6話 ダンジョン探索
アリシア姉さんとキャシーは家を飛び出し、俺のことを探しているようだ。
どうやら伝えたかったことはそのことだけのようで、少し沈黙があり、カーラがじっと熱っぽい瞳で俺を眺めて。
「今までの弱々しさから、一気に凜々しくなったギャップが溜りませんね……リベル、私の従者になって、色々と奉仕してくれませんか? そうすれば路頭に迷うことはありませんよ」
顔を赤らめながら、両手を頬に当てて恥ずかしそうに告げるカーラだけど。
「正気か?」
「……冗談です」
だよな。
ただでさえ俺がこの国に居ることを秘密にして、その上俺を従者にする……親友とはいえアリシア姉さんがカーラをどんな目に合わせるか……考えただけでも恐ろしい。
「流石に命が惜しいですからね……それでは、私は失礼いたします」
さっきの従者にしたいという発言はいつも通りからかっているだけだろうけど、どこか残念そうにカーラが冒険者ギルドから去って行き、俺は自分の冒険者カードを眺める。
「Bランク、上位冒険者か……」
ここまでは順調だけど、俺は前世の記憶を呼び覚ますと、不安になっていた。
俺の前世――個としては世界最強まで上りつめた魔法使いは、数の力によって消耗戦となり、命を落とした。
今の俺は依頼をこなしながら体力と魔力を消費することで、理想的な成長を遂げているから……いずれ前世の魔法使いを凌駕するのは間違いない。
それでも……俺としては、一人だからこそ敗北した前世の記憶が、印象に残っていた。
「冒険者はパーティ登録をすれば、リーダーのランクが全てになる」
実際、さっき絡んできた兄弟は、兄と弟で力の差があったのに、弟は兄と同格であるように振舞っていた。
「当面の目的はSランク冒険者だったけれど……前世のようにならないために、仲間が欲しいな」
力の差があったとしても、敵を引きつけたりしてくれるだけで充分助かるだろう。
急にそんなことを考え始めたのは、これから平民となるアリシア姉さんと、妹のキャシーを仲間にするのもアリだと考えてしまったからだ。
そこまで考えて……俺は今までのことを思い返してしまう。
アリシア姉さんは常に俺を溺愛し、キャシーはお兄さまお兄さまとベッタリで色々と頼まれていた。
あの頃の魔法の知識はキャシーの方が遥かに上だったのに、絵本を読んで欲しいとか、抱っこして運んで欲しいとか、そんな感じの頼みばかり受けていたっけ。
魔法以外はどこか抜けていたキャシーと、俺を最優先する以外は欠点がないとまで言われていたアリシア姉さん。
「姉さんとキャシーが冒険者になってくれるかどうかも解らないけれど……もう一人、誰かを仲間にしておきたい」
アリシア姉さんは俺を最大限甘やかすだろうし、キャシーは俺に甘えてくる。
そんな中で冷静な判断がくだせる人を一人、俺は仲間にしたいと考えるも……そんな人が居るのだろうか?
× × ×
翌日――冒険者ギルドで仲間募集の掲示板を眺めているも、仲間を募集すると書かれた紙しかなくて、だからこそ仲間になりたい人はその募集している人の元へ向かうのだろう。
俺も仲間募集の紙を掲示してもらうのが一番よさそうだけど、前世は一人で戦っていたからこそ、どう勧誘すればいいのかが解らない。
掲示板の紙を真似して仲間募集をしようかと考えたけれど、俺はBランクといえど一週間でBランクになった得体の知れない存在だ。
ひとまず仲間捜しを諦めた俺は、いつも通り依頼を受けて……ダンジョンの探索へと向かう。
都市の壁を抜けて、かなり離れた場所にあるダンジョンに到着して……ダンジョン内にある珍しい鉱石を手に入れるだけの簡単な依頼で、全十階層あるらしいダンジョンの七層までやって来ていた。
どうやら後半部にしか存在していない鉱石が必要らしく、七階層の分では足りなかったから八階層の階段を降りた瞬間……俺は人の気配を感じ取る。
それにしては、ダンジョンを探索した後のようなものは五階層ぐらいまでしかなくて、俺は違和感を感じてしまう。
モンスターが出てこない部屋がダンジョンの中には幾つかあって……その安全地帯に一人だけ、誰かが居るらしい。
今の俺は魔力を周辺に飛ばすことでダンジョンの構造やモンスターやトラップを把握することができ、地図すら持っていない。
それにしても、一人だけというのが気になってしまう。
俺以外の冒険者パーティは全員三人か四人で行動していたけれど、一人だけというのはかなり珍しかった。
「……もしかしたら、仲間になってくれるかもしれない」
八階層まで来るのだから、Cランク以上なのは間違いないと考えて、俺はモンスターを撃退しながらその安全地帯へと向かう。
安全地帯なんて利用せずさっさと帰ろうと考えていたけれど、仲間になって可能性があるのなら一度会ってみようと俺は、安全地帯の扉を開けると。
「うわあああああっ!? 扉が開いたって……人!? 人ですか!?」
俺の目の前には、短い銀髪がバサバサとしている俺と同じぐらいの背丈をした少女が居て……かなり可愛いな。
整った顔立ちと腰には短いも剣を備え、背中には盾を背負っている……戦士職だけあって、引き締まった体つきをしていた。
その少女は俺の姿を見た瞬間に目を輝かせて感激しているけれど……どういうことだろうか?
そう考えた瞬間に、彼女のお腹がきゅ~と大きく鳴って、涙目で俺を眺めながら。
「わ、私はルシアと言います。なんでもいたします……お願いですから、何か食糧を分けてもらえないでしょうか……」
どうやら出るに出られなくなったみたいだけど……それなら、一人でここに居るのはおかしい気がする。
「これでいいか?」
「なんでも構いません! 本当に、本当にありがとうございます!!」
鞄から保存食を取り出して渡すと、ルシアは一心不乱に感謝の言葉を述べながら食べていく。
なんでもすると言ったのだから、仲間になって欲しいものだ。