主様
_φ(°-°=)
――異空間
「さてさて……まずはこの迷路の攻略、マッチョ仮面の警戒、そしてあの声の正体を……ってところか」
見慣れたくもない石壁を見ながら呟やいた静流は、またしても靴を忘れたことを後悔しながら探索を開始する。
仮に街などに行き着いたとしても、会話が出来ないことを踏まえれば大した情報は手に入らないだろう……。
それでも何かが進むのならばと、痛みの走る足を進める。
「てか俺、元の世界の戻り方結局聞いてねぇや……」
大事なことを聞き忘れていたことに肝を冷やす静流は、こりゃ参ったなと空を仰ぐ。
達也がいない今、信じられるのは自分しかいない。持ち物は何も無く、能力もない。絶望的に勘弁して欲しい状況だ。
「はぁ、この壁やっぱ登るしかねぇ……のか?」
バカ高い壁をみて身震いした静流は、そりゃねぇぜ……。と溜息をつきながらしゃがみ込む。
ゲームのくせして全く持ってストーリーの進まない展開に、静流はため息しか出てこない。
仕方ねぇかと意を決して登ることを決めた静流は、石壁に足をかける。
素足というハンデのせいであまり力が入らないが、その分腕力でカバーする。
「ふんどりゃぁぁぁぁっっ!!!」
腕が引きちぎれそうだった――
だてに腕立て伏せの記録3回じゃないぜと涙目になりながら諦めた静流は、2メートル程の高さからボテっと地面に落ちる。
こりゃ、筋肉皆無の俺には無理かぁ! と、n回目となる溜息をつきながら立ち上がった時だった。
「おっと、危ねぇ。さすがにこのカード無くすのはやべぇよな、って…………ん?」
ポケットから落ちかけたカードを慌てて手に取った静流は、先程まで確実になかった文字に目をひきつけられた。
「こ、これはぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
【順応】と書かれたカードに歓喜が止まらない。そう、静流のカードに能力が書かさっていたのだ。
待ち望んだ己だけの力! 最高最強の力! これで俺も最強に! と、能力の説明欄を見たのだが……。
「えーとなになに、どんな言葉も話せて、聞き取ることが可能になる為……会話が可能…………あっ、ふーん」
びみょいやん?
なんだろう。その、なんだろう……うん。
もっと派手なやつがよかったかなぁ?
派手な炎で敵を燃やし尽くしたり、冷徹な氷で相手を凍らせたり……雷の力で電光石火の攻撃をしたり…………。
あれ、現実っていちいち厳しくね?
プルプルと震えながらガクッと膝から崩れ落ちた静流は、白目になりながら涙を流す。
「くっそぉ……達也ってやっぱ凄かったのかなぁ…………」
チート級の能力を持っていたんだなと改めて思った静流は、己のカードをみて絶望しかけたが……。
「まぁでも……逆に言えばこれ、この世界じゃ結構有能だったりして……」
話せない中で話せる奴が1人と考えれば、優越and特別感はとんでもないが……。
それも何も、この世界の隠されたものの力量によるな……。と考え込んだ静流は、まぁ現実受け止めねぇと先進めねぇよなと、再び立ち上がり足を動かす。
この能力を試すためにも第1村人を探すしかない。これがどれ程までの力があるかは、やはり使わないとわからない。
「うーん。どうにかしてここを出たいんだがなぁ……それにあの声の主も気になるし……」
先程死にかけた際に聞こえた声を、静流は薄れ薄れな記憶の中から思い返す。
女性と言うより女の子の声? だった気がする。語彙力皆無なのは静流ではなく作者の問題なのだが、どこか幼く可愛らしく冷静な声だったことを覚えている。
「きっとあの子が助けてくれなかったら今頃……。聞いてるかどうか分かんねぇけど……ありがとな――」
と、ちょっと恥ずかしい事を言った時だった。
脳裏にその子は帰ってきた――
《主様は独り言が多いのですね……ぼっ……ち? なのですか? 可哀想なので私がお話してあげますね……昔昔あるところに、1匹の埃と1匹の毛玉がありました――》
「いや、照れくさいこと言った後にいきなり出てきてびっくりした後に、俺を貶して意味のわからねぇ埃と毛玉の純愛ストーリーなんて聞きたくねぇよ! って色々ツッコミ所ありすぎて処理落ちなうだからな!?」
《主様はうるさいっと……メモメモですね》
「なんか、丁寧語とか主様とか結構へりくだってるように見せかけて、ひでぇ事言い過ぎな!?」
そんな、どこか失礼で天然ボケしながら脳裏に響いてくる声は、緊張感を緩和してくれる、安心する声だった――
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