23話 上位ランク
アリシア姉さんとキャシーが冒険者登録したことで、確認の為かギルドマスターのラッセがやって来ていた。
「さっきBランクパーティに剣帝と賢者を入れましたって連絡がきてな……それがあのリベルなんだから俺はようやく確信できたが、実際にアリシアとキャシーが居ると驚くしかねぇよ」
やっぱり俺がリベル・エストロウだと、ラッセは冒険者登録した時点で推測していたようだ。
呆れたように言うラッセに対して、アリシア姉さんがムッとしながら。
「別にダメじゃないでしょ? 私はリベルとお揃いがいいの、剣帝から冒険者になるのは禁止されていないわ」
「あたしも、賢者なんかよりお兄さまのパーティに入る」
「この二人は噂通りの、いや噂以上のブラコンっぷりだな……実際聞いた時は盛ってるだろと思っていたが……カードが上書きになっちまうし、冒険者から色々な組織に行くのは結構あるが、逆はかなり珍しいケースだ」
そういうものなのか。
俺が出来損ないだからと親から外に出してもらえないせいで何も知らなかったけど、アリシア姉さんとキャシーはどれだけ外で俺の話をしているのだろう。
そんなことがあったら父上は俺は箱入り息子にしたし、追い出す時は勘当したのだろう……これもアリシア姉さんが立てていた計画かもしれなくてゾッとする。
珍しいケースと聞いてから、俺はラッセに頭を下げて。
「迷惑をかけそうで、悪いとは思っています」
咄嗟に聞いた時は敬語でなくなっていたけど、ギルドマスターだから敬うべきだろう。
俺が頭を下げたのを見て、ラッセは困惑した表情を浮かべながら。
「? ……いや、むしろ俺の方が悪いと思っているほどだ。剣帝と賢者はAランク冒険者並の強さがあると判断されるのに、規則でお前達をAランク、上位冒険者にすることができねぇんだからよ」
Bランクまでが中位冒険者で、Aランクからは上位冒険者と呼ばれる。
いい機会だから、ギルドマスターのラッセに聞いておこう。
「一つ聞きたいことがあります……Aに上がる方法って、俺がCからBに上がった方法と同じじゃないんですか?」
俺が質問したことでラッセと、なぜかアリシア姉さんとキャシーまで驚く。
「最初に会った時もそうだったが敬語か。俺はAランク冒険者でな、お前達の方が強そうなのに気を遣わせちまってなんか悪いな」
「俺は冒険者で、ラッセさんの方が冒険者ランクが高いのだから当然ですよ……敬いたくない相手には別ですが」
「そうか……敬語かどうかはお前に任せるが、俺のことはラッセでいいぜ」
ラッセは屈託のない笑みを浮かべている。
アリシア姉さんとキャシーに凄いと言われていた謎の少年リベルの噂もあって、今までラッセは俺を警戒していたのかもしれない。
「あそこまで強くなったのに驕らず礼儀正しいだなんて……やっぱりリベルは素敵! 大好き!」
「あたしも、お兄さまのそんな所がいい」
それにしても……前世の記憶を取り戻す前の俺のせいでもあるけど、この二人は俺が何をしても歓喜しているな。
「えっと、えっと、その……」
アリシア姉さんの大好きという発言に感化されてしまったのか、ルシアは顔を赤くしつつ、何かを言いそうで躊躇っていた。
ラッセはアリシア姉さんとキャシーを気にしなくなった辺り、もう慣れていそうで驚いてしまう。
この冷静さはギルドマスターをやっているだけはある。
俺も見習うべきだろう。
「さて、冒険者のランクについてだったな。Bランク、中位までなら依頼を達成しているだけで上がれるが、Aランクからは上位冒険者と呼ばれるようになるから、CがBになった時よりも遥かに難易度は増す」
そう言ってから、ラッセが呆れた様子でアリシア姉さんとキャシーを見る。
お揃いになりたいという理由でAランク相応の地位を捨てた二人が、ラッセには理解できないようだ。
「そもそも、AになれないのはBランク以上の依頼があまりないというのもある……CランクとBランクの依頼を達成していくとB+ランクになってAランクの依頼を受けることができ、それを何度も達成してようやくAランクだ」
B+ランクか。
実際はBだけど、Aランク候補者という意味なのだろう。
「AランクとSランク冒険者は少ねぇからな……剣帝協会や賢者協会とか、色々な組織に勧誘されて消えるってのもある。上位ランクになると一気に世界が変わるぜ」
恐らく色々な組織というのは、デビルハンターもありそうだな。
世界が変わるというのは悪魔について知ったりすることなのだろう……ラッセがアリシア姉さんとキャシーを見て二人が頷く。
この反応を見るかぎり、ラッセは俺達が悪魔の存在を知っていると理解しているのだろう。
「アリシアとキャシーは解ってやったとは思うが、ギルドで上書き登録したことで今アリシアは元剣帝、キャシーは元賢者の冒険者になっている……協会がなんか言って来たら自己責任で頼むぜ」
所属する組織が変わることで「元」と頭につくけど、剣帝や賢者の称号は一度なると消えないようだ。
ラッセに迷惑をかけたくないし、俺はアリシア姉さんとキャシーが返答する前に言っておく。
「わかった。姉さんとキャシーも、それでいいな?」
「ええ。私はリベルの言うことならなんでも聞くわ」
「お兄さまが命令……命令……」
「ええっ……二人は何をしたかわかっているのでしょうか? わかった上で、リベルの方が重要なんですね」
冒険者になることによって、賢者と剣帝の立場をほぼ捨てることを知らなかったルシアは、平然としているアリシア姉さんとキャシーをみて唖然としている。
それでもルシアがすぐに納得できた辺り、唖然としつつも慣れようとしているのかもしれない。
気持ちが解るのかラッセが哀れむようにルシアを眺めながら、ラッセは俺に目をやって。
「俺が言いたかったのはそれだけだ。できる限りAランクになるよう推薦しとくから、頑張ってくれ……リベル達なら大丈夫そうだけどな」
そう言ってラッセが去って行くけれど、剣帝協会と賢者教会は気にしておくべきかもしれない。
特にこの国には剣帝協会の支部がある。
どこのギルドで冒険者になり、元剣帝になったのかはカードの情報によっていずれ協会に伝わるだろう。
もし何か問題があれば、近いし剣帝協会の方から来そうだな。
アリシア姉さんが剣帝ギルドに行きたいと俺に提案しないことから、行かなくても大丈夫そうな気がする。
今回のアリシア姉さんとキャシーの行動で何か問題があるのなら、剣帝協会、賢者協会の人間がこの国の冒険者ギルドにやって来るはずだ。
それなら暫くはこの国を拠点にして、協会の人間が来るか待ってみるのもアリかもしれない。
これからどうするかだけど……色々と教わりたそうにしているキャシーに魔法を教えながら、ルシアを鍛えるべきだろう。
Bランク以上の依頼が少ないというのなら、Cランクの依頼を受けて暫くのんびりしながら、悪魔が攻めてくるのを待つのもよさそうだ。
朝食も終えたし――俺は暫くこの国に居るべきだと、三人に提案しようとした瞬間。
「それじゃリベルとお揃いの冒険者になれたし、私達が住む家を選びに行きましょう!」
「さんせい」
「わっ、私の寝室は、リベルと同じ部屋がいいです!」
提案しようとしたけど、そういえば家を買いに行くんだった。
ここからが今日の本番だと言わんばかりにアリシア姉さんとキャシーの目が輝いて、ルシアが俺を見ながら宣言している。
この中でも特にアリシア姉さんがヤバくて、ふふ、ふふふと声を漏らし、小刻みに震えながら。
「私が用意したリベルとの家……リベルと一緒、ふふっ、ベッドは大きいのが一つでいいし、お風呂の魔道具も最初から備わっているのが――」
確か色々と夢とかアリシア姉さんは言っていたけれど、今のアリシア姉さんはかなりヤバい。
絶世の美女なのに一人で語りながら口元には涎が僅かに見えて、それを手で拭っているけど……俺を見て顔を赤らめている。
俺の前で醜態を晒したのが恥ずかしかったからか、俺を性的に見てるからなのかがわからなくて、俺は身の危険を感じるしかない。
どんな家を買うのかは代金を払うアリシア姉さんに任せようと思っているけれど……俺はどんな家に住むこととなるのか、かなり不安だった。




