43話 新たな力
あれから俺達は家に戻り――屋敷の庭で、アリシア姉さんとルシアが木刀による鍛錬をしている。
前とは動きが格段に違うルシアにアリシア姉さんは驚きながらも、それでもアリシア姉さんの方がかなり強い。
アリシア姉さんの威圧に慣れ、ルシアがアリシア姉さんの攻撃を弾きながら距離をとる。
俺が用意した魔法薬で潜在能力を引き出し、ダンジョンでの実戦経験によるものだろう。
ルシアは俺と会う前から努力家で基礎ができていたこともあり、鍛錬による指導をしっかりと聞いていたからこそだな。
二人に気をとられている場合じゃないと、俺はアリシア姉さんの聖剣とキャシーの杖を地面に置き、通信効果を付与するために必要な素材を並べている。
「お兄さま、錬金魔法も使えるだなんて……」
そう言ってキャシーは目を輝かせながら、顔を赤らめて全身を震えさせている。
キャシーには錬金魔法が使えると前に説明しているけど、実際に目の当たりにすると興奮してしまうらしい。
さっき一度パニック状態に陥ったのを宥めたこともあって、落ち着いてはいるもまだ興奮が止まらないようだ。
「失敗する可能性はあるけどな……それじゃ、始めるぞ」
そう言うとキャシーはこくこくと何度も頷き、俺の錬金魔法を邪魔しないよう両手で自分の口を抑えている。
思わず声に出さないように配慮してくれたのだろう……賢者だったキャシーとしても、錬金魔法を見る機会は滅多にないらしい。
俺が魔力を武器と素材に流すことで素材が消えていき、消えた素材は俺の魔力と混ざり、聖剣と杖に取り込まれていく。
十分ほどで完成して――素材は全て消え、見た目は変わっていない聖剣と杖だけが残っている。
これでルシアの剣と同じように、意思による通信効果が付与された。
「リベルが私のために用意してくれた剣……今夜はこれでぇっ……」
「今夜はって、この人もしかして、家を買ってから昨日以外毎日夜に……」
鍛錬を途中で止めて興奮するアリシア姉さんを見て、ルシアが最後まで発言できず顔を赤くしているのが気になってしまう。
アリシア姉さんが俺から聖剣を受け取ったかと思えば、それを愛しそうに抱きしめて。
「あぁっ……これでリベルの声を、私の耳を経由せず直接脳が感じ取ることができるのね……」
「あたしも、一度試してみたい。ルシア、どうすればいい?」
「普通に杖を持って、頭の中でリベルと会話する感じですね」
アリシア姉さんが興奮し過ぎていたからか、キャシーはルシアに通信の仕方を教わっている。
それを冷静になったのかアリシア姉さんは寂しげに眺めているけど、あそこまで興奮していたら声もかけ辛いだろう。
ルシアの話を聞いたキャシーが、自分の杖をギュッと握って。
『お兄さま、聞こえる?』
『ああ、聞こえる』
その瞬間キャシーが頬を赤らめて俯くけど、いきなり脳に声が響くのに驚いてしまったようだ。
「戦闘中とか集中する必要がある場合は、誰の意思も聞きたくないと意識することで通信できなくすることもできる」
「リベルの声を聞きたくないだなんて思うわけないじゃない。お姉ちゃんはどんな状況でも、リベルの声が最優先よ!」
「あたしも」
「私もです。これって、リベルが強化した武器と通信できるんですよね?」
ルシアが尋ねてきたから、俺は頷いて。
「ああ。俺達四人の間なら誰でも武器を使って通信ができる。全員に声を届けたり、個別に声を届けることも可能だ」
「通信魔道具のように……ちがう、お兄さまの作ったこれはそんなのよりも遥かに凄い……量産化できたら歴史に名が残るほど」
キャシーは呆然としながら杖を眺めているけれど、量産するには素材が貴重過ぎるから無理だろう。
アリシア姉さんが興奮した様子で聖剣を抱きしめていると、キャシーの杖を凝視して。
「それにしてもキャシーちゃんの杖……あれは素敵ね。凄くよさそうぅっ……」
「あの、流石にどうかと思うんですけど……」
熱っぽい瞳をキャシーの杖に向けたアリシア姉さんに、ルシアが引いている。
キャシーは杖を感激しながら見つめてから、俺に目をやって。
「この通信は一瞬で意思が送れたけど、距離が離れるとどうなるの?」
「距離が離れても一瞬で伝わるけど、距離に応じて消費する魔力が変わる……戦闘に支障が出るほどでないけど、多用しない方がよさそうだな」
「わかった」
「そうね。お姉ちゃんはリベルとずっと一緒に居るつもりだから、昨日のようなことがない限り使う機会はなさそうかしら」
「確かにそうですね……これからどうしますか?」
アリシア姉さんの発言にルシアが納得しながら、今日の予定が終わったから尋ねてくる。
特に予定も入れていなかったから、今日はこれからルシアとアリシア姉さんは鍛錬を続行して、俺とキャシーは魔法について話し合うつもりだった。
そのはずだったけど……ルシアの動きを見ていると、次のステップに進んでもいいかもしれない。
「そうだな。ルシア、成長中の今覚えるのが一番いいと思う……今から帝技を一つ、覚えてみないか?」
「ええぇぇっっ!? 私が最強の剣技と呼ばれている帝技をですか!?」
俺の提案にルシアは驚くけど、数週間前まではDランクパーティの一員だったのに、数週間後の今日、いきなり帝技を覚えろと言われたらそうなるか。
帝技――俺の前世、アルベールが居た頃は二種類しかなくて、今は四大帝技になっているらしい。
その帝技のどれか一つを会得し、剣帝協会で披露して強さを認められれば剣帝になれる……帝技とは、それほどまでに難易度が高い剣技だ。
すぐに覚えられるわけはないと思うけど、発展途上のルシアは、今新しい力を手に入れておくべきだろう。
「ルシアが帝技……リベルの判断は的確で最高よ。でも、ルシアがこれ以上強くなったら、お姉ちゃんとして……」
会話の中で、アリシア姉さんが焦った様子で独り言を小声で呟いているけど、反論しない辺りアリシア姉さんとしても今ルシアが帝技を覚えるべきだと考えているはずだ。
それでも、どこか不安げなアリシア姉さんが、俺は気になってしまった。




