8話 パーティ
あれから俺は本来の目的だった鉱石の回収を終えて、ルシアと共にダンジョンを出る。
ルシアが少し俺と距離を空けていたのが気になったけれど、さっき汚れていると言っていたから、それを気にしているのだろう。
「リ、リベルさんは本当にBランク冒険者なんですね……助けてくださり、ありがとうございます」
ルシアにはこれから強くなってもらう予定だけど、今のルシアでは下層のモンスターに敵わない。
ダンジョン内では俺が先頭を歩き、モンスターを蹴散らしていたことに驚きながら、ルシアが俺に頭を下げている。
「リベルでいいし敬語も要らない。ルシアのパーティ次第だけど、これから仲間になるんだから」
「そ、そうですか? 私は実力不足から常に敬語だったので敬語のままで……それでも、リベルと呼ばせてください」
「わかった。それにしても……Bランク冒険者って、そんなに凄いのか?」
俺としては一週間でなれたからBランク、上位冒険者と呼ばれてもピンとこないけど、聞いた瞬間にルシアが近づいてきて。
「とてつもなく凄いですよ! Bランク以上の冒険者はこの国でも十組も満たしておりませんからね! 特に一週間でCからBに上がるのは前代未聞ですよ!!」
興奮した様子でルシアが語るも、距離が近すぎたことを自覚して少し離れ、顔を赤くしている。
受付の人が言うには……連続達成回数、達成速度、問題皆無が完璧だからと言っていたっけ。
それに、ギルドマスターのラッセから、なるべく俺のランクを早く上げて欲しいと言われていたらしい。
Aランクモンスターを倒したからか、使える人材のランクは上げておきたいのだろう。
俺達は王都に戻ろうとしていて、ルシアに尋ねる。
「ルシアは、安全地帯の部屋で3日間も居たのか?」
「はい。ワープしたのだと理解して、部屋の外に居たモンスターが強すぎたのですぐに部屋へ戻り、最初はずっと素振りをしていました」
ルシアは最初、1人で脱出しようと考えていたのか。
「そうしていたらお腹が空いてきまして……宝箱が爆発した時に荷物が弾け飛ぶかもしれないと、荷物は何も持っていませんでしたからね」
冒険者の通貨や道具は、冒険者カードを使うことで倉庫のようにギルド内での管理ができる。
特に通貨は別の冒険者ギルドでも預けた金額と同じ金額を引き出せるからかなり便利で、ルシアは見捨てられているも、預けている通貨や道具が奪われているということはないだろう。
「何もせず救助を待つのが一番だと判断して素振りを止め……それ以降は動かずに助けを待っていました」
ルシアが落ち込みながら俺に話す。
さっきの発言的に、本気で死を覚悟していたのだろう。
俺とルシアは会話をしながら歩き、冒険者ギルドへ戻ろうとしていた。
× × ×
俺とルシアは冒険者ギルドに到着して、依頼の報告を終えると、ルシアが受付の人に。
「あ、あの……冒険者カードの更新をお願いします」
ルシアが恐る恐る冒険者カードを受付の人に見せて、受付の人はカードを魔道具に通す。
あれで冒険者のパーティ情報も管理しているらしいけれど、ルシアはまだ、捜索願いが出ていると信じていたのだろう。
「完了いたしました」
「あ、ありがとうございます」
受付の人から冒険者カードを緊張した様子でルシアが受け取って、残念そうにしながら。
「……考えたくはありませんでしたが、どうやら私はペラーネのパーティに所属していないようです」
ペラーネという女性が、ルシアのパーティのリーダーをしているらしい。
ルシアが思いきり落ち込んでいるも、俺としては話し合う手間が省けて何よりなんだけど、それはルシアには言わないでおこう。
落ち込みながらも、ルシアが気を取り直して。
「リベル、申しわけありませんけど、やはり一度ペラーネに聞いてみようと思います」
「わかった」
ルシアとしても、本人に聞かなければならないと考えていたのかもしれない。
ひとまず冒険者ギルドを後にしようとした瞬間、ルシアが急に俺を引っ張り、入口から離れて行く。
「ど、どうした?」
「ごめんなさい……その、ペラーネの姿が見えたのですが……」
それなら探す手間が省けて何よりだと考えてしまうも……俺は、彼女達を見て納得してしまう。
パーティは4人1組……それは冒険者カードの登録限度というのもあり、それ以上のパーティなら複合パーティとして登録する必要がある。
複合パーティ登録ができるのはCランク以上からで、ルシア達Dランクパーティは登録できない。
つまり、ルシア達のパーティの最大人数はどう足掻いても4人だ。
それなのに、ペラーネと呼ばれていた金髪の悪そうな顔をした長身の女性が、3人の武器を装備した冒険者達と共に居る。
ルシアは最悪の事態を想像したのか顔を真っ青にしながら、ペラーネ達の声が聞こえるテーブル席に向かい、俺も同行すると。
「トーテツ君、君を新しく入れたのは正解だったわ!」
「確かに、ルシアよりも動けるからな!」
ルシアの姿は、ペラーネ達からは背中しか見えないし、何よりもう居ないものとして扱っているから気にしていないのだろう。
「それにしても……パーティを抜けたというルシアって人、そんなに使えなかったのですか?」
トーテツと呼ばれていた少年が質問して、ルシアが驚き、そして涙目になっている。
新入りに対して前の仲間を捨てたなんて言えないのだろう……ルシアが抜けたことにしたのか。
パーティの変更はリーダーの自由だからこそだけど、酷いもので……予想していたことでもある。
そもそも普通の思考なら救助依頼を出すのに出さず切り捨てた時点で、ペラーネのパーティがクズしか居ない事は解りきっていた。
ただ単に気に食わないから――俺はペラーネのパーティを潰す気でいた。
「ルシア、少し外で待っていてくれないか?」
「えっ? は、はい……」
そう言ってルシアがとぼとぼと冒険者ギルドを後にする……途中で止められる可能性があるから、ルシアには外に出てもらう必要がある。
俺はペラーネ達が座る席に向かい、ペラーネの前に立つと。
「なっ、なによ?」
「さっきの発言を耳にしてな……そのトーテツが入る前のメンバー、ルシアがパーティを抜けたのって、何日前だ?」
「二日前だけど、それがどうしたのよ? 坊や、口の利き方がなってないんじゃない?」
明らかに年下なのに敬う気がない俺が気に食わないのか、ペラーネが睨む。
俺はそんなペラーネの目の前に、冒険者カードを見せつけて。
「冒険者はランクで決まる……俺の方がお前達よりランクが高い。お前の方が敬うべきだな」
Bランク冒険者の証明である赤色のカードを見せると、ペラーネが苛立って。
「っっ、何の用、ですか?」
冒険者ギルド内でカードを見せたのだから、偽物ではないことは解りきっているだろう。
言い返されるとは思っていなかったのか、唇を噛みながらもペラーネが聞いてくる。
「お前達は三日前、ダンジョンの探索クエストを受けていた。身の程を知らず宝箱を仲間のルシアに開けさせ、姿が消えたから見捨てた……違うか?」
「そ、そんな……」
驚いたのはペラーネではなく、新入りのトーテツだった。
ペラーネ達三人が黙っているのが気になったのだろう。
そんな中で、ペラーネが俺を睨み。
「な、なんの証拠があって、そんなことを言っているのよ!」
「事実を言っているだけだ。お前の冒険者カードを受付で確認すれば、ダンジョンを受けた事、依頼中にペラーネがリーダーの権限でルシアを追放した事、全て出てくるぞ?」
ペラーネは隠し通せると考えていたのかもしれないけれど、事実を知っている俺には通じない。
俺はかなりの大声で話すことで、周辺が噂している……人道的に考えて、捜索依頼を出さずに切り捨てたのは悪評でしかないからな。
これでペラーネのパーティと関わりたいと思う人は、居なくなっただろう。
「うっ……そ、それがどうしたのよ?」
「俺はダンジョンの依頼を受けたが、そこで出会ったルシアを助けて話を聞いていた……俺はルシアを仲間にするつもりだが、構わないな?」
許可が欲しかったというよりも、俺がペラーネのパーティを潰したかっただけだ。
理由として一応ルシアを仲間に入れることについて話を通しておくという形にしながら、俺はペラーネ達の悪評をギルドに伝えることに成功する。
「べ、別に構わないわよ」
「そうか」
ペラーネから許可を貰い、ペラーネのパーティの評判も落とせた俺は、冒険者ギルドを後にする。
話を聞いたトーテツは辞めたそうにしていて、他の男二人も後悔しているのか目を伏せていたけれど、一人だけ黙りながらも敵意を持った眼で俺を睨み続けていたペラーネが、少し気になってしまった。