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21話 お揃い

 翌日――ルシアは隣のベッドで眠っていて、俺はアリシア姉さんとキャシーに抱きしめられた状態で目が覚める。


 俺は一応身体を確認しておく……警戒していて目が覚めなかったから大丈夫だと自覚しているも、再度確認しておきたかった。

 何も起きていないことに安堵しながら、俺は隣で眠っているアリシア姉さんを眺める。


 恐らくアリシア姉さんは、ルシアが見ている前では俺を襲うことはないはずだ。


 もし襲われた場合、俺は家族だからと振り払えるか微妙だからな……なんせアリシア姉さんは絶世の美女だ。


 ……本能からか、ちょっとぐらい触ってもいいかと考えてしまって、すぐさま隣のベッドで静かに眠っているルシアを見ることで手を止める。


 実際のところ……アリシア姉さんとキャシーの抑止で仲間が欲しいと考えていたけど、ルシアは俺の抑止になっているな。


 眠っているルシアを眺めてから、再びアリシア姉さんと見た瞬間、俺はアリシア姉さんと目が合った。


 恐らくアリシア姉さんは寝たフリをしてて、俺が行動に出るのを待っていたのかもしれない。


「……姉さん、おはよう」


「おはよう……リベルとこうして朝を迎えたのは久しぶりね。最近はずっと鍛錬に夢中で、家を出てから数週間、この日が待ち遠しかったわ」


 とりあえず挨拶をしておく。

 鍛錬に夢中と言われてしまったけど、勘当と追放を受ける直前、俺が最も精神的に追い込まれていた時の話をしているのだろう。


 それからキャシーとルシアが起きて、俺達は着替えながら今日の予定を話す。


「今日は俺達の家を買いに行くということでいいのか? 依頼で結構金はあるし、俺も家の代金を払わせて欲しい」


 アリシア姉さんの持っていた白金貨と金貨なら問題ないけど、俺だってここ最近は依頼を達成したことで懐は潤っている。


「ううん。それはリベルがとっておいて、私が買った家にリベルが住んでくれるのは、お姉ちゃんの夢の一つだったから……」


 そう言ってウットリしているアリシア姉さんを眺めながら、俺達は部屋を出てどこかで朝食をとることにする。

 アリシア姉さんとキャシーに出会ってからまだ一日も経ってないのに、ルシアがアリシア姉さんに慣れていることに驚いていると、俺はルシアと目が合って。


「そうなりますと、依頼を受けるのは昼以降、もしくは受けないことになりそうですね」


 ルシアが今日の予定を口にすると、アリシア姉さんとキャシーの二人が目を合わせて。


「……やっぱり、私もリベルとお揃いの冒険者になりたいから、家よりも先に冒険者登録に行きましょう」


「朝ごはんも冒険者ギルドで食べられるし、さんせい」


 二人がそう言ったから、俺達はまず冒険者ギルドへ向かうことにしていた。


 × × ×


 家を買いに行くのだとばかり思っていたけど、アリシア姉さんとキャシーは先に冒険者登録をして、俺のパーティに入りたいらしい。


 冒険者ギルドが見えてきて、アリシア姉さんが小刻みに震えながら。


「冒険者登録をして、冒険者になったらリベルとお揃いの冒険者カード、お揃い……ふふっ」


 やけにアリシア姉さんはお揃いを強調するけど、俺はルシアと剣がお揃いで、キャシーとは常に冷静でいるという思考がお揃いだった。


 そこまで気にすることでもないような気がするけれど、アリシア姉さんが俺の腕を引っ張りながら冒険者ギルドへ行くのを急かしている。

 胸当てがあるとはいえ、服越しの脇に挟まれた二の腕による柔らかさを直に感じてしまうけど、俺は冷静であろう。


 冒険者ギルドに到着して――真っ先に受付へと向かったアリシア姉さんとキャシーが、剣帝と賢者になると貰えるらしい証明書も兼ねたカードをカウンターに出して。


「冒険者登録をお願いします。リベルのパーティ登録も、この子と一緒にお願いしますね」


「よろしく」


 そう言ってアリシア姉さんとキャシーが俺の冒険者カードと一緒に自分のカードを見せるけど、受付のお姉さんは目を見開かせて驚き、リーダーである俺を見ている。


 二人のカードは見た目こそ俺の赤い冒険者カードに似ているけれど、アリシア姉さんのカードは剣帝の証である白色で、キャシーのカードは賢者の証である黒色だ。


 それを眺めた受付のお姉さんが、唖然としながらも二人に説明する。


「えっと、剣帝アリシア様と、賢者キャシー様はその、Aランク冒険者と同格になっていますけど、冒険者登録をするとCランク冒険者からスタートになります。本当にいいんですか?」


 最初はCランクまでしかなれなくて、それは剣帝や賢者でも同じのようだ。


 そしてBランクの俺のパーティに入るというのは、意味不明だろう。


 ルシアはここ最近俺と共に依頼を達成したことによって、BランクパーティのCランク冒険者となっている。


 これでBランクリーダーの俺、Cランク冒険者三人によるBランクパーティが結成されるのだけど、実際はAランクの依頼ぐらい余裕でこなせる戦力だろう。


「わかりました。Cランクは青色でリベルのBランクは赤色……早くBランク冒険者になって、リベルとお揃いのカードになりたいわ!」


「あたしも、お兄さまと一緒の赤色がいい」


「が、頑張ります!」


 既にAランク相応なのにCランクから始めてBランクになりたいと言うアリシア姉さんとキャシーは異常で、普通にBランク冒険者を目指そうとしているルシアだけマトモだ。


 登録を終えて、俺達は朝食をとるために冒険者ギルドと併設している酒場のテーブル席に行くと、やけに周囲から俺が受ける嫉妬の視線が強くなっている。

 俺が美女二人と美少女一人と一緒だからか……それでも、アリシア姉さんとキャシーを見て驚いている人も何人か居るようだ。


 剣に長けた人は剣帝アリシア姉さんを、魔法に長けた人は賢者キャシーを見て信じられないと言わんばかりの反応をしている。


 推測するに、驚いている人達はこの冒険者ギルド内でもランクの高いある冒険者なのだろう。


「おう坊主、いい女達を引き連れているじゃねぇか!」


 そして――いきなり俺に声をかける三人の男、こいつらは何も知らない低ランク冒険者なのだろう。


 先頭のリーダー格らしい男の横から、一人の男が前に出て。


「ドラゴンの素材を買って提出することでCランクで登録した見栄野郎には理想的な状況かもしれねぇが、許せねぇ奴だっているんだよなぁ」


 誰かが絡んできたのはカーラの時以来だけど、こいつらは俺の噂を真に受けているようだ。


 アホな噂に騙されているのは、ランクが低すぎて俺の達成した依頼を知らないせいなのか。


 周辺の冒険者も呆れたように三人を眺めていて、止めようとした冒険者を誰かが止めている……俺を敵に回す可能性を考慮して、関わるのを避けたのだろう。


「見栄野郎って、お兄さまのこと?」


 そう言ったのは、俺の隣の席に座るキャシーだ。


 テーブルを挟んで俺の正面に座っているアリシア姉さんは、剣に手をかけていた。

 冒険者ギルド内だから剣を抜くことを躊躇ったみたいで、杖を持って椅子から立ち上がったキャシーに任せようとしているのかもしれない。


 ムッとしているキャシーを見て、先頭の男が呆れた様な表情を浮かべて。


「貧相な嬢ちゃんは引っ込んでな。俺達はそこの二人に用があるんだからよ」


 そう言って男がアリシア姉さんとルシアを指差して、俺は手で杖を握りしめているキャシーを制しつつ椅子から立ち上がる。


「今、キャシーを貧相だと言ったのか?」


 その発言と同時に、男達がいきなり後方に下がって。


「ハッ、テメェに触れられると急に苦しくなるってことは知ってるんだよ。毒の暗器でも仕込んでいるのか知らねぇが、近づかなきゃ怖くないぜ!」


 どうやら俺が魔力を流して苦しめていることは、暗器による毒によるものだと噂が立っているようだ。


 まさか警戒されるとは思わなかったけど、いい機会だろう。


 俺は三人の男達と目を合わせることで、眼から魔力を飛ばして。


「俺は毒を使っていないし、そもそも冒険者に危害を加えていない」


 魔力を与えただけで、受けた者の許容できる魔力を越えて一時的に苦しくなるだけだ。


「嘘つけ! テメェは近づきたいんだろうが、そうはいかねぇ……ぜ……?」


 俺の魔力を受け、体内に俺の魔力が流れたことで一気に三人が体調を悪くしてギルドから出て行き、何人か冒険者が追いかける。

 俺が普通にCランクの依頼を何度も達成してBランク冒険者になっていると、追いかけた人達は三人に説明するのだろう。


「えっ? お兄さま、今まさか……」


 俺の対処法を見てか、キャシーが杖を落として、興奮して息が荒くなっている。


「キャシーちゃん!?」


 アリシア姉さんが叫ぶけど、キャシーは色々なことを考え過ぎた時、こうしてパニック状態に陥ることがある。

 アリシア姉さんが動くより先に、俺はキャシーを優しく抱きしめて。


「大丈夫だ。これはアルベールが考案していた未完成な魔法を、俺の魔力と知識で完成させた」


 今のキャシーは様々なことを思考しすぎて困惑しているから、俺は明確な答えを教える。


 そうすることでようやく落ち着いたキャシーが、俺の背中に両腕を回して、息を荒くしながらも目を輝かせて。


「おっ、お兄さま、ありがとう。手と持った武器以外の魔法使用……賢者協会が知ったら、間違いなく賢者の席、それも最高位の大賢者の席を用意するほど……」


 これは魔法を扱う者なら誰もがやってみようという発想に至るも、到達する者が存在しなかったと、アルベールの記憶にもあった。


 それを俺が使う場面を目にしたキャシーは、とてつもなく興奮して動揺している。


 さっき見せた眼による魔力放出は、今でも賢者達が到達できていない魔法だった。

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