃぐちゃで、何の部屋だったかも分からない状態になってしまったそうだ。


 それなのに「何も起こってない」ことにするなんて、さすが王妃様の力だ。


 しかも「証拠隠滅する必要がなくなったわね、ふふふ」とか言って、笑っていたらしい。


(やっぱりお母様と同類で、神経が図太いのね。……おおっと、不敬罪になっちゃうから気をつけなくちゃ)

 

 それにしても信じられない。お母様が転移魔法が使えるという事実。どれだけチートなんだろうか。


 それならお母様の血の数滴で、何が出てくるのか分からないって言われるのも頷ける。


 ちなみに、その時の私は、既にジェイドに助けられ、ノルンちゃんの聖女の力で治療してもらっていた。


 ジェイドが、ノルンちゃんにお礼と共に体育祭の日なのに魔法を使わせてしまったことを謝ったら、どうしてなのか「いい機会だったわ」って感謝されたらしい。


 ノルンちゃんは王宮魔導師団に就職したいのかもしれない。


(腰掛け就職? なんて贅沢な!!)

 

 それから私は、お母様から今までの出来事を全て聞いた。

 

 イーサン先生の過去のこと。

 お母様がイーサン先生の監視をしていたこと。

 イーサン先生が孤児院に寄付していたことから、迷子の子供たちを助けていたことまで。 


 フロランドのスポンサーに名乗りを上げたのも、万が一、イーサン先生が孤児院に寄付できない状態になってしまったと時のことを考えてのこと。

 孤児院の子供たちが自分たちの力で生きていけるように、仕事を与えることを思いついたのだとか。


 そして、一番肝心な魔物たちがどうなったかというと……


 伝説の冒険者たちが、殺すことなく転移術を使って魔の樹海に転移させたので、私の他には被害者が出なくて済んだみたい。


 きっと、魔物が好きなイーサン先生は、罪のない魔物たちが殺されていたら、責任をさらに感じていただろう。


 その伝説の冒険者たち「グッジョブ」と思っていたら……



「サフィーも、母様の戦ってる姿を一度は見といた方がいいぞ」

「あ、ちょっと、ばか! ラズ!!(怒)」


 ラズ兄様のうっかり発言に、お母様は慌ててラズ兄様の口を物理的に塞いだ。


「お母様が、戦う……? まさか!?」


 なんと! その伝説の冒険者たちの正体が、お母様とベロニカ王妃様とジェイドのお母様であるチェスター王国のケール王妃様だった。


(うわっ!! この組み合わせって、絶対にあり得ない!!)


 この後、ラズ兄様はめちゃくちゃ怒られたらしい。

 

 全てサラッと話されたけど、どの話も驚愕するような出来事だった。言われてみれば納得することも多いのだけれど。


「お父様、お母様、ラズ兄様、黒猫ちゃんも、本当に心配をかけてしまってごめんなさい。そして、ありがとうございました」


 私が謝ると、お父様が優しく頭を撫でてくれた。すると、私も、俺も、とお母様とラズ兄様が、私の頭を撫ではじめた。



----ボフっ



 その上から、もふもふの前足で、アオまでもが私の頭を「ボフボフ」っと撫でてくれる。


「ふふ、アオもありがとう! もちろんアオのことを忘れるわけないじゃない!」

 

(本当に、どれだけみんなに愛されてるのよ、私ってば)


「私は王城に行ってくるよ。サフィー、無理しないでゆっくり休みなさい」

「はい、お父様。ありがとうございました」

「あら? 『何も起こってない』んだから行く必要なんてないわよ?」

「ああ、分かってはいるけど、形だけでも一応はね」


 お父様はこれから陛下に謝罪しに行くという。やっぱり「何も起こってない」ことにはできないのだろう。

 

(ごめんなさい、お父様……)


「それでね、イーサン先生は直接サフィーちゃんに謝りたいって言ってるんだけど、どうする?」


 お母様が少しだけ言い辛そうに私に言った。


 きっと、怖い思いをさせてしまったから無理しないで、と心配してのことだろう。でも、私はきちんと話したい。


「イーサン先生に会わせてください。私も直接お話がしたいです」




******




 王城にて……


「カルセドニー、どうした?」

「この度は、申し訳……」

「謝罪される覚えはないぞ? 『何も起こってない』んだからな。()()()()によろしくな」

「陛下、まさか……」

「私も、これでスーフェ呼びの仲間だ! ははは!!」


 国王陛下は、今回の一連の騒ぎを全て「何も起こってない」ことにすることを交換条件として、念願のスーフェ呼びをゲットしていた。





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