デッドデイ
やっと盛り上がり見せてきた気がします……
――達也のライフ残り1時間
「ねぇ、早くいこーよー!」
「分かった分かった。よし行くぞ」
――午後6時
達也の家に来ていた紗奈は、目を輝かせながら自分の名前が書かれた黒いカードを握りしめる。
達也自身もまた、カードを触りながらゲート解放の言葉、
「「ラ・トランスファイル」」
を唱える。
刹那。
一瞬にして姿を消した2人は、異空間へと姿を消していた――
~~~~~~~~~~~~~~
――静流家
「ラ・トランスファイル……か」
自室で黒いイヤホンを付けた静流はニヤリと笑っていた。
「なるほどなぁ、規定の言葉を言わないと入れなかったのか。……盗聴器なんてとんでもねぇもん達也にしかけてしまったが、仕方ない……」
イヤホンを外した静流は、その場で申し訳ないと頭を下げながら、雫のカードを握る。
「さて、俺の冒険譚始めちゃおっかな!!」
意気揚々とカードを持つ手に力を込めた静流は、解放の言葉、
「ラ・トランスファイル!!!」
と、入っては行けない門を易々とくぐってしまった――
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――異空間と思われる場所
「本当に来ちまった……のか?」
解放の言葉を唱えた静流は、大きな石壁に左右を覆われていた。
全く太陽が届いておらず、空の明るさで足元が少し見えるくらいだ。
とりあえずと、自分の体の確認と場所の把握を試みる静流。
服装はここに来る前と変化は無く、黒スキニーにワイシャツの格好だ。ただ1つだけ誤算だったのは、
「靴は盲点……」
石で出来た地面を見て、靴下履いてただけマシかと溜息をついた静流は、石壁を触りながら前方と後方の確認をする。
「前方は暗くて全くわからない。後方も暗くてわからない……てかゲームなのにチュートリアルもねぇのかよ……」
ゲームの世界に来た実感が湧いていない静流は、自分でも驚くほどあまり興奮していなかった。
正直な所、もっと晴れやかで喧騒としている街に転送されると思っていたからだ。
「まぁ、立ち止まってても仕方ねぇか……んじゃここは全力前進ってことで、前進しますかね」
足に痛みがはしらないよう注意しながら、静流は先の見えない細道を歩き始めた――
『あいつ……喰うか……ククッ』
闇の奥からそんな声がしてるとも知らずに。
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――異空間~ダンジョン~
『ギギギギッ!』
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」
「完全防御!!」
『ギギ!?』
「今だ! 紗奈!」
「偽重力!! はぁぁっ!」
『ギギィ……!』
薄暗い洞窟の中、完璧な連携を見せるのは達也と紗奈だ。
大きな角がついたモンスター、ニードルアントは、紗奈の得物であるダガーを突き刺され、青白いオーブへと姿を変えた。
どっと疲れた表情を見せながら座り込む紗奈に、達也はコラっと頭を小突きながら飲み物を渡す。
「おい、ギリギリまで引き付けすぎだぞ、複数の敵と戦う時は早めに離脱しろって言ったろ!」
「はいはい、ごめんなさい……。まぁでも、結局達也助けてくれるじゃん! だからセーフ!」
「セーフじゃないアウトだ! 俺がもしリミットかかってたらどうすんだ! いつも言ってるだろ、人は頼るな――」
「自分を信じろ、でしょ! もう聞き飽きたそれー」
「聞き飽きるくらい聞かないとお前は全く頭に入れんだろ!」
うげーーと項垂れながら飲み物を飲む紗奈は、心なしか楽しそうだった。その証拠にポニーテールがぶんぶんと動いている。
実にわかりやすい。
そんな紗奈が飲み物を飲んでいる間、警戒を怠っていなかった達也は、アイテムポーチを確認したうえで紗奈に帰還を提案し、地上を目指すことになった。
今回の目的であった、紗奈の防具用に使う鉄鉱石が計算より早く手に入った故の決断だ。
「ふぅ、とりあえず今日はここまでにしとくか……なんか嫌な予感するし……」
「え! 地上戻ったら今日もうログアウト!?やだやだ、まだいたい!」
「だめだ! ゲームは一日一時間だ! 言う事聞かないならここに置いてくぞ!」
「……っ! ぐぬぬぬぬぬぬ!!」
飲み物を飲み終えた紗奈は、先に歩いていった達也を、卑怯だ! 鬼だ! と騒ぎ立てながらついていく。
なんだかんだでべったりして来る紗奈にため息をつきながら、達也は懐から赤色のペンダントを取りだし、
「そういやこれ、紗奈にやるよ」
「え!! なにこれなにこれ! いいの! え!!! いいの!?」
「うるさい、いいから首貸せ」
やったやった! とポニーテールを振り回す紗奈を押さえ込みながら、強引にペンダントを付ける達也。
ペンダントを付け終えた直後、持ち主に反応するようにペンダントが淡く輝くのを見て、紗奈は無知ながらにも、これはまさか! と、目をキラキラさせながら達也を見つめる。
「あぁそれは、所持者恩恵だ」
「そ、そんな高価なものを私に……あ、まさか昨日の地獄の素材集めこの為!?」
「ま、そんなとこかな」
キャー!! イケメン! と、やかましい紗奈のポニーテールを鷲掴みにする達也は、心のどこかで悲しさを覚えていた――
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