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25話 風呂に入る

 アリシア姉さんの強引な提案で、俺達は昼間っから風呂に入ることとなっていた。


 魔力を流すことで効果を発揮する魔道具の風呂で、温水になる蛇口やシャワーも備わっていて、かなり広い。

 蛇口に触れて魔力を流すと温水が出たから、俺は風呂が完成する量の魔力を籠めて。


「動作に問題はなさそうだな……」


 最初に俺が入ることとなったから、風呂を沸かしながらお湯を確認して安堵する。


 どうせアリシア姉さんとキャシーが来るだろうから腰にタオルを巻いているし、準備は万端だ。


 シャワーに触れて魔力を変換することで出した温水を頭に流しながら、俺は精神を統一し、絶対に動じないと決意する。


 ただでさえアリシア姉さんの夢が叶いまくりな状況だ……いつ限界がきてもおかしくはない。


 そう推測して――当然のように脱衣所から風呂場に繋がっている扉が開き、俺はアリシア姉さんとキャシーの姿を目に入れる。


 キャシーはタオルを巻いていない裸の姿で、ローブからは解らなかったけど胸が僅かに膨らんでいることに成長を感じてしまう。


 キャシーをまず見たのは、アリシア姉さんがどうせタオルを巻いていないと考えていたからだけど……俺は唖然としていた。


「あぁっ……リベルが私の体を見てるわ……」


「姉さま、一緒にお風呂に入るのですから見られて当然……お兄さま、背中を流します」


「あっ、ああ」


 アリシア姉さんが……タオルを巻いている。


 確かに割れている腹筋はあまり見せたくないと言っていたけど、これは予想外だった。


 俺の元に来て石鹸を微笑みながら持つキャシーに癒されつつ、それを笑顔で興奮しながら眺めるアリシア姉さんを少し目にしていると。


「しっ、失礼します!」


 いきなりそんな声が聞こえて――アリシア姉さんと同じようにタオルを巻いて全身を隠し、明らかに緊張して顔を赤くするルシアがやってきたことで、俺は納得することができていた。


 まさかルシアが入ってくるとは思ってもみなかった。


 恐らく、アリシア姉さんも同じことを考えているのだろう。

 アリシア姉さんがタオルを巻かずに入れば、ルシアも対抗してタオルを巻かずに入るかもしれず、それを警戒したということか。


 ルシアを見てアリシア姉さんが少し残念そうな表情を浮かべた事から、この推測は当たっているはずだ。


「お兄さまの背中、背中……」


「あっ、あの、アリシアさん。私が背中を洗いますね」


 やけにルシアが俺の方を見ながらそう言う辺り、近くで見たくなったけど理由が必要だと考えたのか、アリシア姉さんに提案している。


「ええ……私はリベルを見ていることに忙しいからお願いするわ……」  


 そう言ってアリシア姉さんがタオルを外したから、俺はなるべく見ないようにして、キャシーの体を洗っていく。


 やけにアリシア姉さんとルシアが俺を凝視しているのが気になりつつも、何も起きそうになくて安堵するしかなかった。


 × × ×


 結局風呂に入ってからは部屋の掃除をしただけで一日が終わり、俺達は一番広い部屋に設置した一番大きなベッドで眠っている。


 このベッドは昼に俺とアリシア姉さんが運んだものだけど……四人寝ても問題ない広さで、左右にアリシア姉さんとキャシーが挟まって、アリシア姉さんの隣にルシアが眠っていた。


 そして深夜――俺は突然目が覚める。


 警戒心を強めていたことあって恐怖しながら左右を確認するも、いつも抱き着いて寝ているアリシア姉さんの姿がなかった。


「……どういうことだ?」


 ルシアは少し離れた位置で寝ていて、キャシ―は俺の腰に抱き着いてすぅすぅと可愛い寝息を立てている。


 アリシア姉さんに何かあったのかと、俺は五感を研ぎ澄ませると……風呂場の方から音が聞こえた。


 恐らく風呂場でシャワーが流れているな。

 

 昼に入ったから夜は風呂に入らなかったし、アリシア姉さんは寝汗が気になったからシャワーで流しているのかと推測していると。


「リベル……リベルゥっ……」


 そんな声が、少し離れている風呂場から聞こえた。


 目を閉じで魔力で聴覚を強化していなければ、シャワーの音しか聞こえていないだろう。


 シャワーの音で掻き消えているも、やけに甘く荒い声でアリシア姉さんが何かを言っている。


 ……アリシア姉さんとキャシーに再会したこと、そしてアリシア姉さんが購入した家で俺と一緒に暮らすことが夢だと言っていた。


 数週間ぶりに俺と再会することができて、呪印のせいで死ぬかもしれない窮地を俺が助けたことを思い返し、感極まったアリシア姉さんは隠れて泣いているのだろう。


 キャシーとルシアと俺の手前、泣いているところを見せたくないから、シャワーで音を掻き消しているのか。 


 そう考えた俺はアリシア姉さんを慰めるべきかとベッドから起き上がろうとして――本能か勝手に動きが止まる。

 風呂場に行くのはヤバいと、自分自身に脳が警告を出していた。


 これは――もしかしたら、俺の次の行動が、人生のターニングポイントとなるかもしれない。


 近づくか、そっとしておくべきだと判断して寝るか……風呂場からは未だに声が聞こえている。


 風呂場でシャワーを出して声を掻き消そうとしているのは、恐らく俺達に気を遣っているのだろう……どうするべきか。


 いや、どうするべきかって考えてる時点でヤバいな。


 俺と一緒に風呂に入るという夢が叶ったことや、俺と再会したことを思い返して泣いているのなら、一人にしておくべきか。


 アリシア姉さんの夢かと考えたことで、きっとこれは夢なのだと俺は思うことにする。


「ああ……夢だな」


 そう判断した俺は眠ることにして、さっきのことは忘れようと決めていた。


 × × ×


 翌日――俺は目が覚めて、隣にはアリシア姉さんとキャシーが俺に抱きついていた。


 アリシア姉さんは肌着一枚で、下着をつけていないことがすぐにわかってしまう。


 キャシーは黒いキャミソールだけ着ている。

 起きていたようで、キャシーと俺の目が合って。


「今日はお兄さまから魔法を教わる……この日をずっと待ってた」


「そっか」


 俺はわくわくとしているキャシーの頭を撫でると、はにかみながら俺の手に自分の手を乗せて満足そうだ。


「私も、パーティの足手まといとならないよう、頑張ります」


 アリシア姉さんの隣で眠っていたルシアも起きたようで、かなりやる気に満ちながら俺に声をかける。


 ルシアが居なければ、俺達は今頃爛れた関係になっていた可能性が高い。

 俺達のパーティが普通に冒険者パーティとして行動することができているのは、ルシアの力が大きいだろう。


「そこまで気負う必要はない。基礎能力は十分だから、鍛錬と実践あるのみだ」


「はいっ。朝食の用意をすると張り切っていたアリシアさんが眠っていますし、今日の朝食は私が頑張りますね」


 アリシア姉さんは物凄く気持ちよさそうに眠っているし、朝食の準備はルシアに任せることにしよう。


 アリシア姉さんが寝坊するのは珍しい気もするけれど、俺と再会して常に興奮していたからなのかもしれない。

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