マリア・ガーネット後編1
さてさてさて、マリアの話がやっと終わりに近づいてきましたよー
走った。
今日の能力なら勝てる。
そう確信していた私は、あれほど嫌いだった能力に思い縋った。
場所はわかる。家から大分離れた森の中。
噂以前に、私は人身売買をしているところを見た事がある。
他人に興味なんて無い私は、己の無力を言い訳にその人を見捨てた。
きっと売られた人の親族は今の私と同じ気持ち……。
「だめ、集中しないと……」
昔のことは捨て置けと、目の前の木々を走り抜ける事に集中した私は、己の疲労に気づかないまま駆け抜ける。
そして――
「はぁ……はぁ……ついた…………」
不自然に切り取られたように木々が無くなったそこには、質素な古民家が誰の目にもつかぬところでひっそりとたたずんでいた。
苔などが生え、陰気臭いその古民家は、どこか異様で不気味だった。
そんな怪しい家を横目に、私は今日の能力、光足を解除しながら茂みに隠れる。
「狙うなら出てきたところ……または……」
高速移動が出来るこの能力は私の弓と相性がいい。
何度撃っても私の元へ帰ってくる忠誠矢。スキルの必中矢。これを使えば捕えることは確実に出来る。
勝てる――
そう踏み切り、弓を手に持った時だった――
『さぁて、君は何しにこんな所に来たのかなー? ふひひひひひッ!』
「……っ!」
背後から現れた気の狂った様な女の声は、直ぐに目の前に現れ、
『ねぇねぇ、どうしたの? もうお話も出来ないのー? それじゃルルつまんなーい! さっさとほらその弓で私を居抜きなよー!!』
「うる……さいっ!!」
目の前に姿を現した女はとても小柄で、青色の髪の毛をクルクルにしたヘアスタイル。ゴスロリにも似た衣装に身を包んだ女は、右手に持ったステッキを私の目の前に突きつける。
速い……いや…………。
私のスピードをも上回るスピード。それはもう瞬間移動そのものだった。
『死になよ』
「くっ、光足ッ!」
相手の目の色が変わったその一瞬、私は能力を使って森の中を一気に駆け抜ける。
森の中なら隠れながら射抜くことが出来る。そう考えたからだ。
足場が不安定なのが難点だが、日々の訓練で補える程度だ。
私は流れるように大きく飛躍したあと、矢筒から忠誠矢を取り出し、目立つゴスロリ衣装に照準を合わせる。
「こんな所で死ねない! 食らえ……必忠誠ッ!」
こちらから見えている敵に照準を合わせれば、射抜くまで私の矢は止まらない。
はずだった――
『ふひひひひッ! なーにー? 私から逃げれるとでも思ったのぉ?』
「……っ!」
瞬間移動。
数百メートル離れたところにいる私の元へ、ルルは息切れせずに近づく……。この子の能力は瞬間移動で間違いない。
私は反射的に加速し、距離を取る。
何度離れてもきっと瞬間移動でついてくるだろうが、それでもまだこの子の攻撃パターンを知らない以上、安易に近づくのは得策ではない。
それに……。
私の矢は絶対に貫く。
そこの信頼が一番の原動力だった。
『逃げても無駄だって言ってるのにー! もう面倒臭いからさっさと倒してルルおうち帰る!』
「残念ね……私の矢は貫くまで止まらない…………あなたの負けよ」
『……ッ!!』
加速先に先回りしてステッキを向けてきたルルに私はそう言い放ち、足を止めた。
直後。
ヒュンッ! という鋭い音と共にルルの背中から私の矢は貫通し――
グサリと、
「え………………」
私の右腕は己の矢に射抜かれた――
速度を重視した軽装の私の腕は、簡単に血に染まる。
『ふひひひひひひひッ! ばーか』
こうして私の初撃は虚しく散り、不気味な笑い声がただただ森に響くだけだった――
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m(_ _)m
やっとマリアの話が終わるぞぉぉ!