表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/43

40話 報告する

 俺達は問題なくダンジョンを出ることができて、ダンジョンの階段を上った後に見えた夕焼けはとてつもなく奇麗だった。


 朝から夕方までなら、ダンジョン攻略としてはとてつもない早さだ。

 地図すらないダンジョンの核を一日で破壊したことを、この後ラッセに報告した時に信じてくれるかが不安になってしまう。


 最初は消えてしまったダンジョンの入口にして出口でもある階段を、俺は眺める。


 ダマージを撃破したことで、このダンジョンは核が壊れたCランクのダンジョンに戻った……後は徐々に衰退して、数ヶ月すればダンジョンにあった魔力が尽き、ただの土に戻っているだろう。


 街に戻ってきた頃には夜になっていたけど、本来の依頼は第一階層の探索だけだったっけ。


 まさか原因が悪魔によるもので、そこから倒すためダンジョンの核まで破壊しているだなんて、ラッセは信じてくれるだろうか?

 前代未聞だと言っていたし、信じてくれるはずだ。


 俺はこれからレイエール兄弟が悪魔だったり、Aランク冒険者が悪魔ダマージによって取り込まれたことをラッセに説明しなければならない。


 キャシーを家まで運びたいけど、きっとラッセは俺達が帰ってくるか心配してくれているだろう。


「ラッセが心配していたし、このまま冒険者ギルドに行った方がいいのか……」


 別にパーティ全員が行って報告する必要もないし、二人にはキャシーと共に家へ戻ってもらおう。


 眠っているキャシーを両腕で抱えている俺は、アリシア姉さんとルシアに聞いてみる。


「二人共疲れただろ? 俺は報告するけど二人はキャシーと一緒に家へ戻るか?」


「お姉ちゃんは元気よ! ずっとリベルと一緒に居たいけど……ルシアは疲れているんじゃない?」


 本当にアリシア姉さんは元気で、どこか期待しているようなアリシア姉さんの発言を受けて、疲れている様子のルシアが肩をすくめながら。


「……そうですね。今のキャシーを騒がしい場所に連れて行くのは可哀想ですし、私とキャシーは家に戻っています。報告は二人に任せますね」


 そう言ってルシアがキャシーを背負って家へと向かい、俺はアリシア姉さんと二人きりになって冒険者ギルドへ向かう。


 俺の腕に自分の腕を絡めて幸せそうなアリシア姉さんだけど、相変わらずアリシア姉さんの腕は柔らかいな。


 胸当ては硬いけど……と、そんなこと考えていたら、冒険者ギルドに向かっているはずなのに、アリシア姉さんは俺を路地裏まで誘導していたようだ。


 いつの間にか進む方向をアリシア姉さんが決めていたようで、上の空だった俺は今になってハッとする。


 人気のない路地裏にアリシア姉さんが俺を連れて来て――本能から俺が警戒心を少しだけ強めてしまうと。


「ねぇリベル……今日の約束、覚えてる?」


 期待するような眼差しを向けながらアリシア姉さんが尋ねてきたから、俺は頷いて。


「……次こそ一緒に鍛錬すること、キャシーのように背負うこと、ルシアを羽交い絞めにした時にやって欲しいと言ってたこと、素材が手に入ったら通信用の魔道具を作ること、キャシーのように抱きかかえること……ぐらいか?」


 今日の約束はこれで全部だったはず……結構約束したものだ。


 うんうんとアリシア姉さんが俺の発言に対して何度も頷きながら、顔を紅潮させて息を荒くする。


「リベル……覚えててくれたのね。本当に、本当にとてつもなく嬉しいわ。だからその……私を抱きしめて欲しいの」


 アリシア姉さんがして欲しいというのなら、できる限りのことはするつもりでいる。


 どうやらアリシア姉さんは俺から抱きしめて欲しいようで、眼を閉じてじっと行動を待つアリシア姉さんを、俺は優しく抱きしめる。


 柔らかい感触を感じていると――その瞬間にアリシア姉さんも強く抱きしめてきて、俺の耳元に口を持ってくる。

 思わず身構えてしまったけど、アリシア姉さんの柔らかい声が耳に入る。


「リベルは不要なんかじゃないわ。生きててくれるだけで、どんなことがあっても私の大切なリベルよ」


 その発言を聞いて――俺は目を見開かせるしかなかった。


「……わかって、いたのか?」


 アリシア姉さんが言ったことは、ダマージとの戦いが終わってから今までずっと俺が気にしていたことだった。


 ジェイルに前世の記憶が戻らなければゴミだと言われ、俺はしばらくの間、何も言えなかったことを思い返す。


 アリシア姉さんとキャシーに養ってもらうから野垂れ死ぬことはないと考えながらも、俺は前世の記憶が戻らなかった場合のことを考えてしまった。


 戦闘が終わり、思い返したことで俺の精神が不安定になったのをアリシア姉さんは察してくれたのか。


 二人きりになって――アリシア姉さんは俺を励ましてくれる。


「リベルの感情ならすぐに解るわ。だって私はキャシーちゃんの姉で、リベルのお姉ちゃんよ」


「姉さん……ありがとう」


 励ましてくれるアリシア姉さんが、俺は何よりも嬉しかった。


 × × ×


 あれからは何事もなく、俺とアリシア姉さんは冒険者ギルドに到着する。


 受付で依頼の報告をすると、すぐさまラッセの部屋に案内されて、俺はラッセに何が起きていたのかを説明していた。


 結構話が長くなってしまったけど、ラッセは普通に納得する辺り、今回の異常事態が悪魔による可能性を考慮していたのかもしれない。


 お互いソファーに座り、テーブル越しに対面しているラッセが思案顔になって。


「悪魔の固有能力か。聞いたことはあるが、俺は実際に見たことはないな……そんなことができるのか?」


 ラッセは今まで前例がないからこそ、いきなり悪魔がそんなことをしてきたことに納得がいかない様子だな。


「そいつは悪魔の主直属の幹部だと言っていました。固有能力持ちは少ないのかもしれません」


 ジェイルの名前は出さず、俺のことも隠しながら説明していたけど、これは前世の記憶から確かなはずだ。


 よほど強い欲望を持っていないと、悪魔と化した時に固有能力は目覚めない。


 どんな場所に居ても俺の位置を把握できたアリシア姉さんの固有能力は、俺に対する強い欲望を持っていたからこそだろう。


 それは今までの言動から間違いないけれど、それほどまでの欲望がなければ固有能力が目覚めないということだ。


 ダマージはダンジョンに対する欲望が強かった狂人……そしてダマージが話した自らの能力から、ジェイルはダマージの用意したダンジョンを拠点としているのだろう。


 ダマージが作ったダンジョンは核を破壊しない限り、ダマージが許可を出した者に限り、自身の強化以外のダンジョン制御ができるようになると言っていた。


 ダマージを殺したとしても核を破壊しない限り制御したダンジョンが残り続けるからこそ、拠点となるダンジョンを完成させ、用済みとなったからジェイルは刺客に出したのだろう。


「対処のためにダンジョンの核を破壊しました。冒険者達は全員ダマージに殺されている。報告は以上です」


 俺の話を聞いたラッセは、唖然とした顔を俺とアリシア姉さんに向ける。


「最高ね……リベルの報告は完璧だったわ!」


 アリシア姉さんは俺が依頼の報告をしている間は何も言わず、報告した俺の姿に歓喜していつも通りだった。


 そんなアリシア姉さんを眺めながら、冷静なラッセは俺に目をやって。


「Cランク、いやダマージって奴の能力でAランク相当になってるだろうダンジョンを一日で攻略か……凄まじいな」


「これでもAランクにはなれないんですよね?」


 俺が尋ねると、ラッセが物凄く申し訳なさそうな表情を浮かべて。


「悪い……俺が強引にお前をB+ランクの冒険者にしたが、後何回かAランクの依頼を達成しないと無理そうだな……」


「気にしなくていいですよ。冒険者になって一ケ月も経たずAランクになれるとは思っていません」


「リベルはもう十分Aランクよ。いいえ、Sランク冒険者のトップになれるわ!」


「確かにな。リベルのパーティは間違いなくこの国で最強だ。今回の件は本当に感謝しているし、Aランクにできなかったことは悪いと思っている……だから、何かして欲しい事があるなら言ってくれ。俺にできることならなんでも一つ、力になるとここに誓おう」


 そう言って再び頭を下げてきたラッセに対して、アリシア姉さんが冷ややかな視線を向けながら。


「なんでも……まさかラッセ、貴方もリベルのことを狙っているの?」


「こいつ、正気か?」


 普段は冷静にアリシア姉さんの発言を流してきたラッセが、頭を上げながら遂に困惑とした表情を浮かべていた。


 アリシア姉さんを指差しながらラッセが質問してくるけど、俺も驚いている。

 

 まさかアリシア姉さん……俺に好意を持った人なら、異性だけじゃなくて同性にまで敵意を向けるようになってしまったのか。


 俺が前世の記憶を取り戻す前はなかったはず……アリシア姉さん、嫉妬心が更に強まっている?


 それよりも、ラッセが一つ力になってくれるのなら、俺は確認しておきたいことがある。


「姉さん、落ち着いてくれ……それならラッセに、頼みたいことがあります」


 アリシア姉さんは俺の発言を聞いて落ち着くも、俺がラッセに尋ねようとした瞬間、再び動揺して。


「えぇっ!? まさかリベル……そんなぁっ……」


「姉さんが何に悲しんでいるのか解らないけど、姉さんが考えていることではないはずだ」


 悲痛そうな声を漏らすアリシア姉さんだけど、いったい何を想像しているのだろう。


 今のアリシア姉さんは、俺のことをどんな人間だと思っているのか、少し気になってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ