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32話 ダンジョンの核

 ダンジョンの入口が閉じるという異常事態に、ルシアが焦る。


 アリシア姉さんとキャシーはいつも通りのような発言をして落ち着いているも、発言的に俺が一緒だからここで人生が終わっても構わないからだろう。


 ひとまず、ルシアを落ち着かせよう。


「ルシア。そこまで焦らなくていい……こうなったとしても、俺なら強引に脱出することができる」


「お兄さま、ダンジョンは最深部の核を壊さない限り魔力は無限、掘ったとしてもすぐに再生する」


 どうやらキャシーも同じ脱出方法を考えていたようで、無理だと悟ったらしい。


 俺はキャシーの頭を撫でながら。 


「再生が追いつかないほどの速さと威力で掘り続けて突き進む……普通は無理だけど、俺なら可能だ」


 一階層でダンジョンに迷ったアルベールが試した裏技みたいなもので、魔力消費が割に合っていないも成功していた記憶がある。


 とんでもなく無茶苦茶なことを言っているも、ルシアが深呼吸をして落ち着き。


「リベルがそう言うのでしたら大丈夫でしょう……ありがとうございます」


「そうね。リベルならダンジョンの壁ぐらいぶち抜けるわ!」


「やっぱりお兄さまはすごい……私はお兄さまの妹でよかった」


 ルシアとアリシア姉さんは普通に納得したけど、それがどれだけ無茶苦茶なことか理解できているキャシーは、俺に対する崇拝の眼差しを強めていた。


「ダンジョンの入口は出口でもある……そして俺達が降りるまで入口が存在していたことから、いくつか理由を推測できる」


 ルシアが落ち着いてきたから、このダンジョンについて俺が思案していたことを皆に話す。


「推測、ですか?」


「ああ。恐らく探索しようとした二組も同じ目に合ったのだろうけど、俺達が階段を確認して降りることができた。つまり入口が再び発生したのだから、時間が経つと再び入口が発生するのかもしれない」


「そうね……リベルの言う通りだとは思うけど、先に潜ったパーティも同じことを考えていたとしてもおかしくないわ」


 状況が状況だからか、常に俺の発言に賛同していたアリシア姉さんが言い辛そうにしながら聞いてくるけど、その通りだろう。


「……ダンジョンを生物に例えたら、入ってきた階段は口だ。口を閉じたのは獲物を取り込むためで、再び開けたのは食事を終えたからだと推測することができる」


「それって、探索をしていた二組のパーティはもう……」


 パーティを閉じ込めて、殺したことで再び入口を発生させた。

 その可能性は高いけど、違う可能性もある。


「その可能性が一番高そうだけど、冒険者パーティはBランクとAランクだから、入口が復活するか待たず一番手っ取り早い解決方法をとったのかもしれない」


 これはただでさえ異常事態で、冷静な判断ができない場合、一番分かりやすい解決方法をとってもおかしくはない。


 ルシアも気付いたようで、頷きながら呟く。


「ダンジョンの最深部にある核の破壊……ですね」


「そうなる。ダンジョンの奥に入ったのだからもう侵入者は核を破壊しないかぎり脱出しないとダンジョンが推測し、入口を再び開けた可能性もあるからな」


 ダンジョンの最深部には魔石の結晶――核があり、その核を破壊しない限り活動し続ける。


 最深部にある核が置かれた部屋にはボスと呼ばれるガーディアンが存在したり、モンスターが多く配置されていたりしているのは、核が破壊された瞬間にダンジョンが終わりを迎えることとなるからだ。


 ダンジョンは世界の一部とされていて、核が存在する限りは世界と同調して無限の魔力があると言われている。


 核を砕くと一気にダンジョンの性能が下がり、数カ月ぐらいは普通に稼働しているもモンスターや魔石の数が徐々に減っていき、最終的に縮小してただの土に戻ってしまう。


 つまりダンジョンの核さえ破壊すれば、一階層から掘って進んだとしても再生速度は核があった時に比べて遥かに遅くなるから、俺でなくとも強引に掘り進んで脱出することが可能となる。


 食糧の問題もあるし、入口が復活するか待つよりも、一番堅実な核を破壊する方法をとるために動いたとしてもおかしくはない。


「食料の問題もあるからな……二組の冒険者パーティは長時間待って出口が現れない可能性よりも、普通に最深部に行って核を破壊しようとしているのかもしれない」


「こんな短い時間でそこまで考えるだなんて、リベルはパーティリーダーとして最高だわ。夜も私を導いて欲しいぐらい……」


「そうなると……私としてはこのダンジョンの核を破壊するべきだと思うのですが、どうでしょうか?」


 アリシア姉さんの発言をスルーしつつ、ルシアがおずおずと手をあげて提案する。


 今この場で俺達が強引にダンジョンの外に出た場合、このダンジョンは残り続ける。


 それよりも、ルシアとしてはダンジョンに潜っている二組のパーティが心配なのかもしれない。


「そうだな。俺が強引にダンジョンをぶち抜いて脱出するよりも、正攻法で助かった方がAランク冒険者になれそうだ」


「はいっ! それでは行きましょう!」


「ルシアが前を担当して私が後ろにつくわ。それならリベルをずっと眺めていられるもの」


 アリシア姉さんの発言はどうかと思うけれど、今のルシアなら先頭を歩いても問題ないだろう。


 それよりもさっきからずっと無言だったキャシーの方が、俺は気になっていた。


 × × ×


 ダンジョンは普通の通路とそれに連なる部屋があり、部屋にモンスターと罠が存在していて、下り階段を探して降りて最深部を目指すものだ。


 俺は探知魔法を使いながらダンジョンの構造を理解して、罠を確認しつつ地図を描きながら進んでいくも……モンスターの数が少ない。


 下り階段から離れた部屋には数体のモンスターを察知するも、俺達が下り階段に向かうルートにはモンスターがほとんど存在していなかった。

 恐らく、俺達が来る前に探索していた二組のパーティがモンスターを倒していたからだろう。


 ラッセが言ってたようにダンジョン探索のベテランのようで、先に探索した二組のパーティは探知魔法から最短のルートを進んでいるようだ。


 こうして探知魔法で確認していると、二組のパーティは最深部に向かっている可能性が高そうだと考えていると。


「ひうっっ!?」


 物音が聞こえ、それを耳にして悲鳴をあげてキャシーが俺に抱きついてくるから、俺はキャシーの頭を撫でて。


「ダンジョンの中は魔物とか罠があるから遠くで物音がする……怖いか?」


「こ、こわくないけど……お兄さま、ずっと一緒に居て」


 キャシーはダンジョンに入るのが初めてだから、今までにない景色に怯えているようだった。


 ダンジョン特有の空気のせいでもあるのだろう、キャシーは物音がするたび俺に抱きついている。


「おっ、お姉ちゃんもダンジョンが怖いかな」


 そんなキャシーをアリシア姉さんが羨ましそうに眺めて、俺達の後ろでそんなことを言い始めるけど。


「いやいや、アリシアさんがダンジョンの何を恐れる必要があるんですか」


「……それもそうね」


 自分で言ってて無理があると察したのか、アリシア姉さんがルシアの発言に納得したようだ。


 魔力探知を使うことで大体の場所は解っているから、俺はルシアに伝えることで二階層に続く階段に向かいながら一階層全体の地図を描いていく。

 これで本来の依頼は達成しているも、入口が消えた以上は俺達も最深部に向かって核を潰すべきだろう。


 下り階段のある部屋にはモンスターが集まりやすい傾向にあるから、俺は三体のモンスターを探知することができ、歩きながら皆に説明する。


「そろそろ下り階段の大部屋に到着するけど、モンスターが三体ほど居る……アリシア姉さんも前に出て戦って欲しい、俺とキャシーが援護する」


「リベルの命令なら喜んで聞くわ。ルシア、一体任せても大丈夫?」


「はい、やってみせます!」


 そして俺達は通路を抜けて下り階段の見える部屋に到着し……そこには三体のモンスターが存在している。


 蜥蜴と人間を合わせたような存在……リザードソルジャーで、右手には鋭い銅の剣を握り締めている。


 魔力探知ではモンスターの強さまでは把握できないも、図鑑ではDランク相応のモンスターだったはず。


 俺達の存在に気付いた瞬間、リザードソルジャーは俺達から離れながら他のリザードソルジャーと少し距離を空け、俺達を警戒している。


「……妙だな」


「お兄さま、どうしたの?」


「いや……戦ってみればわかるから、なんでもない」


 キャシーが心配してくれるけど、これは戦いを見ないと解らないな。


 リザードソルジャーが俺達に気付いて即座に距離をとったけど、反応速度と警戒心の高さがDランクモンスターとは思えない。


 それでもルシアとアリシア姉さんなら負けるはずはなく――戦いが始まった瞬間。


「えっ!?」


「このモンスター、本来のリザードソルジャーより動きが違い過ぎるわね」


 即座にリザードソルジャー二体が二人に迫り、攻撃を対処した動きからルシアの方が弱いと推測して距離をとりながら様子を窺っていた一体がルシアを狙う。


 そしてアリシア姉さんと戦うリザードソルジャーは、アリシア姉さんの剣と腕を見て、回避主体の動きをしている。


「Dランクモンスターがアリシア姉さんの一撃を回避する……絶対に不可能だ」


「お兄さまは最初の動作だけで普通とは違うと判断した……とてつもない勘、姉さまのよう」


 アリシア姉さんの勘と俺の勘は違うような気もするけど、キャシーとしては似たようなものなのかもしれない。


 明らかにアリシア姉さんと戦うリザードソルジャーは防御よりの動きで、ルシアを二対一で倒してから、三対一でアリシア姉さんを仕留めたかったのかもしれない。


 Dランクモンスターが強くなっているといっても、これは恐らくBランクモンスター程度の強さだろう。


「――ギイッッッ!?」


 アリシア姉さんは攻撃を回避された瞬間――即座に踏み込んで聖剣を振い、繰り出した一閃がリザードソルジャーの首を刎ねた。


 俺とキャシーは、ルシアを狙った敵二体に魔法攻撃を仕掛けている。


 俺が水魔法を発生させた瞬間にキャシーも同じ水魔法を発生させ、リザードソルジャー二体を膨大な水が飲み込んでから凍らせて肉体ごと砕く。


「ルシア、Bランク相応のモンスターと二対一の状況になっても冷静でいい動きだった」


「はいっ! それでも、私は防戦一方でした……アリシアさんのようにはいきません……」


「リベル、お姉ちゃんも頑張ったけど、どうだったかしら?」


「どうって……姉さんの動きは普通に姉さんだったよ」


 ルシアを褒めるも少し落ち込んでいて、アリシア姉さんが俺に褒めて欲しそうにしているけれど、アリシア姉さんは普段通りの動きだったのに何を褒めればいいのだろう。


「お兄さまの水魔法と私の水魔法が合わさって……ふふっ」


 キャシーの発言がアリシア姉さんのようになってきているのが怖くなってきたけど、キャシーの精神が不安定だからなのかもしれない。


 それよりも……ダンジョンの入口が消えたのもそうだけど、モンスターの強さが明らかに変わっている。


 Bランクモンスターばかりが相手だとBランクパーティは助かっていないはずで、Aランク冒険者のパーティも厳しいかもしれない。


 このダンジョンは明らかに異常で、最深部に行けば何か解るのかもしれないと、俺達は階段を降りようとしていた。

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