27話 予測
冒険者ギルドで昼食をとり、昼食を終えた俺は受け取ってきたBランクの依頼書を見せて皆に説明する。
食事を片付けてもらってテーブルに、俺は依頼書をカバンから取り出し皆に見せて。
「草原に擬態している巨大蛇エリアワームの撃退。発見することが困難みたいだけど、俺なら被害があった場所から位置を予測できる」
今日のBランク依頼はこれしかなかったから受けるも、エリアワームは捜索が困難なだけで、前世の知識によって習性を知っている俺なら、被害の場所を調べるだけで場所を予測することができていた。
「お兄さまの言うことは絶対。お兄さまの予測は間違わない」
俺の隣の席に座っていたキャシーが、俺に抱きついて目を輝かせている。
俺の予測は間違わないか……昔の俺は主体性がなかったから、間違わないというより今まで予測していなかったという方が正しい。
午前に魔法を教えたことによりキャシーが更に俺を崇拝してしまったようで、プレッシャーをかけられてしまう。
「そうね。リベルが依頼の説明をできてて、お姉ちゃんは本当に嬉しいわ」
テーブルを挟んで正面で歓喜しているアリシア姉さんは俺が依頼の説明をしている以前に、俺が昼食を注文していただけで喜んでいたけど、毎日喜びまくりで幸せそうなのが嬉しくもあった。
「エリアワームですか。とてつもなく凶悪なモンスターだと聞いたことがあるのですが、アリシアさんよりは……」
ルシアが警戒心を強めながらも、隣のアリシア姉さんの顔を見て落ち着いている。
ルシアの恐怖心がなくなっているのは、午前中のアリシア姉さんによる鍛錬の成果だろう。
鍛錬が終わった時にルシアはアリシア姉さんに本心からお礼を言っていたけど、アリシア姉さんはルシアが料理を作ったことを嫉妬していたのだと推測するしかない。
それほどまでに物凄く激しい打ち込み稽古を、アリシア姉さんはルシアに行っていた。
俺に二度も注意されているからこそ、アリシア姉さんは本気で鍛錬することで力の差を見せつけ、ルシアの心を折ろうとしたのだろう。
それでもルシアが一切めげなかったことを、アリシア姉さんは認めているようにも見える。
数週間前はDランク冒険者の実力しかなかったルシアが、今では本気で打ち込んだ剣帝のアリシア姉さんに一撃叩き込めるようになるとは、俺でも想定していなかったからな。
俺は皆に依頼を説明してから、席を立って。
「今日はこの依頼だけになりそうだけど、行くとしよう……アリシア姉さん、今日はキャシーとルシアが戦って、俺達は見学する予定だから」
「わかったわ! ずっとリベルの傍に居ればいいのね!」
確かにその通りだけど、俺がそう言った瞬間に、アリシア姉さんは席を立って俺の腕と腕を組み始める。
キャシーはいつも通りだと気にしない様子で、ルシアもじっと俺のもう片方の腕を眺めながている辺り、かなり慣れてきたような気がしていた。
× × ×
俺達はエリアワームが居ると予測した草原に到着するも――何も見当たらない。
前世の知識はかなり昔のことだから、予測が外れても仕方がないのかもしれない。
「ええっ……居ないのかよ……」
それでもキャシーの期待に応えることができなかったことに、俺はかなりショックを受けていると。
「お兄さまは悪くない。悪いのはエリアワーム」
服を引っ張ってキャシーが俺を見上げながらそう言ってくれたことに、俺は安堵するしかなかった。
「そうね……リベルの予測をエリアワーム如きが無視するだなんて、お姉ちゃんも許せないかな……」
「Bランクの依頼は何日もかかるみたいですし、別の場所を探しましょう!」
アリシア姉さんは静かに怒っていて、ルシアが一番常識的なことを言っていると考えながらも、俺は異音を耳にする。
「いや……ちょっと待ってくれ」
そう言って俺はダンジョンでも使用した魔力探知の魔法を使い……近くに居たことで俺の魔力に干渉したアリシア姉さんが全身を震わせて。
「あぁっ! リベルの魔力が私に触れてぇっ……」
「お兄さまの魔力、これは全身で感じるしかない」
「……あの、私がそこまで強くないから、リベルの魔力をほんの僅か、それも一瞬しか感じなかったのでしょうか?」
俺の魔法が干渉したことでアリシア姉さんとキャシーが興奮しているけど、意識しなければルシアが言ったように、ちょっと触られた程度の感覚を受けるだけだ。
どうやら二人は意識を集中することで、俺の魔力を全身から最大限に感じようとしているように見える。
キャシーがアリシア姉さんと同じような年に似合わない光悦の表情を浮かべていて、その二人にルシアは引いているも、俺は探知魔法で引っかかった地点を指差し。
「どうやら擬態能力を向上させていたようだ……あそこにエリアワームが居る」
アルベールの知識だと保護色で下手に隠れているだけだったのに、進化したのかかなり精巧な草原の体を見せるエリアワームの姿が、俺の指差した方向に存在していた。
俺の発言を聞いてルシアが剣を鞘から抜き、キャシーも頷いて。
「行きます!」
「あれを見つけたお兄さまはやっぱりすごい……援護する」
そう言ってルシアとキャシーがエリアワームの方に向かうと、ずっと腕を組んで引っ付いていたアリシア姉さんが、熱っぽい顔をしながら俺の腹部を撫でて。
「やっぱりリベルの予測は当たっていたわね……ねぇ、今お姉ちゃんが何を考えているか、わかる?」
呪印を受けて倒れていた時のアリシア姉さんの発言を思い返すと、1つだけ思い浮かぶことがある。
それをもし口にすれば、今この場で取り返しのつかないことになったとしてもおかしくはない……そう考えた俺は頷いて。
「そうだな、リベルと一緒に居られてよかった。じゃないのか?」
「……そうね。こうしてリベルとずっと一緒に居られることに、私はこれ以上ない喜びを感じているわ……後はもう、何もいらないもの」
キャシーが火球を飛ばし、それを火炎の柱にすることで攻撃を繰り出す。
炎の柱がいきなり落ちてきたことで、草原の色をした巨大蛇――驚愕しているエリアワームの動きを制限し、発生した隙を突いたルシアが斬りかかる。
ルシアは帝技こそ使えないも剣技は色々と会得していて、それを最大限に生かせるようになっているから、Bランクモンスターぐらいなら強敵でも余裕で相手ができていた。
俺は二人の戦いを眺めているも、俺の腕を抱きしめるアリシア姉さんが、何かを決意したような表情を浮かべて。
「リベル、お姉ちゃんは――」
「戦いが終わったみたいだな。行こう」
「――そうね。まだ早いものね」
頬を赤らめながら何かを言おうとしたアリシア姉さんだけど、俺は覚悟ができていない。
もしかしたら一生覚悟できないかもしれないし、姉弟としてはそれが普通なのだろう。
それでも……家を捨てたアリシア姉さんが積極的になってくると、俺の理性が持つのか不安になっていた。