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3話 昔の知り合い

 あれから一週間が過ぎて――俺の名前は、この国に居る冒険者の中だとかなり有名なものとなっていた。


 周辺の大したことがないCランクの依頼を解決していくだけでこれなのだから、早く高位冒険者と呼ばれるBランク、Aランクになりたいものだ。


 Aランク冒険者になれば全ての依頼を受けることができて、秘匿となっている世界規模の災厄とされるSランクの依頼についても知ることができるらしい。 


 そのSランククエストで活躍すれば、晴れて俺はSランク冒険者となる……何も目標がない俺は、ひとまずSランク冒険者を目指そうとしていた。


 昼過ぎに依頼を終えたから、併設している酒場で料理を頼むと、少年と少女がやって来て、ぼくに頭を下げ。


「た、助けてくださり、ありがとうございます!」


 もう誰かは覚えていないけれど、恐らく1週間の間に助けた冒険者の二人だろう。


「冒険者は人手不足だと聞く。居なくなると困るのだから、身の丈にあったクエストを受けた方がいいですよ。先輩」


「そ、そうですか……あの、先輩って呼ぶのやめてくれません? 実力はリベルさんの方が絶対上なんで……」


「そうですよ! 冒険者は入った月日じゃなくて、ランクで格が決まるんですから!」


「わかった……教えてくれてありがとう」


 あれから、冒険者が人手不足というのが理解できるほどにクエストの量が多く、俺は1日3、4件ぐらいCランクの依頼を解決していた。


 Dランク以上になると、入った年月が短い場合は受けられない依頼があまりないらしく、俺はまずこの周辺のクエストを手当たり次第に受けていた。


 その最中、遠目で苦戦している別クエストを受けた冒険者を多く見かけて、人手不足の意味を知る。


 クエストが多すぎるも早い者勝ちだからこそ、身の丈に合っていないクエストを受ける人が多く、負傷する人が多いのだろう。


 冒険者となった以上はギルドのために行動すべきだと考えている俺は、なるべく護れる範囲の冒険者を助けることにしていた。


 英雄気取りと呼ばれたり、横取り野郎とも呼ばれているけれど……後者は、受けようと考えていた依頼を俺が先に受けていたことが多いかららしく、ただの逆恨みだ。


 そして昼食を終えた俺は新たな依頼を受けて、その報告のために冒険者ギルドへと向かう。


 Cランクモンスターである人型の蜥蜴、バトルリザードが徒党を組もうとしているから潰して欲しいとの依頼で、本来なら何日もかかるらしい。


 俺の前世の知識は魔法、戦闘技術、そしてモンスターの情報まで網羅していて、俺は本にも書かれていないバトルリザードの習性を把握しているからこそ、夕焼けが出る前に依頼を終えて帰ってくることができていた。


 冒険者カードには倒したモンスターが記録されるらしく、今回の依頼はカードを見せるだけで達成となる。


「終わりました」


 そう言って俺は冒険者カードを受付のお姉さんに見せ、バトルリザードから手に入れたヒレや紅く輝いている尻尾を見せると。


「あ、相変わらず文句なしの大成功ですね……それにしてもリベルさん、希少素材をどうしてここまで、的確に手に入れることができるのですか?」


「……さあ? 俺の運がいいだけですよ」


 俺は妹のキャシーを越える賢者の素質があるから、イメージすることで全属性の魔法を扱うことができる。


 それに加えて前世での膨大な魔法知識により、現代の知識と応用することで様々なことができ、モンスターの解析もそれによる副産物だ。


 モンスターを解析し、様々な属性攻撃をすることで希少素材と呼ばれている珍しい素材を確実に入手する……生物である以上、そこに偶然はない。


 偶然属性攻撃や環境によって、今まで見た事がない素材が手に入ると、ギルド内ではそれを希少素材を呼んでいるのだろう。

 俺にとっては、希少素材は希少ではなかった。


 × × ×


 今日はもうCランクの依頼がなさそうで、今日は夕方まで休憩しようと、酒場のテーブル席に座りながら俺は今後のことを考える。


 金貨は大量にあるし、そろそろ家を購入するのも悪くないと考えながらも……レスタード国に永住するべきか、それを即座に決めていいのかと悩んでしまう。


 やはり、他の大陸を眺めるべきだろう。

 そう決めた頃には夕方になっていたから、俺はテーブルに注文した食事を並べていると。


「少し、よろしいでしょうか?」


 いきなりテーブルを挟んで俺の正面に美少女が現れたから、俺は頷いて。


「ああ。構わないって……君、カーラか?」


 可愛い少女だと思っていたけれど、この子がこんな所に居ることに、俺は驚くしかない。


 カーラと呼ばれた少女は、荒くれ者が多い冒険者ギルドの中でも目立っていて、気品のある柔らかな笑みを浮かべながら。


「覚えてくださり何よりです。名前から一度会ってみたいと思っていたのですが……まさか本当にリベル様とは……」 

 

 お淑やかに見える青髪の小柄な美少女は、俺と何度か会った事がある。


 レスタード国の貴族であるカーラだけど、まさか冒険者ギルドで出会うことになるとは思ってもみなかった。


 それよりも、カーラの発言……ギルド外でも、俺は有名なのだろうか?


「俺って、そんなに有名なのか?」


 俺は自分自身を指差して聞くと、カーラは目を見開かせて。


「あ、あの……随分とお変わりになられましたね」


「人は環境で変わるものだろ?」


 実際は追放を宣言されて心が折れ、前世の記憶が戻っただけだけど、それも環境の一種のようなものだろう。


「な、なるほど……私は小耳にはさんだだけなので、恐らくリベル様がここに居るということは、アリシア様とキャシー様の耳にははいっていないはずです。今、あの二人はとんでもないことになっていますよ」


 それは……聞きたくないなあ。


 嫌そうな顔をしてしまったからか、カーラが苦笑して。


「お気持ちはわかりますが、もしリベル様が冒険者をしていたのなら、あの二人がどうなっているのかを教えるべきかと思いまして……どうします?」


 これは聞くか聞かないかを選べということなのだろうけれど、ここで聞かなければ俺は気になり過ぎて眠れなくなるかもしれない。


 今会うとあの二人が何をしでかすか解らないから離れようとしていたけれど……どうするべきか。

 とりあえず、現状の確認は必要だろう。


「……教えて欲しい」


「わかりました……あの二人、アリシア様とキャシー様ですが、現在行方不明です。見かけたらすぐに報告して欲しいと、エストロウ家から連絡を受けています」


「なるほど」


 どうやら父上は、俺を家から勘当して追放したと、アリシア姉さんとキャシーに伝えたようだな。


 追放した後に説明すれば納得するとでも思っていたのだろうか……それは甘すぎる。


 絶対に納得するわけがないというのは、俺でもよくわかることだった。

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