表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/43

42話 変化

 激動の一日を終えた翌日。


 俺達は朝からBランクの依頼を受け、森に住まうデスマンティスという緑色の巨大カマキリを倒すことにしていた。


 基本的には人に危害を加えず隠れて姿を現さないモンスターだけど、稀に活発となって人を襲う個体が存在し、森の脅威として恐れられているようだ。


 今回は三匹も活発になっているようで、俺達は目撃地点に現れた三匹全てのデスマンティスを倒す依頼を受けて、俺は一人で戦っている。


魔帝剣マテリアルアーク


 昨日のダンジョンでの戦い――多勢を相手に魔帝剣を使って一掃した時から、俺は試してみたいことがあった。


 だからこそ今回の戦闘は俺一人で担当するとアリシア姉さん、妹のキャシー、仲間であるルシアに頼んでいるから、三人とも俺の戦いを眺めている。


「一匹目は稲妻、二匹目は閃光、そして最後の三匹目は風の魔法を剣に纏って斬る……鮮やかすぎますよ!」


 ルシアは感激した様子で見たままを説明して、それを聞いたキャシーがうんうんと何度も頷き。 


「とてつもなく優美。体内の魔力を属性変換して剣に纏うのなら、自分に最適の魔法属性になる……お兄さまは、全魔法の素質が高いから複数の魔帝剣を可能にして、それに風魔法を使えるなんて……」


 今はもう伝説となっている風魔法だけど、冒険者になる前は賢者だったキャシーは知っているようだ。


 目を輝かせながら、キャシーは俺が風の魔力を籠めた剣による一撃――剣技の頂点である帝技「魔帝剣」を眺めて感極まっている。


 魔帝剣最大の利点は魔力で強化した斬撃の後、変換した属性魔力による追撃が放てるという点だけど、俺は剣に魔力を纏わせた状態を維持し続けていた。


 それがルシアとキャシーは気になったのか、二人とも首を傾げて。


「あの……魔帝剣を維持しているから、剣に風が纏ったままですけど、一撃で倒せたからですか?」


「その状態を維持できているのはすごいけど、倒せたのにどうして?」


 ルシアは追撃する必要がないからだと判断しているけど、優れた魔法職である賢者だったキャシーとしては、俺の行動が理解できていないようだ。


 説明していないから仕方ない気もするし、俺としてもまだ曖昧だけど、二人が気になっていそうだから説明する。


「ちょっと試したい剣技があってな、その実験をしている……失敗するかもしれないけどって、アリシア姉さん?」


「えっ!? どうしたのリベル? お姉ちゃんは大丈夫よ!」


 そう言いながらも、風を纏わせている俺の剣を眺めて、アリシア姉さんは唖然としていた。


 普段なら俺が何をしても歓喜して興奮するアリシア姉さんが、俺の戦いを見て驚いているだけなのが気になっていると。


「リベルの魔帝剣による攻撃……これを受けたら、きっと気持ちよさそう……」


「確かに」


「昨日も似たようなこと言ってましたよね。アリシアさんもキャシーも、リベルになら何をされてもよさそうな気がしてきます……いっいえ! 私もそうですけどね!」


 ルシアがアリシア姉さんの発言に引きながら、アリシア姉さんの影響を受けつつあるキャシーを不安げに眺めながらも賛同している。


 なんだか新しい性癖に目覚めそうになっているアリシア姉さんとキャシーだけど、ルシアは普通であって欲しいものだった。


 × × ×


 依頼を達成した俺は冒険者ギルドに戻ってきて、昼食もギルド内にある酒場で食べることにしたから、キャシーとルシアには席をとってもらっていた。


 俺とアリシア姉さんは受付に向かって、依頼の報告をする。


 受付の青年が、俺の持っている赤色の冒険者カードを受け取ると、いつも俺の依頼を担当してくれるお姉さんがやって来るけど、Bランク以上の冒険者からは依頼を担当する受付の人が居るらしい。


 不在の時は別の人が担当するらしいけど、俺のパーティを担当する受付のお姉さんが、依頼書と冒険者カードを確認して。


「朝に依頼を受けて昼までに終えて戻ってくるとは素晴らしいですね。ひぃっ!? こっ、これは受付として褒めているだけです! リベル様に対してやましい気持ちは一切ありません……こちらが報酬となります!」


 受付のお姉さんは、頬を赤らめながら俺と会話していた。

 それが再会した頃からアリシア姉さんは気に食わなかったようで、本能的に威圧してしまったことにより、今では俺に対して怯えまくっている。


 実際は俺の背後で微笑みながら会話を聞いているアリシア姉さんに怯えているのだろうけど、精神を病まないか不安で仕方がないな。


「あの……大丈夫ですか?」


 思わず俺が声をかけると、受付のお姉さんは顔を赤くしながらも一瞬で青ざめ。


「はいっ! 大丈夫です。絶対に慣れてみせますから私に気を遣わなくていいですよ、仕事ですから!」


「リベルが心配したのに、その反応はどうなのかしら?」


「ええっ!? 私はどうすればいいんですぁっ……確かに、一目見た時から素敵だったリベル様の依頼があれば私が対応しますとは言いましたけど、こうなるとは思っていませんよぉっ……」


 受付の大人びたお姉さん、最初の頃からよく俺の依頼を対応してくれると思っていたら、そういうことだったのか。


 まさかアリシア姉さんという、客観的に見れば弟の俺を溺愛しているヤバい姉が居るだなんて、受付のお姉さんにとっては想定外だったのだろう。


「……あの、他の人に変わってもらうとかできません? 俺がギルドマスターのラッセに声をかければ――」


「――いえ! 私はアリシア様に敵視されていてもリベル様と会話がしたいので! 恋愛感情はありませんけど、ファンみたいなものですから」


 流石に可哀想だと俺が提案しようとしたら、受付のお姉さんが俺の発言を遮りながら宣言する。 


「むっ……まあ、恋愛感情がないのなら、ギリギリセーフかしら」


 そう言ってもアリシア姉さんは受付のお姉さんを威圧しているけど、二人が納得しているのならそれでいいだろう。


 依頼の報告を終えて、昼から依頼を受ける予定はないから、俺達は冒険者ギルドで昼食をとることにしていた。


 ルシアとキャシーが席をとってくれていて、人見知りのするキャシーだけど、出会って日が浅いもルシアに慣れつつあるようだ。


 キャシーの話を微笑みながら聞いているルシアを見て、アリシア姉さんは微笑みながらも寂しげにしているのが少し気になるけど、時間が経てば落ち着いているはずだ。


 俺はキャシーとルシアが注文してくれていた料理を待っていると、ルシアが赤い冒険者カードを取り出して。


「昨日の依頼を経て、リベルだけではなく私達全員B+ランクの冒険者ですか……私が赤色の冒険者カードを持つことになるだなんて、信じられませんよ」


 B+ランク――ランクにプラスがつくのはBランク以上からになるようで、カードの色は変わらないも、そのランク内における優秀者の証とされている。

 

 どうやら今日依頼を受けて達成するまでの間に、俺達がB+ランクパーティになったことは噂になっていたようで、ギルドに居る冒険者達は俺達に尊敬の眼差しを向けていた。


 Bランク冒険者パーティの数が少ない事もあるのだろう。

 これでもう、俺達を侮る冒険者が現れることがなさそうなのは何よりだった。


 冒険者ギルドに来て更新した赤色のカードをルシアが呆然としながら眺めていると、キャシーも同じ冒険者カードを取り出して。


「ルシアは謙遜しすぎ。今のルシアは上位冒険者でもおかしくない強さがある。自信を持つべき、お兄さまとおそろい……おそろい……」


「そうね。昨日のダンジョン攻略でルシアは足手まといになりたくないと必死についてきた。それによって更に強くなったわ……あぁっ、今日はリベルとお揃いのカードが手に入って、昼からはリベルとお揃いの武器が手に入るのねっ……」


 真面目な表情でルシアを励ましながらも、アリシア姉さんは俺とお揃いの冒険者カードに歓喜しながら興奮していた。


 Bランク以上の依頼は少ないから、朝依頼を確認してあれば先に受けて、昼から依頼以外のことをすると決め、それは三人も納得してくれている。


 昼食を終えてから――アリシア姉さんとキャシーが愛用している武器を強化するという約束を、俺は果たそうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ