4話 姉妹の動向
アリシア姉さんと妹のキャシーが、俺の勘当と追放を聞いて行方不明となっている。
そうなるとあの姉妹は、俺を捜索しているに違いない。
俺はカーラの発言に納得すると、彼女は目を見開かせて。
「な、なるほどって……リベル様、納得してしまうのですか?」
「俺があの二人にどういう扱いをされてきたか、カーラは何度も見ていただろ? あと、俺はもうただの冒険者だから、リベルでいい」
「そ、そうですか……リベル」
「なんだ?」
「呼んでみただけです」
「そうか」
周辺で男達による苛立ちの視線を受け、舌打ちが耳に入るけれど、どうやらイラっときてしまったのか。
この程度でイラっとしてしまうのなら、アリシア姉さんとキャシーの俺に対する行動を見たら、一体どんな反応を見せるのか、少し気になってしまう。
俺が冷淡な返答をしたからか、カーラが頬を僅かに膨らませて。
「むぅ……今までは純粋無垢で可愛かったのに、冒険者となって荒んでしまいましたね。これはこれでアリシア様の性癖に刺さりそうな気もしますけど……」
確かに、前世の記憶が戻る前の俺なら、カーラが甘い声を出して顔を近づけた時点で、俺は顔を赤くして動揺していただろう。
動揺とは心の弱さを露呈する行為であり、常に平常心でいることこそ最善の行動……今の俺はそう理解している。
「カーラはアリシア姉さんと仲がよかったんだよな……姉さんとキャシーについて、他に何か知っているのか?」
「アリシア様からは私個人に連絡がありまして、リベルを見つけたらレスタード国に留めておいてと言われていました……恐らく、居そうな場所をしらみつぶしに捜索しているのでしょう」
「つまり、カーラは俺を引き留めるつもりなのか?」
俺が聞いてみると、カーラは少し悩む素振りを見せてから。
「……その前に質問なんですけど、リベルの冒険者ランクは、Cなんですよね?」
「証拠だ」
噂で俺がCランク冒険者になっているも、それは信じられないという表情をカーラが浮かべているから、俺は冒険者カードを見せると。
「どうも……って、Bランクになってるじゃないですか!?」
元々Aランクモンスターを狩って現れて、ここ1週間でとにかくCランクの依頼を受けまくっていた。
その結果、俺は一週間で冒険者ランクがBランクになって、中位でもトップクラスの冒険者となっている。
Cランクでも信じられなかったのに、いきなりBランクだ。
椅子から立ち上がって驚愕するカーラは、令嬢として恥ずかしかったのか、顔を徐々に赤くしていき。
「し、失態です……まさか、いつもからかっていた私が、リベルにからかわれるだなんて……これはこれでアリですね」
カーラは何を言っているのだろうか。
「リベルはアルク様やエルト様と違って、凛々しいというより可愛い顔立ちをしています……周囲の女性の視線が気になりませんか?」
「いや、むしろ女性の反応によって、俺に敵意を向ける男達の方が気になる」
俺がそう言うと――
「そこの嬢ちゃん。こんな奴より、Bランク冒険者の俺達と話をしないか?」
その敵意を向けている男達の二人が、いきなり俺の横へとやって来て、カーラを眺めながらそんなことを言い始めた。
カーラは明らかに冒険者ギルド内だと目立っているから、声をかけられてもおかしくないけれど……この程度でBランク冒険者だとはな。
俺は溜息を吐きながら二人を眺めると、二人の男が俺を睨み。
「新入りのCランク冒険者が、俺達レイエール兄弟に逆らおうっていうのか?」
「身のほど知らずが、黙って席を譲りな!」
カーラは俺がBランク冒険者だと言っていたけれど、この二人には聞こえていなかったようだな。
こんな奴等でも冒険者として活躍しているのだから穏便に済ませようと、俺は二人に軽く触れる。
最初はわけが解らないという表情をしていたレイエール兄弟は、口を動かすことができず、異変に気付いたのかゆっくりと冒険者ギルドの外に出ていた。
「話を戻すけど……カーラは、俺を引き止めるつもりなのか?」
「い、いえ……私はリベルが本当に冒険者になったのを確認したかっただけなので、特に何かする気はありませんけれど……あの、どうしてさきほどの二人は、いきなり去っていったのですか?」
「俺はあの二人に触れて、魔力を与えただけだ。自分の体内の魔力の倍以上の魔力が入ると、制御できず変になる……苦しくなるだけで、数時間すれば元に戻るから、穏便に済ませるのには最適だった」
それに威圧効果もある……これであの二人は、俺に関わろうとしなくなるだろう。
同業者である冒険者と争う気はないし、これなら原因が解らないから俺のせいにもならない。
「そ、そうなんですか……さっきの人達、Bランク冒険者って言ってませんでした?」
カーラはさっきのレイエール兄弟を対処してから驚いたままだけれど、俺の急成長っぷりにも驚いているみたいだな。
「俺もBランク冒険者だ。それで、アリシア姉さんは他に何か言っていなかったか?」
説明しても信じてもらないだろうし、アリシア姉さんとキャシーがどうなっているのかを聞こう。
俺の質問に対し、カーラは頷いて。
「はい……アリシア様、キャシーと共に家を捨てて平民になるみたいです。エストロウ家は隠していますけど、私は本人から連絡を受けて知りました」
顔を近づけて、俺の耳元でカーラが言うも、それには俺も少し驚いてしまう。
アリシア姉さんとキャシーは、エストロウ家を捨てる気なのか。
そこまで俺のことを溺愛しているというのは、流石に予想外だった。