38話 約束
探知魔法によって人の存在を三人分感じることができて俺は安堵するも、実はAランク冒険者の生き残りだったという可能性もある。
『モンスターが急激に弱くなったから、リベルはダマージを倒せたのね! リベルの戦いを眺めたかったなぁ。この剣、頭の中にリベルの声が伝わってくるのが最高だったわ!』
その剣の持ち主であるルシアが居るのかを聞きたい。
聞きたいけど――アリシア姉さんのことだからルシアが居た場合「私と話しているのに、ルシアが気になるの?」と言って、ルシアを仕留める可能性がある。
流石にアリシア姉さんはそこまでじゃないだろうし、俺はアリシア姉さんを信じるべきだけど、今までのせいで信じることができないでいた。
『……ああ。俺はここで待っている』
『あぁっ、こうして頭の中にリベルの声が伝わってると、まるでリベルと一つになったようぅっ……すぐにリベルに会いに行くわ!』
アリシア姉さんのとてつもなく興奮している声が、俺の頭の中に入ってくる。
俺もルシアの安否を確認したいから、早く会いたかった。
× × ×
罠も俺が説明した場所をアリシア姉さんは完全に覚えてくれているみたいで、一時間も経たない内に階段を登ってくる音が聞こえる。
保存食を食べながら待っていた俺は、この時を今か今かと待ち望んでいた。
そして――
「ほら! リベルと再会できましたよ! もういいでしょ、アリシアさんは剣を返してくださいよ!!」
アリシア姉さん、キャシー、ルシア戻ってきて、ルシアが居ることに、俺は心の底から安堵していた。
そうだよな。
姉さんがダンジョン攻略のどさくさに紛れてルシアを仕留めるだなんて、あるわけないじゃないか。
疑ったことを反省すべきだろう。
それはもういいとして、ルシアがアリシア姉さんに対して怒っているのは初めてなんじゃないだろうか。
「私にはリベルの剣を扱う実力がないって言われたから剣を交換しましたけど、ダンジョンの核が壊れた時はリベルに会うまで油断禁物って、絶対返したくないからじゃないですか! 返してくださいよ!!」
ルシアが叫んでいるけど、剣を交換した理由がしっかりしていることに驚いてしまう。
俺の中ではアリシア姉さんはルシアの剣を奪い取り、代わりにと自分の聖剣を渡したものだと思っていたけど、ルシアが通信をしながら戦えないというのは、普通に納得できる理由だ。
理由はしっかりしているのに、俺と再会しても、俺が錬金魔法で強化したルシアの剣を大事そうに抱きしめているアリシア姉さんで台無しだな。
絶対に俺が加工した剣が欲しかったに違いなくて、アリシア姉さんは全身をルシアの剣に摺り寄せ。
「この剣、お揃いの剣、本当いいいわっ……これはリベルが作ったもの、リベルのモノ……私の剣は聖剣だから、そっちの方が――」
「わけわからないこと言ってないで返してくださいよ! 私はその剣がいいんですって!」
アリシア姉さんに怯まず自分の意見が言える辺り、ルシアはかなり成長しているな。
それにしてもアリシア姉さん、まったくルシアに剣を返す気がない。
ずっとダンジョン攻略で疲れているかと思ったけど、キャシーがうとうとして眠そうなぐらいで、二人は元気そうだった。
ルシアの発言を無視しているように興奮しているアリシア姉さんに、俺は話しかける。
「姉さん、剣の長さが違うから合わないだろ。その剣はルシアに返してくれ」
俺の発言を聞いて、アリシア姉さんは残念そうな表情を浮かべたと思えば、すぐに上目遣いになる。
「……それじゃ、素材が用意できたら、お姉ちゃんに同じのを用意してくれる?」
「あたしも欲しい」
そう言って期待しているアリシア姉さんとキャシーに対して、俺は頷き。
「作るつもりだ」
「それなら……でも、それまでの間は……」
俺が言っても躊躇いながらルシアの剣を眺めるアリシア姉さんだけど、ルシアに睨まれたことで渋々二人は剣を交換する。
ルシアが通信可能な剣を愛しそうに抱きしめながら、ハッと顔を赤くしつつ俺を目にして。
「そ、その……ずっとあの、お恥ずかしいところを、お見せしました……」
どうやら今になって、ルシアはダンジョンにモンスターが集結してからの取り乱しっぷりが恥ずかしくなったらしい。
鍛錬をして強くなったルシアなら、強化されたダンジョンのモンスターでも普通に倒せたからだろう。
自信がついたからこそ、自信がなかった頃の自分の取り乱しっぷりが恥ずかしくなってしまったようだ。
言ってて自分で思い返しているのか、ルシアは更に顔を赤くしてそれを手で隠しながら。
「そ、それにしても……その人、殺さないんですか?」
そう言ってルシアが、俺の隣に居るボロボロのダマージを指差す。
ダマージはあれから、魔力が尽きたらしく自分の肉体を再生できず、俺に対して命乞いをしてきたから、ある約束をしていた。
「ダマージには俺、アリシア姉さん、ルシア、キャシーはダマージを殺さないと約束したことで、知っていることを全て教えてもらった」
「……そうなんですか」
ダマージによってAランク冒険者を殺されているから、ルシアが不満げになる。
俺はすぐに剣による通信でこれからダマージをどうするか説明すると、ルシアは納得してくれていた。
「ああ。直属の幹部だから色々知ってるかと思ったが、ジェイルは悪魔の頭部に触れることで記憶操作ができる。ダマージがここに来る前、ジェイルに関する記憶は全て消していたようだ」
ジェイルの情報は手に入らなかったけど、有意義な情報は手に入っていた。
悪魔と同調しているジェイルは絶対にダマージと同調して聞き耳を立てているだろうから、今はこう言っておく。
「それって、ジェイルはその男が負ける可能性があるって考えていたの?」
キャシーがダマージを指差して尋ねたから、俺は頷き。
「ああ。恐らく敗北すると予測したジェイルは、ダマージに何も情報を与えていなかったんだろうな」
「えっ?」
「そういうことね」
「お兄さまの言うことが正しい」
ルシアが唖然とするけど、アリシア姉さんとキャシーは俺の発言が正しいと理由が一切解らないのに確信しているようだ。
知ったかぶってるアリシア姉さんとキャシー、そしてルシアに説明する。
「ジェイルの目的はダマージの無限魔力による超再生に対して、俺がどう戦うかの確認……そして、ジェイルはダマージに嫉妬していたから、ダマージは死んでほしいと思っていたんだろう」
ここまで優秀な固有能力持ちのダマージを切り捨てたのは、間違いなくジェイルの嫉妬によるものだ。
ダンジョン内限定とはいえ、同化しているダンジョンの核を壊されない限り不死身の存在を、疑似とはいえ悲願だった不死となれるダマージを、ジェイルは殺したくて堪らなかったのだろう。
アルベールの記憶にあったジェイルなら、間違いなくダマージの能力を知った時点で嫉妬が爆発して能力を使う前に殺しているはずだ。
俺の存在を警戒していたからこそ、ジェイルは嫉妬心を抑え、ダマージを生かし続けていたのだろう。
アルベールの来世である俺が仲間になるのならよし、死ぬのもよし、負けてダマージが死んでも構わない。
自分が手を下せば他の仲間に疑心を持たれるから、ジェイルは俺にダマージを処理させようと企んでいたのだろう。
そしてダマージの処理だけど……約束したから俺達の手でダマージは殺さないも、試してみたいことが一つあった。




