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26話 鍛錬

 アリシア姉さんを寝かせておいて、俺は自分の部屋で着替えている。

 この館は広いから部屋が多くあって、一番大きな部屋を寝室にして一緒に寝ると決めたけど、個別に部屋を用意してもまだあまるほどだった。


 アリシア姉さんは結局起きてこなかったから、俺とキャシーはルシアの調理を眺めている。


 俺は箱入り息子で、前世の記憶を思い返しても料理をしている知識は塩をつけて焼くぐらいしかなかったから、料理に関しては何もできない。

 キャシーも料理はできないからルシアをじっと眺めていて、少し残念そうにしながら俺を見て。


「……いつかお兄さまが食べる料理をあたしも作ってみせる。お兄さま、待ってて」


「わかった。楽しみにしておく」


 アリシア姉さんは俺が追放されるだろうと想定して料理を学んでいたように見えるけど、キャシーは俺が追放されることまで考えていなかったのかもしれない。

 いや、俺が家から勘当されて追い出されることを想定して、事前に金貨を稼いで料理を学んで準備していたっぽいアリシア姉さんがおかしいだけだな。 


 キャシーと話をしているとルシアの料理が完成してソファーに向かい、俺の左にキャシーが座り、テーブルに料理を並べてから俺の右に座って緊張しているルシアを見る。

 テーブルにはルシアが用意した朝食が並んでいて、流石にそろそろアリシア姉さんを起こしにいこうかと考えた瞬間、居間の扉がバン!と勢いよく開き。


「ああっ……私がリベルの体の中に入るモノを作りたかったのにいっ……昨日の夜に、いえ。ルシア、ありがとう」


 着替えを終えてすぐに来たのだろう、物凄く悔しそうなアリシア姉さんが何かを言いそうになって止めながら、微笑みながらルシアにお礼を言っている。

 微笑みは少し引きつっているように見えるから、俺の前ではなんとか姉として振る舞いたいのかもしれない。


 アリシア姉さんの内心ではどうなっているのかまったく解らないでいると、アリシア姉さんの発言を聞いてルシアが微笑み。


「いえいえ! 皆さんのお口に合うと嬉しいのですが……」


 そう言って少し顔を赤くしたルシアを眺めながら、俺達はルシアの用意した朝食を食べる。


 アリシア姉さんは残念そうにしながらもテーブル越しに俺達と対面して、朝食をとろうとしていた。


 鶏肉を蒸したりスープを用意したりと、朝に合ったさっぱりとした朝食で俺は満足しながらルシアに感想を言う。


「美味いよ」


「うん。参考になる」


 俺がそう言って、キャシーも何度も頷いて賛同してくれている。


「そうね……昨日の食材でしっかりできているわ」


「あっ、ありがとうございます!」


 アリシア姉さんは料理というよりも、食事中の俺の反応を食い入るように見ているな。


 ルシアの料理を食べている俺の反応から、アリシア姉さんは昨日用意した自分の食事とルシアの料理、どっちをより美味しそうに食べていたのかを確認しようとしているのかもしれない。

 ルシアの料理を褒めつつも、アリシア姉さんは常に食べている俺を気にしていて。


「あぁっ……ルシアが用意したモノが、リベルの体内に入って血肉となってる、羨ましい……」


 そう声を漏らすアリシア姉さんはどうかと思うけど、食べながら俺は今日の予定を話す。


「今日の予定だけど……午前中は広い庭でキャシーに魔法を教えながらルシアと鍛錬して、午後から依頼を受けて実戦でいいか?」


「まってた」


「はいっ! ご指導のほど、よろしくお願いします!」


「ねぇ、ちょっと待って。聞いてないんだけど……私は?」


 やる気満々なキャシーとルシアに対して、茫然としているアリシア姉さんの温度差が凄い。


 自分自身の顔を指差してアリシア姉さんが俺に聞いてくるけど、俺がアリシア姉さんに何を教えろというのか。


「アリシア姉さんは二重突剣を極めているから、魔帝剣は覚えない方がいいと思うし……二重突剣はアリシア姉さんの方が上だから」


「それなら私が二重突剣を手捕り足取り教えるわ! ねっ?」


「いや、実戦で使った方がいいから……俺はアリシア姉さんに教えることがないし、昼まで教わることもないんだよな」


「そんなぁっ……」


 テーブル越しに対面しているアリシア姉さんは、俺の発言にショックを受けているけど仕方ないだろう。


 俺の前世は剣技が使える賢者で、魔法に長けているけど剣技はそこまでだから、アリシア姉さんに教えることはないし、教わることがあるとしても実戦で試して聞いた方がいい。

 納得してくれたのか、アリシア姉さんはかなり残念そうにしながらもルシアに目をやって。


「……それなら、ルシアを一緒に鍛えることにするわね!」


 テーブルに手を乗せて俺に迫るアリシア姉さんに、俺はたじろぎながら。


「わ、わかった」


「よろしくお願いします!」


 恐らくアリシア姉さんは仲間外れになることを恐れて、一瞬でどうすれば俺達の鍛錬に混ざれるかを考えたのだろう。


 ルシアの手伝いをすると言わなければ、俺はアリシア姉さんに冒険者ギルドで昼から受けるクエストを探してきて欲しいと頼んでいたかもしれない。

 アリシア姉さんは俺の頼みを断りたくなくて、俺と一緒に居たいからルシアの手伝いをすると先手を打ったのだろう。


 × × ×


 朝食を終えた俺達は広大な庭にやって来て、キャシーと魔法について話し合う。


 アリシア姉さんとルシアには俺が木魔法で木刀を用意して、ルシアは腰に差した連絡魔道具の剣に俺が指示を出すから、それを聞きながらアリシア姉さんの攻撃を対処するように言っていた。

 ルシアの剣が連絡魔道具だと知ってアリシア姉さんがやけに羨んでいたのが気になったけど、俺が作った木刀を抱きしめて歓喜してすぐに二人の打ち合い稽古が始まっている。


 俺は二人を見てルシアにどう動けばいいのか指示を出しつつ、キャシーと話し合いながら様々な魔法を試していくことで、アルベールの知識と現代の賢者の知識をすり合わせることができていた。


「お兄さまの知識とあたしの知識が混ざっている……えへ、えへへ……」


 ただお互い話しながら魔法を試しているだけでキャシーは歓喜しているけど、俺もキャシーの気持ちは解ってしまう。


 アルベールは不可能だと諦めていたけれど、キャシーが持つ賢者教会での知識を応用すれば可能かもしれない。

 そして賢者教会が無理だと諦めたものも、アルベールの経験から可能性はあると、庭で試してみることで魔法知識が向上していくのがよく解っていた。


 そして数時間が経ち――新しい魔法を使用したによる膨大な魔力の使い過ぎで疲れて倒れているキャシーを居間のソファーに寝かせて、俺は再び庭に戻る。


 庭には疲れ切って倒れているルシアと、俺が戻ってくるのを満面の笑みで待っていたアリシア姉さんの姿があった。

 ルシアがアリシア姉さんの木刀による攻撃を受けて怪我をするたびに俺が回復魔法で治していたけれど、ここ数時間でルシアはかなり動けるようになっている。


 アリシア姉さんが戻ってきた俺を見て微笑み、倒れているルシアに目をやって。


「ルシアは限界を何度も超えていたわ! キャシーちゃんも疲れちゃったみたいだし、今から私はリベルと疲れることがしたいの……ダメ?」


 言い方がおかしい気もするけれど、息を荒くしながら木刀を抱きしめ頬を赤くするアリシア姉さんは、この時を待ち望んでいたのだろう。


「そうだな。魔力は結構使ったし、体力をつけておくべきだと思っていたから……木刀でやり合おう」


 そう言って俺は木魔法で自分の木刀を創る。

 自分の武器と長さが少し違うだけで違和感を感じるから、木刀は全て俺が持主の武器に合わせた長さで創っていた。


 俺の木刀を見ながら、アリシア姉さんは自分の木刀を眺めて。


「鍛錬の前に……こ、この木刀って、時間が経つと消えちゃうの?」


「いや、固定化の魔法を使っているから大丈夫だ」


 魔法で作成した物質は時間が経つと消えることになっているも、膨大な魔力を使い固定させることもできる。

 これから何度も使うことから、最初に固定化の魔法を使っておく方がいいだろう。 


「リベルが創った消えない木刀……リベルのモノ……ふふっ」


 俺の発言を聞き、やけに俺が創った木刀に興奮している様子のアリシア姉さんだけど、自分の武器と同じサイズの木刀が今までなかったのかもしれない。


 それから昼過ぎまで俺とアリシア姉さんが木刀で打ち合い、午前の鍛錬を終える。

 

 午後からアリシア姉さん、休んだことで動けるようになったルシアとキャシーと共に、俺達は冒険者ギルドへ向かうことにしていた。

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