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28話 報告する

 俺はルシアとアリシア姉さんの三人で倒したエリアワームの解体をしていて、キャシーが応援してくれている。


 カバンの中に入れていた解体用ナイフだけど、冒険者になったばかりの俺が使うナイフはほぼ新品で、アリシア姉さんとルシアのナイフはかなり使い込まれていそうだった。


「お兄さま、姉さまとルシア、頑張って」


「お姉ちゃん頑張るわ。リベルと一緒に作業をしている……これは共同作業ね」


「私も解体していますけどね」


 そう言いながらも頬を少し赤くしながらルシアがエリアワームを解体している辺り、アリシア姉さんの共同作業という発言を気にしてしまったのだろう。


 解体を終えて――アルベールの知識にあっても実際やるとなれば解体は難しくて、アリシア姉さんが一番上手く、ルシアもかなり上手いからこそ、普通ぐらいな俺とは明確な差ができていた。


「リベルが解体している手の動きを見ているだけで、お姉ちゃんゾクゾクしちゃった」


「私も、お兄さまに触れられると心地いい。エリアワームには勿体ない」


 どんだけ雑に解体したとしても、アリシア姉さんとキャシーは俺のことを褒めてくれそうだな。


『もうちょっと勢いよくナイフを入れてもよかったと思います』


『わかった。教えてくれてありがとな』


『はいっ!』


 この状況で口に出すとアリシア姉さんとキャシーに睨まれると察したのか、ルシアは通信魔道具を兼ねた剣に意識を集中させて、声を出さず意思で俺に解体のやり方を教えてくれている。


 俺とルシアの反応から通信していると察したのか、通信した瞬間にじっとルシアの剣を眺めたアリシア姉さんはかなり怖い。

 意思を送り合っているだけなのに、俺とルシアの僅かな反応から察知するのか……アリシア姉さんはどんな勘をしているのだろう。


「女の、いいえ。お姉ちゃんの勘よ」


 普通にアリシア姉さんが俺の心を読んだ気がするけど、俺の視線から察したのか。


 解体したエリアワームの素材をカバンに入れながら、アリシア姉さんが草原を眺めて。


「まさか歩いた時間の方が長いとは思わなかったわ……それじゃあ、キャシーちゃんとルシアは休憩して、私は今からリベルと二人で疲れるぐらい鍛錬をしましょう!」


 待ってましたと言わんばかりに、歓喜したアリシア姉さんが鞘から聖剣を抜くも、俺は首を左右に振って。


「いや、成長したエリアワームが出現している範囲は警戒範囲となっているし、報告して警戒を解除した方がいいと思う……姉さんとの鍛錬は明日以降にしよう」


「他の冒険者や商人の方々が困っていますし、それがいいと思います」


 俺の発言に、ルシアが賛同してくれている。


 反射的にアリシア姉さんがムッとルシアを睨むけど、威圧を受けたルシアがぐっと堪える辺り、ここ一日でルシアはかなり成長していた。


 恐らくアリシア姉さんが仲間であるルシアに敵意をつい向けてしまうのは、ルシアの持つ俺が創ったお揃いにして意思による通信が可能な剣を持っていることもあるのだろう。


 素材が貴重だからまだアリシア姉さん用の剣を創れないし、アリシア姉さんの剣を創るのなら一緒にキャシーの杖も通信ができるようにしたい。

 キャシーなら通信の魔道具がなくても大丈夫と言ってくれるかもしれないけど、仲間外れにしてしまうのは俺が嫌だった。


「私も二人と同意見。姉さまは今日だけ我慢した方が……姉さま?」


 キャシーが頷くことで俺とルシアに賛同しながらも、何も言わず全身を震えさせているアリシア姉さんを見上げる。


 あれだけ俺との本格的な鍛錬を楽しみにしていたから、悲しんでいるのだろうか?


 そう考えていると――


「あぁっ! 今までリベルは私の言うことを聞いてくれたのに焦らされてるぅっ……いっ、今までとは違う快感ね!」


 そう叫んで全身を震わせ息を荒くしているけれど、新しい性癖が目覚めてしまったというのか。


 俺がどんなことをしてもアリシア姉さんは受け入れそうだなって――これ以上考えるのはマズい。


 アリシア姉さんがショックを受けていないことに安堵しているキャシーの頭を俺は撫でて、アリシア姉さんの発言に引いているルシアに目をやり。


「ギルドに報告してから近場でCランク以上の依頼があれば受けてもいいけど、鍛錬初日だから今日はこれで終わりでもいいかもしれないな」


「リベルがそう言うのでしたら、その方がいいでしょう」


「あたしは庭で午前のようにしていたいけど……ダメ?」


「ダメじゃないさ」


 そうキャシーに上目遣いで言われたら俺は賛同するしかなくて、ルシアとアリシア姉さんは午後から魔法について学ぶ俺達を見学することになりそうだった。


 × × ×


 冒険者ギルトに到着し、俺が受付でクエストを報告に行くと、受付のお姉さんが驚いていた。


「あのエリアワームを受けた当日で……いえ、まず受けた時間的に、よくすぐに発見することができましたね……」


「運がよかっただけですよ」


「……いえ、流石に今までの依頼が完璧なことを知っている私としては運とは思えませんし、リベル様はす「リベルの言うことが間違っているとでも言うの?」――なんでもありません!」


 受付のお姉さんが俺を見つめて少し頬を赤くしながら会話をしていると、アリシア姉さんの低い発言を聞くことになり、受付のお姉さんは必死に勢いよく俺から顔を逸らしていた。


 アリシア姉さんは昔から嫉妬深くて、少しでも知らない女性が俺に関わろうとしている場面を目にしたら、その女性を威圧する癖がある。


 その時にアリシア姉さんに聞いても「気のせいじゃないかしら?」と言われるから、恐らく無自覚でやってしまうのだろう。


 近場でCランク以上の依頼がなかったから、俺達は家に帰ろうとした瞬間――俺達は冒険者ギルドの扉の前で、小柄な青髪美少女の姿を目にする。


 その美少女はやけにオドオドしながら俺達を見ているけど、近づくことでその人がアリシア姉さんの友人であるカーラだと理解した時には、アリシア姉さんが一歩前に出て。


「……カーラ、私は愛しいリベルにようやく会えたけど、この国に居てどうして貴方はリベルの存在に気付けなかったのかしら?」


 実際は知っていたし俺と会っていたけど、カーラは色々面倒なことになりそうだからアリシア姉さんに報告していなかったようだ。


 俺が居ると知らないことにしておいた方がよさそうだとカーラが判断したからこそで、今俺と初めて会ったということにするつもりなのだろうけど、まさかいきなり威圧されるとは想定していなかったのだろう。


「え、えっと……その……アリシア様、怒っていますか?」


「私がリベルの前で怒るわけないじゃない」


「「ひぃっ……」」


 アリシア姉さんの出した威圧を受けて隣に居たルシアが怯み、咄嗟に俺の腕を抱きしめる。


 真正面から威圧を受けたカーラは全身を震えさせているけれど、アリシア姉さんは微笑んでいるのに威圧感が半端ないな。


 離れて見ればただ微笑んでいるだけに見えるかもしれないけど、後ろめたいことがあるカーラは明らかに脅えている。


 今のアリシア姉さんを宥めることができるのは、俺かキャシーのどちらかだろう。

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