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29話 親友

 アリシア姉さんの勘は鋭くて、だからこそカーラを威圧しているのだろう。


「ア、アリシア様とキャシー様は行方不明、連絡手段がありませんでした……連絡しようとは思っていたんですよ」


 傍観を決め込むことがカーラにとって一番の選択だったことを隠しながら、カーラは真実を混ぜながらアリシア姉さんに嘘をつく。


 発言次第では冒険者ギルド内、相手が貴族のカーラだとしてもアリシア姉さんは斬りかかる可能性がある。


 俺の居場所を知っていたのに伝えなかったということは、それほどまでにアリシア姉さんにとって許せないことなのだろう。


 エストロウ家を捨てて平民になったとアリシア姉さんが言い張るのなら、貴族であるカーラに平民のアリシア姉さんは逆らえないはず。

 

 それでも怯えているのはカーラの方で、権力があっても目の前の暴力にはどうしようもないことを証明するかのようだった。


「そんなの、貴方の権力を使えばどうとでもなったでしょ? 私がどこでリベルを探しているのかは教えていたもの……ねぇ?」


「ひぃぃっっ……」


 流石にこれ以上はカーラの精神が持たなさそうだな。


 そう考えた俺は、カーラとアリシア姉さんの間に入って、アリシア姉さんと対面し。


「姉さん、ちょっと落ち着いてくれ」


「リベルッッ……」


 俺がアリシア姉さんを見た瞬間、俺の背中に柔らかい感触がくる。

 

 カーラが俺を力強く抱きしめているけど、俺が離れたらアリシア姉さんに殺されるかもしれないと考えているのかもしれない。


 服からじゃ解らなかったけど、カーラはキャシーより胸がありそうで、それよりも今はこの状況か。


「今までリベル様だったのに呼び捨てにして、その上抱きつくだなんて……カーラ、私の前でよくそんな行為ができたわね……」


 それほどまでにカーラの精神は限界だったのだろう。


 俺に抱きつきながら、カーラは物凄く震えているからな……本当にカーラはアリシア姉さんと親友なのか疑わしくなってくる。


 最初会った時に聞いたカーラの発言、そして今の発言を思い返してから、俺はアリシア姉さんと目を合わせて。


「……姉さんがどうして怒っているのかが解らないな。俺はカーラの話を聞いて、レスタード国で姉さんとキャシーを待ちながら冒険者として行動していた。連絡手段がないのだから仕方ないじゃないか」


「あっ……」


 どうやら、アリシア姉さんはカーラに言っていたことを忘れていたようだ。


 レスタード国に居たらリベルを引き止めておくように言われていたと、俺はカーラから聞いている。


 その頼みは守られたようなもので、連絡できなかった理由もすぐに思いつく。


「姉さんはレスタード国に来たら、カーラに会って俺が居るかどうか聞こうとしていたんじゃないのか? カーラと会う前に姉さんとキャシーが俺と再会したから、カーラが姉さんに伝えられなくなっただけさ」


 呪印による力か、アリシア姉さんが離れている俺の居場所を把握したのが異常だった。


 そのことをアリシア姉さんは忘れていたのか、俺の発言に納得して。 


「そ、そうね……リベルが私を宥めてくれてるのは嬉しいけど……」


 珍しく動揺しているアリシア姉さんだけど、それは俺の首元に暖かい吐息をかけてくるカーラにあるのだろう。


「リベルに守られてる……リベルが私を守ってくれてるぅっ……本当に従者となって欲しい……」


 そう小声で囁くカーラにアリシア姉さんが微笑みながらも苛立っているけど、自分が早とちりしたことが招いた状況だからか行動できないようだ。


 アリシア姉さんの親友か疑ってしまったけど、カーラとアリシア姉さんは同類という感じがする。


 アリシア姉さんが俺に目をやって微笑み、俺に抱きついているカーラをムッとした様子で眺めて。


「……カーラ、疑ってごめんなさい。それにしても貴方リベルと距離が近すぎるわよ。なに興奮してるの? 友人の弟に色目をつかうとか、普通じゃないわよ」


「アリシアさんの普通とはいったい……」


 ルシアが唖然としながらも、アリシア姉さんの発言を受けてカーラが俺から飛び退く。


 思わず振り向くと、カーラは顔を赤くしながら、どこか名残惜しそうにしていた。


「流石に、これは無理ですね……アリシア様。咄嗟の行動で誤解させてしまいましたけど、私はリベルのことを親友の弟としか見ていませんよ」


 アリシア姉さんにそう言っておかなければ命の危機だと、カーラは判断したのかもしれない。


 自分の命と俺に対する恋愛感情なら、天秤にかけるまでもないだろう。


 その発言を受けてアリシア姉さんがホッして、俺とルシアも安堵する。


 アリシア姉さん……さっきの発言から今までの間、ずっと聖剣の柄に手をかけていたからな。


 威圧の一環だとは思うのだけど、アリシア姉さんだからいつ鞘から剣を抜くか、俺とルシアは気が気でなかった。


 × × ×


 どうやらカーラはアリシア姉さんとキャシーがレスタード国にやって来たことを俺に伝えようとしてギルドに来たみたいだけど、まさかもう再会しているとは思ってもみなかったらしい。


 国に来てすぐに俺と再会するとか、流石にアリシア姉さんの勘でも無茶苦茶だ。

 恐らく呪印を受けて悪魔になったからこそ、俺の居場所が離れていても解ったのだろう。


「ねぇリベル。カーラはリベルのことを何とも思っていないみたいだけど、リベルはカーラのことをどう思っているの?」


 カーラと別れ、俺達が買物をしながら帰宅している最中に、俺と腕を組んだアリシア姉さんが不安げに聞いてくる。 


 俺の発言次第では、明日カーラが行方不明になったとしてもおかしくはない。


「どうって言われても、普通に姉さんの親友だけど?」


 俺が本心を口にすると、アリシア姉さんは満面の笑みを浮かべて。


「そうよね! ちょっと不安になっちゃったけど、リベルならそう言ってくれると思っていたわ! 今日の夕食は私がリベルの血肉になる料理を精一杯作るから、楽しみにしてて!」


 その発言を聞き、アリシア姉さんの質問から常に緊迫した様子のルシアが安堵する。


 頷いた瞬間にキャシーが俺の服を引っ張ってきたから、俺はキャシーに目をやると。

 

「夕方まではあたしと庭で一緒。お兄さまの魔法はとてつもなく参考になる……お兄さまと一つになった気分……」


「キャシーの将来がこわ、いえ! 賢者の時点で十分凄いのに、更に凄くなられるのですね!」


 咄嗟に言い直したルシアは、アリシア姉さんのようになりつつあるキャシーの将来を恐れているような気がする。


 キャシーがアリシア姉さんの影響を受けるのは仕方ないとしても、ルシアはこのままのルシアでいて欲しかった。

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