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35話 悪魔の主

 モンスターの群れは全滅して、さっきまでレイエール兄弟を守っていたシールドゴブリンも死体と化して床に転がっている。


 モンスターの死体が多すぎるけど、数分すれば魂のない肉体はダンジョンと同化するように消えるだろう。


 レイエール兄弟の背後に居たモンスター達も全て殺したことにより、自分達が俺に生かされているということは理解できたはずだ。


 俺はレイエール兄弟を睨んで。


「お前達、特に兄の方には色々と聞きたいことがある。ダンジョンの入口を閉鎖できたこと、モンスターを強化して操れたこと、悪魔について、まだまだあるぞ」


「ここを探索にきたAランク冒険者パーティのこともです」 


「ああっ……私もリベルに詰め寄られて尋問されたいけど、リベルを怒らせたくないし……」


「あたしをこわがらせたこと、こわくなかったけど許せない」


 俺は冷静に問いかけ、ルシアとキャシーが怒り、アリシア姉さんはいつも通りだ。


 色々とレイエール兄弟には聞きたいことがあるけれど、真っ先に聞いておきたいことがある。


「聞きたいことは多いが、先に一番気になっていたことを聞く……お前達、どうしてそんなに余裕がある?」


「……えっ?」


 俺の質問に対して、ルシアが声を漏らし、アリシア姉さんとキャシーも驚いて。


「確かに、リベルがあそこまで強さを見せたってたっていうのに、この二人は驚きはしたけど焦ってないわね」


「たしかに」


 アリシア姉さんの発言にキャシーが納得しているから、俺は更にレイエール兄弟に聞く。


「逃げ切る策があるのか。もしくは……今階段を上ってくる奴なら、俺に勝てると思っているのか?」


 俺の発言を聞いたレイエール兄弟が笑みを強め、アリシア姉さん、キャシー、ルシアの視線が階段に向く。


 その発言と同時――階段を上り切り、白衣を着た不健康そうな顔立ちをしている青年が現れ、両手を叩きながら。


「正解! デジョスがどうしても俺達に勝ち誇らせて欲しいって言ったから様子を見てたけど、まあこうなるよねぇ」


「ダマージ様!」


 どうやらデジョスというのは、レイエール兄のことのようだ。


 ダマージと呼ばれた青年が不敵な笑みを浮かべながらレイエール兄弟の元へ歩き、レイエール弟が俺達に向かって叫ぶ。


「この人はAランク冒険者を取り込んだダマージ様だ! ダマージ様、こいつらを叩き潰してください!!」


 レイエール弟が楽しげにダマージの説明をするけど、完全に手下だな。


 それを聞いたダマージは俺達を見定めるように眺めながら、ニッと顔色の悪さも相まって邪悪な笑みを浮かべて何度も頷き。


「うんうん。Aランク冒険者を取り込んだダマージ様……これはイイねぇ、事実だもんねぇ」


 そう言いながらダマージがレイエール兄弟の間に入り、兄弟は安堵しながら邪魔にならないよう下がろうとしていた。


 さっきの俺の戦いを見ても、レイエール兄弟はダマージが俺より強いと確信しているかのようだ。


 実際――ダマージは俺の多重閃光(フラッシュアロー)を防いだことから、相当な実力者だろう。


 そして、レイエール兄弟がダマージから距離をとろうとした瞬間。


「――がぁぁっっ!?」


 俺達が警戒していると、ダマージの貫手が、レイエール弟の心臓部を貫く。


 ダマージの手刀がレイエール弟の肉を抉り、痙攣している弟を兄デジョスが唖然としながら眺めて。


「どっ、どうし――」


「でもさぁ……お前如き下等生物がさぁ、叩き潰してくださいってこの私に命令するのは……ダメだよねぇぇっ!」


 レイエール弟の心臓部を貫いたダマージが眼を見開かせながら叫び、バギバギと音を鳴らしていく。


「あっ、ああっ……」


 目の前の光景が信じられないのかルシアが唖然として、キャシーは無言だけど目の前の光景に恐怖を覚えたのか、震えながら俺に抱きつく。


 心臓部に存在するという魂にして魔力の源、魔力核をダマージが自らの体内に取り込んでいき、残った肉体はすぐさま霧散する。


 悪魔の機能である魂の取り込み。

 一瞬でレイエール弟の魂がダマージに取り込まれ、兄のデジョスが茫然としながら、ハッと我に返って。


「ダッ、ダマージ様!? おっ、弟には手を出さないと言ったから、素質があった俺は悪魔となった……約束が違うじゃないか!!」


 そう叫ぶデジョスに対して、ダマージが呆れたような表情を浮かべる。


「ハッ、素質ねぇ……Dランク冒険者が呪印でBランクになれただけじゃん。悪魔になってBランクで停滞するって雑魚だよ雑魚。その雑魚の弟が私の気分害したんだから殺して当然じゃん? むしろ足手纏いのゴミを処理してやったんだからさぁ、お前は私に感謝するべきだよねぇ」


「きっ、貴様ァァァッ――ッ!?」


 弟をゴミだと言われたデジョスがダマージに殴りかかろうとするも、その瞬間にダマージの手刀がデジョスの首を刎ねて。


「リベルの監視と牽制、姉妹に呪印を与えた時点でお前の役割は終わってるの、もう不要なんだよねぇ」


 独り言を呟きながら、ダマージが右手から炎を出して、デジョスの肉体を膨大な炎が飲み込んで一瞬で焼き尽くす。


「悪魔同士の殺しは禁止だけどさ、私はジェイル様直属の幹部だから、幹部以外は殺していいわけなんだよねぇ」


 キャシーが俺を抱きしめる力を強めるけれど、無理もない。


 ダマージが繰り出した魔法の速さと質は賢者級で、恐らくキャシーより強いだろう。


 悪魔の主であるジェイル直属の幹部というのは伊達ではなさそうで、ダマージが俺を眺めながら。


「君がリベルか……ちょっと待っててねぇ、今から変わるから」


「変わる?」


「そう、ジェイル様が君と話したいんだってさ。主従関係にある悪魔はジェイル様と同調しているから……変わるよっと」


 そう軽々しくダマージが言った瞬間、ダマージの瞳の色が紅くなる。


 ただ見た目が変わっただけではない……猫背で飄々としていた雰囲気が、背筋を正すことで凛とした立ち振る舞いになる。


 一気に空気が変わって――変化したダマージの口が開き。


「アルベールの来世よ、初めましてだな……ダマージ経由で挨拶をさせてもらおう。私はジェイル。悪魔の主だ」


 ダマージの声が別人に変わって――アルベールの記憶で、この声の主を俺は知っている。

  

 俺の前世アルベールの記憶にもあった、他の悪魔との同調。


 この声色と雰囲気は間違いなく悪魔の主ジェイルで、俺はダマージを睨みながら。


「お前がジェイルか……何の用だ?」


「端的に言おう……アルベールの来世よ。お前はその姉妹の期待に応えることができなかった哀れな男で、アルベールの記憶によってようやく悲願を果たした」


 何が言いたいのか解らないけど、哀れな男という発言に、アリシア姉さんとキャシーが一気に敵意を向ける。


 それでも動かないのは、俺が明らかにジェイルの発言によって苛立っていることを理解してくれているからなのかもしれない。


「……それがどうした?」


 反射的に口に出した俺の発言を二人が尊重してくれて、ダマージ、いやダマージと同調しているジェイルが告げる。


「その記憶は私がアルベールを殺したことによって得たものだ。それなら――お前は私に感謝し、私の部下になるのが道理ではないのか?」


「は?」


 こいつは、一体なにを言っている?


 自信満々なジェイルの発言が続く。


「お前は私が居なければ路頭に迷い野垂れ死んでいただろう。才能を扱えていないお前自身ははただのゴミだ。そのゴミをここまで成長させたのはこの私……つまりリベルよ、お前は私の部下となるために産まれてきた存在だ」


 凄まじいぐらいに自己中心的な発言だけど、悪魔の主なのだから当然か。


 そもそも悪魔という存在自体、こいつが寿命で死にたくないから他者の魂を取り込むという、自己中心的な思考によって作られた存在だ。


 どうやらジェイルは俺を勧誘したいようだけど、正気で言っているのか判断がつかない。


 もし前世の記憶が戻らなくても、その時は家を捨てたアリシア姉さんとキャシーに養われていただけだろう。


 ジェイルの発現が理解できず、唖然としながら何も言えなくなっていると。


「……なんですって?」


「こいつは、あたしの敵」


「リベルを侮辱し、他人の魂を平気で取り込んで生き長らえようとする……こいつは私達の敵でもあり、人類の敵です!」


 俺を馬鹿にされたことでアリシア姉さんとキャシーが苛立ち、悪魔の主という点もあってルシアがかつてないほどに怒っている。


 ダマージはアリシアとキャシーを眺め、その後でどうでもよさそうな表情でルシアに目をやって。


「元剣帝アリシアと元賢者キャシーか……この二人、どうやら噂通りブラコンのようだ。そしてルシア、正義感が強すぎる女か。お前達とは話をしていない」


 心底、どうでもいいと言わんばかりに呆れた様子を三人に向けてから、ダマージが俺を眺めながら呟く。


 唖然としていた俺は我に返り、冷静になる。


 もっとマシな勧誘の言葉があるだろうと、俺は呆れるしかなかった。

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