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5話 追放を知る

 時間は少し遡り――エストロウ家の三男、リベル・エストロウを勘当した翌日。


 長男アルクはいきなり妹のアリシアに呼び出されたかと思えば、呼び出された謁見の間にはエストロウ家の全員が揃っていた。


 そして集合したことを確認して、長女アリシアが父、母、次男のエルトを眺めて。


「兄さん、私とキャシーちゃんは……貴方達が想像しているよりも遥かに、これ以上ないほどに怒っています」


 そうアリシアが微笑みながら言うも、目が一切笑っていないことに、アルクは戦慄を覚えてしまう。


 長身に似合う長いブロンドヘアーを後ろで一本に束ね、胸当てで隠そうとするも隠せていない抜群のスタイルを見せる美女、去年18歳という若さで剣帝となった長女アリシア。


 剣技の中でも最高峰とされる四大帝技の一つを会得し、剣帝と呼ばれるようになったアリシアなら……ここに居る一人を除く全ての人間を、反応するよりも先に仕留めることができるはずだ。


 そして、唯一アリシアに対抗できる存在――今年11歳で賢者となり、最年少賢者と呼ばれているほどのキャシーは、アリシアの横に立っている。


 キャシーは小柄で短い黒髪が煌めく、人形のような黒くヒラヒラとしたドレスを着た妹……母親似でリベルに似た雰囲気を感じるも、背丈は頭一つ分ぐらいリベルより低い。


「あたしも超怒ってる。唯一のお兄さまが居なくなったことに怒ってる」


 キャシーはアルクとエルトも兄なのに、二人のことは絶対に兄と呼ばず呼び捨てで見下し、リベルだけを「お兄さま」と慕っている。


 そしてアリシアはリベルを溺愛していて……露骨な格差に苛立ち、アルクはエルトと共に、今までリベルを貶めていた。


 そこまで考えて――アルクは一日前の、リベルを叩きのめそうとして、返り討ちに合ったことを思い返す。


 傲慢で二人――アリシアとキャシーよりも弱いくせに、兄ぶろうとしているから嫌われている。


 それは図星でしかなくて、再び思い出したくもないリベルのことを思い出して、アルクが全身を震えさせていると。


「ま、待て! 私達の立場を上げるためには、出来損ないのリベルが――」


 脅えている父と母は恐らく、妹達はリベルよりも家をとると推測していたのだろうし、実際アルクとエルトもそう考えている。

 出来損ないのリベルが弱いから、憐れんで励ましている……そう確信していたのに、実際は違った。


 アルク達の反応を見てか、アリシアが苛立ちながらも溜息を吐いて。 


「……なるほど、色々と把握できました……それなら、リベルの居ないエストロウ家に用はありません」


「そうですね」


 そう言ってアリシアとキャシーが呼んでおいて謁見の間から去ろうとして、父が慌てた様子で叫ぶ。


「ま、待て! 呼んでおいてどこに行く気だ!?」


「リベルを探します。色々と手続きをしているようですから、もうエストロウ家に戻せないでしょう……それなら、私とキャシーも、この家を捨てることにします」


「そんなことが許されると――」


 その発言を、最後まで告げることができず、父、母がいきなり意識をなくして倒れていく。


「許されるとか許されないとかじゃない。お兄さまが居るか居ないか、それが最重要」


「キャシーちゃんの言うとおりですね。さて、兄さんとエルトには、ちょっと聞かないといけないことがあります……貴方達は今回の件、知っていましたよね?」


「はっ、はい!」


 アルトは何も言えず、エルトが大声で返事をすると。


「そして追放された後、いつも通りリベルを痛めつけた……何をしましたか?」


「なっ!? お前、知っていたのか!?」


 アルクはアリシアの発言が信じられず、思わず叫ぶ。


 それは自白しているようなものだけど、アルクは叫ばずにはいられない。


「いつもリベルを甘やかしていたのに、どうして俺達が痛めつけていたことを知っている!?」


「だって、そう誘導したのは私ですから……やり過ぎたら止める気でいましたけど、まさか昨日勘当して、追放しているだなんて知りませんでした」


「姉さまの性癖、怖いです」


「昨日はリベルを追放した……もう弟でもないと考えたのなら、許容範囲を超えてしまったかもしれません。昨日何をしたか、詳しく聞かせてもらいます」


 アリシアがそう凄んだことによって、アルクとエルトは最後にリベルを叩きのめそうとしたことを話す。


 リベルの急激な性格の変化、アルクとエルトが返り討ちに合ったことを伝えた瞬間――兄達に興味をなくしたのか、アリシアとキャシーは館から去って行った。


 × × ×


 あれから館を出て、アリシアは満面の笑みを浮かべながら、キャシーを抱きしめながら街へと向かっている。


「姉さまはご機嫌なようですけれど、どうしてですか?」


「キャシーちゃんなら解るでしょう? 追い詰められたことで、やっとリベルが本来の力を発揮したの! そして発言! 今のリベルなら私が仕向けたと知っているかも知れないし、私を見たらどんな反応になるのか、本当に楽しみ!!」


「普段通りでも嬉しいし、蔑まれても嬉しいなんて……姉さまは、少し変です。私は蔑まれると辛くなりそうです」


「心が折れたリベルが私に全て委ねてくれるのが一番だったけど、私の期待に応えてくれたのだから、嬉しくなって当然でしょう? キャシーちゃんはそう思わないの?」


「あたしの考えは変わりません……お兄さまはあたしよりも壮大な魔法使いになる素質を持つ、理想のお兄さまです。それよりも……」


 キャシーがアリシアをジトッとした眼で睨む。

 それはアリシアがキャシーを抱きしめながら歩いているからではなく。 


「あたしを男装させて、お兄さまの代わりにするの……やめてくれません?」


「キャシーちゃんはリベルの代わりにはなれないわ。もしなれていたら、もっと凄いことになっているもの……これで私達も自由だから、リベルを自由にしてもいいのよね?」


「それは絶対に違うと思いますけれど……まあ、それもアリですね」


 そう姉妹が楽しげに笑い合い――リベルを探すため、アリシアとキャシーは行動を起こそうとしていた。

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