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7話 捨てられた少女

 モンスターが徘徊するダンジョンには、モンスターが関わろうとしない安全地帯の部屋がある。


 その部屋にルシアが一人で居る……理由は何点か思いつくけれど、気になることがある。


 保存食を食べて満足げな笑みを浮かべているルシアに、俺は尋ねる。


「ルシア、君は食料をくれるのなら、なんでもするって言ったよな?」


「はい! 本当になんでもいたしますよ! 私はあの場で死んで生き返ったようなものですから!」


 そこまでなのか。


 確かにあの時の目の輝かせっぷりには驚くしかなかったけれど、本当に死を覚悟していたのだろう。


 三日間も何も食べず、よく耐え抜いたと思うしかない。


 このダンジョンは昔からあるらしく、最後まで地図が描かれていることもあって、発生する物質の回収やモンスターを討伐して素材を集める以外の依頼がない。


 知っている限りでも、今日Bランクの探索依頼が出るまで、冒険者ランクはDランクの浅い階層でモンスターを討伐して素材集めしかなかったはずだ。


 安全地帯から出られないということは、彼女の実力ではこの階層は無理だと悟っているのだろう。


「ダンジョンに来たということは冒険者だろ? どうしてここに居る?」


「それなんですけど……宝箱を開けた結果、ワープしてしまいました」


 やはりそうか。


 前世の知識でもダンジョンについては未知のもので、それは今でも変わりない。


 ダンジョン自体未だに解明されていないから、どうしてダンジョンに宝箱があるのかは解らないも、箱の中はダンジョンでしか手に入らない貴重な道具が入っている。


 それはただ冒険者達に宝箱を開けさせるための撒き餌のようなもので……宝箱の中身が貴重な道具なのは、運がよかったらの場合だ。


 いきなりモンスターを集める警報が鳴ったり、爆発してダメージを負ったりと……冒険者を追い詰める効果も多く、リスクはかなり高い。


「その宝箱を一番役立たずな私が開けることになりまして……安全地帯に転送されたのはよかったのですけど、外のモンスターが強すぎて出ることができませんでした」


「そういうことか……」


 そこまで考えて……ルシアは三日何も食べていない、つまり三日前に宝箱を開けたのだろう。


 宝箱を開けて最悪の事態とも呼ばれるワープを当ててしまった場合、宝箱の近くに居た冒険者は、餌として下層の安全地帯に送られる。

 それによって安全地帯はワープ地点なのではないかとも言われているけれど、実際どうなのかは解らない。


 宝箱は耐久力のある者か、ルシアのように犠牲となる者一人で開けるのが一番安全とされていて、ワープした場合、他のパーティメンバーは急いで救助のために下層へ向かう。


 下層に向かうほどの実力がないのなら、即座に救出の依頼をギルドに伝えることとなっている。


 そのはずなのに、俺はここ三日間、冒険者ギルドで一度も捜索の依頼を見ていない。


 それはつまり、ルシアは完全に見捨てられたということだろう。


 俺の表情で察したのか、ルシアが寂しげに微笑んで。


「……気にしないでください。私が未熟だっただけ、それだけですから」


 ルシアがそう言うけれど、彼女の諦めたような表情を見ると、俺は追放される寸前の自分自身を思い返してしまう。


 前世の記憶が戻らなければ、俺もさっきのルシアみたいに生きることを諦めていただろう……それに、いい機会だ。


「ルシア、さっきなんでもすると言ったな」


 俺がそう言って近づくと、ルシアは呆然として、それから一気に顔を赤くしながら後ろに下がって。


「ちょ、ちょっと待ってください!? 私はその、汚れていますし、初めてですから、できればここじゃなくて浴場で体を洗って、それから――」


「俺はBランク冒険者のリベルだ。ルシア、俺の仲間になって欲しい」


「――やっぱりちょっと豪華な宿をとって、ムードに浸ってからって、仲間ですか?」


 俺からすると、ルシアの発言通りのことをしたいという気持ちはある。


 その場合――恐ろしいのは独占欲の強いアリシア姉さんだ。


 俺とそういう関係になるのなら、アリシア姉さんと戦えるぐらいにならなければ命の保証はない。


 アリシア姉さんは俺には絶対に危害を加えない。


 もしルシアと今そういう関係になったら――それを知った翌日、ルシアは間違いなく行方不明となっているだろう。


 今までは貴族という立場から遠回しに俺に関わる人間を兄とカーラ以外は排除してきたアリシア姉さんが、今は立場を気にしなくていい平民となっている。


 それが何よりも恐ろしい……そう考えながら、俺は話を続ける。


「仲間が欲しいと思っていたんだけど……ルシアは、俺の仲間になるのが嫌か?」


「いっ、いえいえ! リベルさんは見た目が可愛いし下僕になれと言われても最高って……なんでもないです! 仲間にして欲しいのですけど、私はDランクパーティでして……元のパーティの人達が許してくれるかどうか解りません」


 そのパーティは捜索依頼すら出していないのだから、恐らくルシアを切り捨てているのだろう。


 それでもルシアとしては、元のパーティの人達が大事なのかもしれない。


 それなら――俺には一つ、考えがあった。

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