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30話 呼び出し

 俺達は食事を終えて風呂に入り眠ることにして――翌日。


 昨日は様々な魔法を使ったことによってキャシーが疲れ、風呂で全裸のまま俺に抱きついて眠ってしまったキャシーを着替えさせたりもしたけど、疲れが残っていなさそうで安堵する。


 目覚めた時から俺の横顔をじっと眺めていたキャシーが、頬を赤らめて微笑みながら。


「昨日のお兄さまはすごかった……私はずっと、お兄さまとこうしていたかったから……」


 どうやら昨日、俺が魔法をキャシーに教えていたことは、キャシーがずっと期待していたことのようだ。


 キャシーが抱きついてきたから、俺はキャシーの頭を撫でながら起き上がると。


「リベルとキャシー、おはようございます。アリシアさんは今日こそ起きると言っていましたけど、まだ眠っていますね」


「おはよう」


「おはようルシア、アリシア姉さんが二日連続で寝坊は珍しいけど……なんで木刀を抱きしめているんだ?」


 俺は隣で眠るアリシア姉さんを眺める。


 就寝の時はカバンに入れていたはずなのに、肌着一枚で明らかに下着をつけていないアリシア姉さんは、俺が創った木刀を胸に挟みながら心地よさそうに眠っていた。


 誰かと戦っている夢を見たりしたら、俺達は木刀で殴られていたのではないだろうか。


 俺はアリシア姉さんを警戒しながら眠っていたから、そうなれば対処できていただろうけれど、どうして木刀を抱きしめて寝ているのかがよくわからない。


「泥棒が来た時に対処するため?」


 首を傾げながらキャシーが推測を口にして、納得した俺は頷き。


「確かにキャシーの言う通りかもしれないな……ルシア?」


「うぇっ!? そっ、そうですね。きっと私の勘違いで、キャシーの言ってることが正しいはずです」


 ルシアがアリシア姉さんの木刀を唖然としながら眺めていたけど、俺に聞かれたことで顔を真っ赤にしながら首を左右に振っている。


 何かあったのかと、俺がルシアに聞こうとした瞬間。


「ルシア、何か知って――」


「私は何も知りませんよ! それでは今日も、私が朝食の準備をしますね」


 そう言って慌てた様子でルシアが寝室から出て行くけど、何も知らないのなら知らないのだろう。


 × × ×


 朝食を終えた俺達は冒険者ギルドに向かうも、寝過ごしたアリシア姉さんは落ち込んでいるようだ。


「昨日リベルの木刀で、なんでもないけど、明日こそリベルのために朝食を作ってみせるわね!」


 俺の木刀がなんだったのかは知らないけど、今まで寝過ごすことがなかったアリシア姉さんが二日連続で寝坊するのは意外だった。


 アリシア姉さんの発言を聞いて僅かに顔を赤くしているルシアをキャシーが心配しながらも、俺達は冒険者ギルドに到着する。


 今回はアリシア姉さんと実戦形式の鍛錬することを最優先すると決めたから、朝に依頼を受けて、それが終わってからアリシア姉さんと鍛錬をする予定だ。


 昨日俺との魔法についての会話を堪能したキャシーは「今日は姉さまの番」と言い、ルシアは俺とアリシア姉さんの鍛錬を見学してみたいと言っている。

 朝から依頼を受ければ、報告した後に草原で鍛錬をするのもいいだろう。


 冒険者ギルドにある依頼書の束……今日から新たに出る依頼書は掲示板に張りつけられているから、俺達が掲示板に向かおうとした瞬間。


「あの、リベル様……少しよろしいでしょうか? こ、これはリベル様が居たら呼んできて欲しいというラッセ様の指示による発言です!」


 受付のお姉さんが俺に声をかけてきたけど、慌てた様子でやけに説明的だ。


 それは俺の背後に居るアリシア姉さんが威圧したからだろう。

 この人は昨日俺に何かを言おうとした受付のお姉さんで、威圧を受けて涙目になっている。


「わかった。俺だけ行けばいいのか?」


「いえ、全員来て欲しいみたいです……ラッセ様が待っている部屋に案内いたしますね」

 

 そう言われた俺達は受付のお姉さんに案内されて冒険者ギルドのカウンターを通り、冒険者は基本的に入れないギルドの奥へと向かう。


 廊下からは幾つもの部屋の扉が見え、一番奥の部屋に到着した受付のお姉さんが扉をノックして。


「リベル様を案内いたしました」


「了解した。中に入ってくれ!」


 扉越しにラッセの声が聞こえたから俺達は中へと入り、受付のお姉さんは仕事に戻っていく。


 広い部屋の中央には四角いテーブルがあって、挟むようにソファーが置かれていた。


 ソファーの真ん中にギルドマスターのラッセが座っていて、俺達に真剣な眼差しを向けて。


「……急に呼び出して悪かったな。とりあえず座ってくれ」


 そう言われたから、俺はソファーに座る。


 俺の左右にルシアとアリシア姉さんが座り、キャシーは俺の膝の上に座った。


 テーブル越しにラッセと対面していると、ラッセは真剣な眼差しで俺を見て、頭を大きく下げ。


「来て早々悪いが緊急事態だ……強制ではないが、リベル達にはこれからAランクの依頼を受けて欲しい」


 そう頼んでくるラッセに対し、ルシアが手を上げて。


「あの、Aランクの依頼って、Bランク冒険者は受けられないはずです」


「それに関しては俺がどうにかする……まず内容を聞いて、無理そうなら断ってくれて構わない。その時は俺が行くだけだ」


 どうやらかなり切羽詰まっているらしいけど、とにかく内容を聞いておきたい。


「Aランクの依頼を受けさせてくれるのなら願ってもないことだけど、どんな依頼なんですか?」


 尋ねる俺の隣でアリシア姉さんが不満げにしているのは、今日も鍛錬がお預けになろうとしているからだろう。


「リベルが私達のリーダーになって、ギルドマスターと会話してるぅっ……」


 それでも質問する俺を見て興奮している辺り、焦らされていることに快感を覚えているのかもしれない。


 そんなアリシア姉さんをラッセが一切気にしない辺り、事態はかなり深刻そうだな。


「依頼だが……四日前にダンジョンが発生した。第一階層に現れたモンスターからCランク以上と判断してBランクのパーティに一階層の調査を依頼したが、Bランクパーティが戻ってこない」


 ダンジョンが発生した場合は、Cランク以上の中位冒険者が最初にモンスターの強さを報告して、それから難易度を決めて一階層の探索を始めるらしい。


 最初の一階層を見れば大体の難易度が把握できるから、まず一階層の調査を報告し、本格的にダンジョン探索の依頼が発生する。


「俺達が依頼を受けている間にあった依頼か……そのパーティの捜索と、第一階層の探索ですか?」


 それだけなら普通にありえることだから、恐らく違うはず。


「いや、一昨日Aランクパーティに捜索と探索を依頼したが、そいつらが今日の朝になっても戻って来ないことが問題なんだ。お前達は一階層の探索をして、二組の冒険者パーティの救助も依頼したい」


 稀にダンジョンが発生することはあるけれど、Aランクパーティが戻って来ないということが気になってしまう。


「一昨日なら、まだダンジョンの探索中ではないのでしょうか?」


 そうルシアが尋ねるも、ラッセは首を左右に振って。


「ダンジョンが発生した場合、二階層に続く階段を降りず一階層の地図を書いてもらう依頼が出て、その地図内容からダンジョンの難易度を確定させる……どんなダンジョンでも一階層なら一日あれば全貌が解るはずだというのにBランクパーティは戻らず、一階層限定で救助と捜索に向かわせたAランクパーティが戻って来ない。これは前代未聞だ」


「今日の朝まで待ってみたけど帰って来なかったから俺達に一階層の調査、冒険者達が生存していれば救助を任せたいということですね」


「そうなる。複雑な構造で戻れない可能性もありそうだが、Bランク冒険者とAランク冒険者はダンジョン探索のベテランだ。一日で戻って来られないということは、絶対に何かあると俺の直感が告げている……リベル達は戦力的にこの国で最強のパーティだと俺は確信しているが、受けてくれないだろうか?」


 ダンジョンの一階層はモンスターが多いも、人間を奥深くまで入れて帰さなくするという目的があるから、大したことがない入口のようなものだ。


 その探索に行ったAランクとBランクパーティが戻って来ない……確かに緊急事態で、俺は左右を見ながらキャシーの頭を撫でて。


「俺はこの依頼を受けたいと思っているけど、皆はどうだ?」


「行くべきでしょう。助けを待っているかもしれません」


「私はリベルが行きたいのなら一緒に行くわ。一緒にね」


「あたしも、お兄さまと一緒なら大丈夫。それに、お兄さまの感知魔法をまた全身で受けられるし……」


 ルシアは意気揚々としていて、アリシア姉さんはいつも通りだけど、キャシーの反応はちょっとアリシア姉さんに染まりつつある気がする。


 俺達の発言を聞いて、ラッセは再び頭を深く下げて。 


「感謝する……地図にダンジョンの発生場所を書くから、今すぐに向かって欲しい。一階層を調査、居なければどんなことがあっても階段を降りて二階層に向かわず戻ってくれ」


 どうやらラッセは何らかの理由があって冒険者パーティが二階層に降りたのだと推測しているようだけど、俺も同じことを考えている。


 今から向かうダンジョンは何が起こってもおかしくないと俺は推測しながら、今日の予定が決まった。

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