2話 冒険者ギルド
家から追放され、最後だからか街に向かう途中で追い剥ぎのような行動に出てきた兄達を返り討ちにした俺は、街で装備を調える。
返り討ちにしたことで手に入れた兄達の装備は俺のよりも性能がよく、かなりの金貨を持っていたから万全の準備をすることができていた。
そして翌日――俺は馬車に乗りながら、冒険者ギルドがある近場の三国、その中で最も遠いレスタード国へ向かっている。
知り合いに会いたくないのが一番の理由だったけれど、冒険者になるのだから会うことはないはずだ。
馬車で1週間以上かかっているも、ようやくレスタード国が見えてきて。
「リベル様……ここ1週間の長旅、本当にありがとうございました」
「俺達と協力して護衛を務めてくれたこと、本当に感謝する」
同行していた商人、そして護衛をしていた3人組の冒険者パーティに感謝されて、俺は軽く片手を振りながら。
「気にしなくていい。俺としては同業者から冒険者について詳しく聞けたのは何よりだった……それよりも、これは本当に、俺の物でいいのか?」
そう言いながら、俺はカバンの中に入れていたドラゴンの肝や爪、一番貴重な部分の鱗を見せる。
「もちろんだ。むしろ、話を聞かせてくれるだけでいいというのが破格すぎる……急にやって来たドラゴンを、君は問題なく仕留めるほどなんだからさ」
そう冒険者のリーダーらしき男が言うけれど、三日ほど前に馬車を襲撃したドラゴンは俺の魔法を数回受けただけで倒れたから、大したことがないはずだ。
冒険者パーティがこの世の終わりみたいな顔をして動く様子がなかったから、俺は思わず戦ってしまったけれど、それから解体のやり方を教えてもらったり、結果的に見ると俺の方が助かっているだろう。
「強さの秘訣みたいなのがあるのか? もしあるならぜひ教えて欲しい!」
そう冒険者の一人が言ってきて……俺はここ一週間で色々と冒険者について教えてもらったから何か言うべきだと、今までのことを思い返す。
「優秀な姉と妹が居たから……かな?」
「やはり、師匠というのは大事なのか。リベルが優秀と言うほどなら……とてつもなさそうだ」
確かに、アリシア姉さんは剣の達人である剣帝と呼ばれていて、妹のキャシーは最年少賢者として有名だった。
姉さんとキャシーによって家も有名になったからこそ、父上は本来の力が使えない、出来損ないと言われても反論できなかった頃の俺を勘当したのだろう。
それにしても……俺は自分のことながら、本来の力について思案する。
姉は剣に優れ、妹は魔力に優れて――兄達は両方の素質があるも、どちらも姉妹に勝つことはできなかった。
そして、俺はどちらの素質もないから追放されてしまったけれど……実際はどちらも姉と妹を凌駕するほどの力があり、強すぎて使いこなすことができないでいたと前世の記憶から理解する。
今までの家族による行動や発言を思い返すと、兄達は見下していたけれど、アリシア姉さんとキャシーは知っていたからこそ、俺の将来に期待してたのだろう。
前世のことを思い返すまで、俺は自分のことをぼくと呼ぶ弱々しい男だった。
そんな俺をアリシア姉さんが溺愛していたから、俺はそれを受け入れて甘えていたことを思い返す。
追放を宣言されて、心が折れたことが理由で前世の記憶が蘇ったのは理解している……あの記憶は、絶対に昔起こった現実だ。
前世の壮絶な戦いを眺めて、前世の膨大な魔法と戦闘知識を得たことで、俺は本来自分が持っていた力を理解した。
だからこそ――俺はあの人の来世に、相応しい人とならなければならない。
「レスタード国が見えてきましたよ!」
冒険者の1人がそう言って……冒険者達は商人の護衛依頼を受けているからと、俺とは別れる事となっていた。
× × ×
冒険者パーティから場所は聞いていたから、俺は冒険者ギルドの中へと入る。
中は酒場のような空間で、昼過ぎだからか武装している人達が見える……彼等は全員冒険者か。
受付のテーブルがすぐ傍にあったから、俺は受付に向かう。
「冒険者登録をお願いします」
「かしこまりました……この国の冒険者登録ですが、自らの手で狩ったモンスターから手に入る様々な素材を持ってきてもらい、それでランクを決めます」
助けた冒険者達から聞いていた通りだな。
理由として人手不足だからと聞いていたけど、冒険者ギルド内だと結構人が多く感じられる。
回復魔法を扱う人があまり居ないから、これだけ人が居ても人手不足らしい……俺はその回復魔法を使えるけれど、それが知られると面倒そうだし、緊急時以外は使わないでおこう。
「素材なら今持っていますけど、見せてもいいですか?」
「どうぞって……こ、これはドラゴンですか!? しょ、少々お待ちください!」
受付のお姉さんが驚くけれど、むしろこれがドラゴン以外の素材に見えるのだろうか?
大声をあげたことで周囲がざわめきながらも、受付のお姉さんが奥に向かい、すぐに1人の強面な青年がやって来て、俺を眺めながら。
「この子がドラゴンを討伐してきたってか? 確かに……体内から感じ取れる素質は凄まじいが、この年でこの力を扱えるとは思えないぞ」
「扱えた証拠が、これなんじゃないですか?」
俺はそう言ってドラゴンの素材を見せると、青年が納得した様子で。
「確かにそうか! 俺はこの国のギルドマスターをしているラッセだ! 君の名前は?」
「リベル」
エストロウの名前は捨てたから、今の俺はただのリベルだ。
「よし、リベルだな。君が倒したこのドラゴンはスカイヘルドラゴンでAランクモンスターになるんだが……すまない、最初はCランクまでしかなれないんだ。このドラゴンは買取らせてもらうけど、それでいいか?」
「わかった」
それから俺はCランク冒険者……すぐに中位クラスの冒険者となったようで、証明書でもある冒険者カードを受け取る。
それにしても、あのドラゴン程度でAランク扱いということは……前世の人って、どんだけ強かったんだ?
倒したドラゴンは大したことがないと思っていただけに、やっぱり前世の人がおかしいような気もしていると。
「お、おい……聞いたか?」
「最初からCランクの冒険者って、間違いなく最速だろ……例外用のCなのに、ラッセさんはAランクドラゴンって言ってたな……」
どうやらかなり目立ってしまったみたいだけど、これは幸先がいいと考えるべきだろう。