マリア・ガーネット後編2
いやぁ、マリアの話止まらん!!!
「姉ちゃん……どこいっちゃったのかな……」
「大丈夫だよ、きっとお買い物にでも行ってるんだよ……ほら、もう遅いから寝よ?」
家に残されたコハクとヒイロはそんなことを話しながら、暗い部屋に閉じこもっていた。
ご飯を食べ終え、食器を片付けようとリビングに戻ったコハクが、マリアが外出していることに気づいたのだ。
それに加え、弓がないことにも気づいていたがあえてヒイロには伝えていない。
きっとヒイロに言ったら、私のせいだと、自分を攻めるからだ。
それでも、一番の支えである姉がいないとなるとヒイロの心も癒えないと思い、自室から布団を引っ張り出したコハクはベッドの近くに敷き、一緒に寝ることにした。
「おやすみヒイロ!」
「うん……」
コハクの言葉に対し、ぐったりとしつつも、一緒に寝るの久しぶりだぁと微笑むヒイロは安心するように目を瞑る。
その姿を見届けたコハクもつられるように微笑み、布団の中にもぐる。
明日という日に期待して――
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「……っ!」
『ふひひひひひひひッ! 残念だなー! ルルの事、ただ瞬間移動できるだけの女とか思ってるー?』
左手で矢が貫通した右腕を抑えながら睨みつける私に対し、ルルは皮肉な笑みでこちらを見つめる。
意味がわからなかった。
確かに私の矢はルルに貫通した、それなのに……。
私は激痛が走る右腕に耐えながら、最大限に頭を回転させ、一つの答えにを導き出す。
「すり抜け……」
『ふひひッ! ご名答ー! あんたには特別に教えてあげる、そう! ルルの能力は、幽霊! 瞬間移動もできるし、すり抜けだって出来ちゃうもんねー! ルル最強ー! って、いっつも自慢してからルルは人殺すんだーふひひッ!』
強すぎる――
ただその一言が私の頭を支配する。
逃げもできず攻撃も当たらない、出会った瞬間に負けが確定していたと言っても過言じゃない。
己の無力さに思わず右腕を抑える手に力が入る。
もっと冷静に行動していればこんなことにはならなかった……。
そんな後悔ばかりが生まれる中、ダラダラと流れる血を見たルルはさらに笑い、ステッキを私に向けた。
『もうおしまーい、ルルの勝ちは確定時効なんだから、大人しく――』
そう言いながらステッキを振りかぶる瞬間を私は見逃さなかった。
「ふっ!」
一瞬で能力を解放した私は、ルルの体をすり抜けたあと、暗い森の中へ走り抜ける。
諦めない――
例え勝てなくても、逃げてまたやり直せばいい……。
私はそんな甘い幻想を抱いてしまう。
そんなに簡単に逃してくれる相手じゃない。そんなこと百も承知だ。
それでも私は諦めない……あの子たちが待っていてくれるから――
今も家で待たせてしまっている二人の顔を思い浮かべ、涙が流れそうになった時、体がガクッと下がったのを感じた。
「くっ、体力が……」
体が速さに耐えられていないのと、先程までの能力の酷使で足の疲労は限界を迎えていた。
どんなについてこれるのであっても、見失わせてしまえばこっちのもの。
そう思っていたが、体力が枯れてしまえばさすがに後がない。
私はなるべく四方に逃げながら次の作戦を考える。
(弓はもう使えない……どこかに身を潜める?)
そんなことを考えながら走っていた時、それは突然起きてしまった。
「え……」
足が急激に動かなくなり、元のスピードに戻る。
そして慣性に従って前へ吹き飛んだ私はすぐに察してしまった――
「タイムリミッ……ト?」
私の能力は一日に一個ランダムで決まるもの。
つまり0時を回れば変わる。
私の能力は今日を生きる力なんてものじゃない。
一時の姫、シンデレラの様に儚く、脆い、残酷な能力だ――
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