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33話 励ます

 二階層へ向かう下り階段を降りて、俺達は広い部屋にやってくる。


 後ろを眺めても階段は消えていない辺り、最初の入口だけしか消えないのか。


 俺は探知魔法を使うことで二階層の地図を描いていき、三階層に向かう最短ルートをルシアに説明する。


 戦闘時に探知魔法の発動を中断していたから再度発動しているも、一階層を完全把握していた時点で二階層に取り掛かっていたこともあって、二階層は半分以上把握済みだ。


 探知魔法でダンジョンを確認しながら戦うことはできたけど、普通に使うよりも魔力消費が激しくなるから、今は抑えておきたい。


 モンスター的に考えるとCランク程度のダンジョンだけど、モンスターが強化されているのが気がかりだった。


「お兄さまの探知魔法を全身が感じる……お兄さまに抱きしめられているよう」


「そうねキャシーちゃん。ダンジョンだから何度もリベルの魔力を感じることができそうね」


 最初こそ死を覚悟していたはずなのに、俺が再び魔力探知を発動するとアリシア姉さんとキャシーが歓喜していた。


 そんな中、ルシアが少し俯いていることが気になってしまい、俺はルシアに声をかける。


「ルシア、大丈夫か?」


「大丈夫です……アリシアさんは二撃目でモンスターを倒せたのに、私は防ぐことで精一杯でした……私がアリシアさんのように動けていれば、リベルは探知魔法を止めなくてもよかったはずです」


 大丈夫だと言いながらも、ルシアはアリシア姉さんのように立ち回れなかったことを落ち込んでいる。


 俺が探知魔法を中断して援護に回ったことを気にしているようだけど、別に探知魔法を使いながら水魔法で攻撃してもよかった。


 中断した方がいいと本能が判断して最善の行動をとるも、こうしてルシアが落ち込んでいるとなれば、最善の行動でも最善ではなかったのかもしれない。 


 俺がルシアを励まそうとした瞬間。


「ルシア、貴方もしかしてリベルに慰めてもらいたいの? 私だって慰めて欲しいわよ……色々な意味でね」


「えっ?」


 いきなりアリシア姉さんがそんなことを言い始めて、ルシアが困惑する。


 キャシーは俺に抱きつきながら二人の様子を眺めているけれど、アリシア姉さんが呆れた様子で。


「あのリザードソルジャーは明らかに動きが違ったし、モンスターなのに知性があった……ルシアが普通に対処できただけでも凄いのに落ち込むだなんて、私としてはリベルに慰めてもらいたいとしか思えないわ」


「す、凄い……私が、ですか?」


「ええ。私と鍛錬する前の貴方なら、リザードソルジャーの攻撃を受けてリベルの治療魔法で治されるっていう物凄く羨ましい状況になっていたはずだけど、今の貴方は無傷よ。そこは誇るべきね」


「はっ、はいっ!」


 アリシア姉さんは発言に色々と本心が漏れている気がするけれど、同じ剣を扱う人に励まされたことでルシアは元気を取り戻していた。


 俺達はダンジョンの通路や部屋を通り、三階層へと向かう。


 先頭をルシアが歩き、後ろでモンスターの奇襲を警戒してくれるアリシア姉さんに俺は近付き。


「姉さん。ルシアを励ましてくれてありがとう……恐らく、俺が何を言っても、ルシアは落ち込んでいたはずだ」


「っっ!? おっ、お姉ちゃんとしてはルシアばかり褒められたり励まされただけで羨ましいとか、普通にルシアが成長していたのに落ち込んでいることがイライラしちゃったとか理由はあるけど……そ、それなら、お姉ちゃんも、頭を撫でて欲しいな?」


 そう言われたから俺はアリシア姉さんの頭を撫でるけど、ルシアやキャシーは撫でているも、アリシア姉さんの頭は撫でてなかったっけ。


 昔からずっと撫でられてばかりだった気もすると考えていると、アリシア姉さんはかなり興奮した様子で。


「リベルから触れてくれているだなんて……幸せ過ぎてダンジョンで果てても構わないわ……」


「いや、ダンジョンの核を壊して帰るから」


「そういう意味じゃなくて……そうね、まだ早いわね、まだ……」


 死を覚悟しすぎなアリシア姉さんを元に戻そうとするも、まだ早いという意味が解らない。


「そろそろ三階層の階段がある部屋に到着するけど……ルシア、止まってくれ」


「はい……二階層の時と同じで、モンスターが居るんですね」


 俺の探知魔法で最短のルートを行き、通路を抜けたら三階層の下り階段がある部屋に到着する手前の通路で、俺はルシアの動きを止める。

 またモンスターが三体存在しているけど、それよりも罠が設置されていることの方が気がかりだ。


「モンスターが三体居る。どうやら他のパーティも最短で行ったからこそ、俺達が階段のある部屋以外でモンスターと戦うことがなくなっているが……今から向かう部屋のこの部分に、モンスター召集の罠がある」


 地図とは別の紙に、二階層でも最も広く、三階層に続く階段がある部屋だけを描いた地図を俺は三人に見せる。


 部屋に存在するモンスターの位置と、モンスター召集の罠……魔法陣が隠れていて、そこに生物が干渉すると轟音が鳴り一気にモンスター達がその場所に向かってくる罠がある地点を俺は描いて指差す。


「もし今から戦うモンスターに知性があるのなら、侵入者を知った瞬間にモンスターが召集の罠を踏むかもしれない……この部分に生物が干渉すると魔法陣が作動して轟音が鳴り、物凄い勢いで覚醒したモンスターの群れが迫って来る」


「モンスターがダンジョンの罠を利用するだなんて考えられませんけど……」


「ルシア、リベルの言う通りよ……さっきのモンスターは明らかに普通のリザードソルジャーとは違うことから、常識を捨てて普通ではありえない可能性を考慮すべきね」


「お兄さまの言う通り……魔力探知で完璧な罠の把握、すてき」


 いつもなら理由が解らなくても俺の発言に賛同するアリシア姉さんだけど、理由が思いついたから口にしているようだ。


 魔力探知の魔法でも、ダンジョンの罠は見逃すことが多い。

 ダンジョンに入ったのは初でも、そのことを知っていたからかキャシーも崇拝の眼差しを俺に向けている。


 モンスター召集の罠が作動しても対処することは可能だけど、冒険者パーティの救助がある以上、早く下の階層へ行くべきだ。


「通路を出たら俺とキャシーがモンスターの動きを止めるから、アリシア姉さんとルシアは魔法陣の罠を踏まずにモンスターを倒してくれ」


「わかりました」


「リベルの命令だもの、お姉ちゃん絶対に守ってみせるわね!」


 そう言ってアリシア姉さんとルシアが通路を抜けて……かなり多くの通路が見える大部屋、そこに居たリザードソルジャー三体が俺達に気付く。


 俺が二体に、キャシーが一体のリザードソルジャーに向かって氷の矢を発生させて射出し、心臓部を貫いて硬直させる。


 心臓を貫いてもまだ動けるリザードソルジャーだが、唖然としている隙を突き、距離を詰めたルシアとアリシア姉さんが剣を振い両断することでトドメを刺していた。


 一瞬の間に戦いを終えて、モンスター召集の罠は踏んでいない。


 これで問題なく三階層に進めそうだ――そう考えた瞬間。


「ゴオオオオオォォッッ――ッ!!」


 突然、獣の断末魔のような轟音がダンジョン全体に響き渡る。


「モンスター召集の罠です!?」


「この部屋の魔法陣は作動していないのに……どういうこと?」


 ルシアが驚愕してアリシア姉さんも困惑し、いきなり得体の知れない獣の叫びを聞いたキャシーは力強く俺に抱きついていた。


 咄嗟に俺は三階層の半分ぐらい把握していた探知魔法を、二階層のみに限定させる。


 二階層で眠っていたモンスター達が俺達の元へ一目散に迫ろうとしていて、ルシアが叫ぶ。


「階段を降りますか!?」


「いや、階段付近の召集の罠は下の階にも連動している可能性が高い。モンスターは階段を下りるも上ってくることは基本的にないから、ここで二階層のモンスターを迎え撃ち、それから下に集まった三階層のモンスターを対処する」


 このダンジョンは予想外のことが発生しすぎているから、普通にモンスターが階段を上ってくる可能性もあるけれど、それならそれで構わない。


「通路に行きますか!?」


 大量のモンスターがやってくることを想定し、ルシアが慌てながら叫ぶも、俺は首を左右に振って。


「いや、ここで迎え撃つ。そっちの方が俺とキャシーが援護しやすいからな」


 実際は別の理由があるけど、今はこう言っておこう。


 ルシアは納得するし、アリシア姉さんとキャシーは俺の指示なら絶対に聞いてくれる。


「お兄さまの言う通り……向かってくるモンスターは、私とお兄さまが倒す」


 キャシーが呟いたと同時、大量の通路がある大部屋……そこから大量のモンスターが姿を現す。


 約四十体ぐらいのモンスターがこの大部屋に向かっているけれど、どうやら最初に姿を見せたモンスター達は全員揃うのを待っているようで、俺達に攻撃を仕掛けようとしなかった。


 明らかにモンスターは誰かの命令を受けているかのように行動し、罠に干渉していないのにモンスター召集の異音が鳴り響いたことも解せない。


俺はこの状況に陥った理由を把握して、早い内に対処しておきたかった。

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