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36話 許せない理由

 俺達が明確な敵意を向けたことで、ダマージと同調している悪魔の主ジェイルが首を傾げながら。


「そこの三人が敵意を向けたところで何も思わない……私は今、アルベールの来世であるリベルと話している」


 俺が睨んでいることが理解できないのか、ジェイルが顎に手を持ってきて思案顔になり。


「別に服従しろとは言っていない。悪魔になって欲しいだけだ……お前達は不老に、悪魔になりたくはないのか?」


「……はぁ?」


 ルシアがキレる寸前だから、俺は手でルシアを制すると、ジェイルの発言が続く。


「赤の他人の魂を取り込むだけで一生若いまま生きられることが、強者の特権だとは思わないか? 私はお前と敵対する気はない。それなのに、なぜお前は私に敵意を向ける?」


「赤の他人ならいいとでも言うの……それを本心で……」


 歯を軋ませ、鞘に手をかけるルシアが限界そうだから、俺はジェイルに向かって。


「ルシア、落ち着け……まず、俺はお前に感謝はしていない。なぜ敵対するという発言だが、悪魔の存在を知っても、俺の人生に関係がなさそうなら関わりたくなかったかもしれない……アルベールの記憶を見ると、悪魔の軍勢はとてつもない戦力だったからな」


 俺の前世であるアルベールの仇。


 ポリスを超えて最強の冒険者になるという理由だけなら、アルベールを殺せるだけの強さがあるジェイル達と戦おうとしていたかは解らない。


 そんなことよりも――俺は悪魔を、その主であるジェイルを絶対に許せない理由がある。


 ルシアは悪魔の存在が許せないだろうから、その理由がなくても俺達は悪魔と戦っていたはずだけど、今はジェイルにこう言っておく。


 ルシアにも剣に意思を送ることで解ってくれたから、俺の発言に何も言わず、冷静にジェイルを睨みつけているだけだった。


 俺の発言を聞いて、ジェイルが納得したのか頷き。


「なるほど、売られた喧嘩を買っただけか……それはアルベールを警戒しすぎていたからこそだ。その点については謝罪するし二度とお前達には危害を加えないとここで約束すれば、リベル達は呪印を受けて悪魔に――」


「ならねぇよ。お前は姉さんとキャシーを殺そうとした――だから俺が、この手で潰す」


 もし俺が呪印を解呪できなければ、アリシア姉さんは死んでいた。


 アルベールの仇。

 冒険者最強と呼ばれているポリスを超えるために、悪魔の主であるジェイルを殺す。


 そんなことよりも――アリシア姉さんとキャシーに危害を加えたことの方が重要だ。


 ジェイルともし会話することがあれば、とにかくこれだけは言っておきたかった。


「あたしも、姉さまをあんな風にした貴方達は許せない」


「悪である貴方達の存在を、私が生きている間にこの世から消し去ります!」


 俺と同じ気持ちのキャシー、他者の魂を取り込むことで生き長らえようとする悪魔の存在が許せないルシア。


 そして――


「リベル……お姉ちゃんのためにぃっっ……」


 悪魔の呪印で死ぬ寸前までいき、本来一番恨むべきだというのに――姉さんのために動くという俺の発言に感極まっているアリシア姉さんはいつも通りだ。


 いや、いつも以上に興奮していて、ルシアが「ここではまずいですよ!」と言ってアリシア姉さんを落ち着かせているけど、今は目の前のジェイルに集中しよう。


 それにしても……俺が解呪できないと知るまで本気で命の危機だったというのに、今こうして俺の発言に顔を赤くしながら恍惚の表情で全身を震わせているのは流石にヤバい気がする。 


 集中できていないなと我に返り――俺の発言を聞いたジェイルが、俺を睨みながら自らに親指を向けて。


「リベル……どうやらお前も大概シスコンのようだ。それならこのダマージがお前達を殺すとしよう。今までお前達を監視していた上での刺客、これがどういう意味か解るな?」


「俺達に勝つ可能性がある悪魔ってことだろ?」


「正解だ。勝てなくとも手の内をダマージ経由で見られるから次の策を立てられる……仲間になってくれないのは残念だよ」


 その発言と同時――ダマージの眼の色が戻り、俺達に笑みを浮かべて。


「話は終わりだな……そんじゃ、お前等を殺すとするかねぇ!」


 その発言と同時、猫背となったダマージが手をかざし、手の平から大量の稲妻が部屋に広がり、一気に俺達に向かって迫る。


 凄まじい魔力が籠められた大量の稲妻だ。


 キャシーの雷魔法より強力かもしれないが、賢者と同格なら問題ない。


「……この程度で、俺に勝つ気なのか?」


 明らかに勝てないだろう。

 俺も両手から大量の稲妻を発生させ、迫りくるダマージを稲妻を弾く。


 それによってダマージの稲妻を纏った俺の稲妻が、一気にダマージに迫り――直撃した。


「ごおおぉォッッ――ッ!?」


 ダマージの稲妻を吸収し、それによって強化した稲妻を全方位からダマージに喰らわせる。


 魔力盾(シールド)の魔法を使う間すら与えないカウンターが決まり、ダマージの全身が焦げたことでルシアが歓喜して。


「やりましたね!」


「ええ! リベルの勝ちね!」


「口だけで大したことなかった」


 皆がそんなことを言っていると――倒れていたダマージが起き上がり、どうやら一切ダメージを受けていないようだ。


「なんてねぇ」


 さっきまで焼け焦げていた肉体が一瞬で再生していることに三人が驚くと、ダマージが笑みを強めて。


「リベル以外は驚いてくれて嬉しいねぇ。私は演技派だろぉぉォ――ォッッ!!!?」


 恐らく雷魔法を使っていたことから雷に耐性があると推測していた俺は、魔力の砲撃を繰り出す。


 魔力の閃光による砲撃がダマージの全身を飲み込んで消滅させたと確信しているも――消し飛ばした場所に、ダマージが無傷で存在していた。


「……どういう、ことだ?」


 推測はできているも、もしかしたら理由を話してくれるかもしれないと、俺はそれっぽいことを言ってみると。


「さっきジェイル様が言ってだろ? 私はお前達に勝てる可能性がある存在だってな……私は不死身なんだよねぇ!」


 間違いなくハッタリだ。


 もしこいつが不死身なら、ジェイルが遂げることのできない悲願を果たしたことになる。


 そもそも複数じゃなく一対一で戦おうとしている時点で、俺に勝つ方法は限られているだろう。


 今の俺に一対一で確実に勝つ方法があるとすれば、超再生で俺の魔力切れを待つか、反射による自滅狙いのどちらかだ。


 悪魔が仕掛けてくるとしたら複数で挑んでくると推測していたが、敵が一人の場合どうするかも考えている。


「皆、階段を下りて部屋から出ろ」


「はいっ!」


「リベルの命令口調、まるでリベルの奴隷のよう……」


「姉さま、急いで」


 どうやらキャシーだけは察してくれたようで皆が階段を下りていき、部屋には俺とダマージだけとなる。


範囲重力場(グラビティフィールド)


 俺は右腕を上に突きだし、俺を中心として部屋全体の重力を強める。


 部屋に限定した重圧による攻撃を行うも、ダマージは平然とした様子で。


「悪いねぇ。私は不死身だから重力による攻撃は効かないんだよねぇ」


 どういう説明だよと言いたくなるけれど、俺の目的は重圧で潰すことではない。


「お前の魔力核を確認しただけだ。重力と化した魔力にお前が干渉していることから、お前が本体なのは間違いない」


 魔力の分身なら、この魔力を重力に変換して押し潰す重力場を魔力で耐え切ろうとして、潰れる前に分身体が消滅する。


「本体だと確認ができ、不死身がハッタリなのは間違いないことから――殺し続ければ死ぬ」


「……シンプルだねぇ」


 その発言と同時、俺は膨大な魔力攻撃をダマージに繰り出した。


 × × ×


 ドラゴンの息吹のような炎の渦、氷結して砕き、木々を生やして取り込み吸収させる。


 手の内を見せたくないから使う魔法は絞り……光の閃光でダマージの全身をバラバラにしていく。


 それでもすぐにダマージは物凄い速度で再生していき……俺の数時間ほど続いた怒涛の攻撃を受けても、ダマージは再生しながら余裕を見せて、眼の色が変わり。


「殺し続ければ魔力切れで死ぬなど、当然想定済みだ。お前は私を侮り過ぎている……私はお前の前世、アルベールに勝利した存在だぞ?」


 ダマージがジェイルに変化して、ジェイルが俺に話しかけてくる。


 正直――今の俺に一対一で間違いなく勝てる存在が居るとすれば、超再生による持久戦狙いか、反射によって自滅のどちらかだと想定していた。


 ダマージのように超再生の敵だとして……無限の再生能力を備えていたとしても、魔力は無限ではない。


 再生に使用する魔力が尽きれば再生できなくなって消滅するはずなのに、ダマージには余裕がある。


 肉体の再生には膨大な魔力が必要なはずなのに……この数時間の間に千回以上は余裕で殺しているも、ダマージは平然としていた。


「どうした? 顔色が悪いぞ?」


 戦いの最中に俺が焦り始めたことを理解しているからこそ、ダマージがジェイルに変わって話しかけてくる。


 どうやらジェイルは、ダマージが勝つと想定して変わったのだろう。


 ダマージは対処可能で別のことに焦っているも、ジェイルに聞きたいことがある俺には好都合だった。

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