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19話 目標

 俺の前世がアルベールという賢者で、悪魔の主ジェイルと戦ったことがあると伝えると、フランとルシアは困惑していた。


「……正気か?」


 フランの質問に、俺は頷いて。


「ああ。まったく無名だった俺が急成長して、誰も解呪できなかった悪魔の呪印を解呪した……その理由としては妥当じゃないか?」


「確かに……しかし君は、その、アルベールになったというわけではないんだな?」


 それならもっと、俺は俺自身の力を使いこなしていただろう。


「そうなる。アルベールの知識や経験を知ることができただけだ。前世の記憶を見て弱虫だった自分が惨めになり、アルベールの来世に相応しい男になると決意した……今は最強の冒険者を目指している」


「最強の冒険者なら、デビルハンターの組織を設立したパリスという男が歴代でも最強の冒険者と伝わっている……君はそれを超えるというのか?」


「そうなる」


 パリスという男はアルベールの同志で、剣と魔法に優れていた人物だった。


 どうやらパリスはただ冒険者として最強だっただけではなく、デビルハンターという悪魔に対抗できる組織を設立する程の偉業を成し遂げたようだ。


 それなら俺は――その最強の冒険者を超えるために悪魔、その主であるジェイルを仕留めなければ、最強の冒険者と納得することができないだろう。


「それにしても……自分で言っておいてなんだけど、フランは俺の話を信用してくれるのか?」


「解呪したという事実は大きい。悪魔の主は悪魔に命令を出せるも今まで一度も姿を見せたことがないとされているが、もしかしたら君を、アルベールの記憶を受け継いだ存在を恐れているのかもしれないな」


 その通りだろう。


 前世のアルベールは、ジェイル含めて四人の同志と行動していた。


 ジェイルはやけに死を逃れる方法に拘っていて……五人でどうすれば不老になれるのかについて、様々な意見を出し合う。

 アルベール以外の三人は魔剣や魔本に意志を籠めることで知識や技術を継承し、アルベールは記憶を来世に送る手段を考案していた。


 常軌を逸した方法をとらなければ、死を回避することはできない。


 そう五人は結論を出し、他者に力を与えることで魂を継ごうとしたアルベール達と違い、ジェイルだけは自らの死を回避するためなら手段を選ばなかった。


 四人に隠れて呪魔法の研究を進め、魔法知識だけはアルベールを凌駕していたジェイルは呪印を完成させる。

 そして間違いなく敵になると想定し、アルベール達に対抗できる戦力、悪魔の軍団を作ることで同志四人を配下にしようと動く。


 力があったアルベールはジェイルを止めるために動き、残り三人の賢者と剣帝は敵わないからと後世に任せる為に様々な対抗手段を準備しようとしていたことまでは――アルベールの記憶から俺も知っていた。


 それが後のデビルハンターになったのだろう。

 アルベールはただ一人、自身が最強だと確信していたからこそ、悪魔の主であるジェイルを追い詰め、相打ちに持ち込む。


 そして記憶という魂を遺した結果、来世である俺の精神崩壊を引き金に記憶が目覚めて、知識と経験を得たことで俺が本来の力を使いこなせるようになっていた。


 そこまで思い返して――俺は前世の、アルベールの敵討ちがしたくなっている。

 

 いや、アルベールには悪いけど、正直それはついでだ。


 ――アリシア姉さんが、死ぬかもしれなかった。


 それだけで悪魔を、その発案者にして主であるジェイルを殺す理由は十分すぎる。


 俺が自分の前世を明かしたのは、アルベールの同志が築いたデビルハンターに協力したくなったというのもあるけど、アリシア姉さんとキャシーに危害を加えたジェイルをこの手で叩き潰したいからだ。


「俺はデビルハンターのトップと話がしたい……恐らくジェイルの名前をフランが出して報告すれば、トップから俺の元へ会いに来るだろう」


「君はとんでもないことを軽々と口にするな。ジェイルの名前を出して連絡はしておこう……そして君との連絡用に――」


「――なんだこれは!?」


「うわ、目覚めた」


 そう言って、フランがカバンから何かを取り出そうとした瞬間、叫び声が平原に響く。


 物凄く嫌そうなフランの声は、ジタバタと縛られた状態で必死に暴れているザオウの叫びで掻き消されていた。


「どういうことだ!? ふざけるなよフラン! お前は一体何をしている!!」


「ほう……今まで寡黙だったのに、随分と喋るじゃないか」

 

 ザオウが意識を取り戻し、縄で動けないから必死に抗おうとしている。


 ザオウから見るとフランの背中しか見えていないけれど、物凄く楽しげなフランの表情を目にして、俺は少し引いていた。


 フランは振り向かずザオウに背中を見せたまま、俺の後ろに居る俺の全身を撫でながら息を荒くしているアリシア姉さんを指差して。


「アリシアは悪魔を制御することができたらしい……それなら奇跡的なケースだが存在してる。探知機にも反応していないだろ?」


「制御しただと……それでも一年以内に再発するケースが大半で殺害対象だ。俺が殺す」


「私もそうするべきだと判断するも、貴様が無様に敗北し、挙句の果てに縄を奪われ拘束された。人質にされたのだから言うことを聞くしかないじゃないか……アリシアをどうするかは、上の指示待ちになるだろう」


「ぐぅっ……」


 なるほど、全部ザオウが悪いことにするのか。

 だから自分のではなく、ザオウが所持していた縄を使ったのだろう。


 そして俺が呪印を解除したことは伝えていない……ジェイルの名前を出したことで機密にすべきだとフランは判断したのか、既存の情報だけで納得させようとしているな。


 ザオウの意識がなかったから、その間にフランはやりたい放題していることに俺は唖然としていると。


「さて……何かあったらこの紙に書いてくれ。私の所持しているこの紙に、君がその紙に書いた内容が出で、書き終えたと同時に振動して知らせてくれる……逆も然りだ」


 そう言って、俺はフランから1枚の立派な額がついている手鏡サイズの紙を貰う。

 これは市販されていない連絡用の魔道具だろう。


 ルシアが俺の通信ができる剣に驚いていたことから、これもかなり高価な魔道具だと推測できて。


「こんなのを貰ってもいいのか?」


「本部に確認して、君の妄言だと発覚した場合は返してもらうがな……ザオウを倒したほどだ。君の実力なら、私は君を信じたくなっている」


「お前は俺が殺す。フラン、縄を解け」


「嫌だ。後で色々説明してやるから、今は道具のように運ばれていろ」


「ぐっ」


 そう言ってフランがザオウを引きずりながら運んでいるけれど、フランはかなり楽しそうだな。


 アリシア姉さんに危害を加えさせない為には、俺の詳細を全て話す必要があったし、いい機会だったはずだ。


 俺の後ろでアリシア姉さんは抱きしめた状態で、俺の頬を撫でて呟く。


「前世の記憶を思い出すだなんて……リベルはそこまで追い詰められていたのね。お姉ちゃんが居るから、もう何の心配もいらないわ」


「あたしも一緒」


「わ、私も居ますから!」


 完全に密着しているアリシア姉さんとキャシーは平常運転で、俺の発言なら何でも信じてくれるようだ。


 いきなり前世だなんて、俺の発言は怪しまれてもおかしくないはずなのに、ルシアまでそう言ってくれたことには驚くしかなかった。


 × × ×


 フラン達が帰ったから、俺達も王都に戻ることにしていた。

 帰ってきた頃には夕焼けが出ていて、俺達は店で夕食を食べて宿に戻るけれど、いきなり二人増えたことに宿の人が唖然としている。


 いきなり二人増えたことよりも、二人増えたのに部屋はそのままだと言われたからだろう。


 この宿で一番広いのは、ここ三日間使っていた二人用の部屋だと知った時から、アリシア姉さんとキャシーは同じ部屋がいいとしか言わなくなっている。


「あの、やっぱり別の部屋を」


「ダメよ。リベルはお姉ちゃんと一緒に寝るの」


「この宿の一番大きい部屋なら、問題ない」


 人数が増えたから俺がもう一部屋借りようとするも、アリシア姉さんとキャシーが拒んでくる。


 ルシアは酔った時に一緒に寝たいと何度も言われていたから、俺はルシアと一緒の部屋にするつもりだったけど……これは想定外だな。


 部屋に入ってから、ルシアが部屋全体を眺めて。


「あの、流石に二人用の部屋で、四人は狭いのではありませんか?」


 これは無理じゃないかと思ったのか、おずおずとルシアが常識的な発言をすると。


「大丈夫よ。部屋にベッドが二つあるから、ルシアはそっちのベッドを使って、私とキャシーちゃんはリベルと一緒に眠るから」


「ルシアは今までリベルと密着していたから、明日まで我慢して……明日には準備を終える」


 何の準備なのか解らない俺とルシアが首を傾げようとして、ルシアは首を傾げるも俺は傾げることができない。


「あの、アリシア姉さん、ちょっとこれは……」


 それは後ろからアリシア姉さんが再び抱き着いているからだ。

 どうやら部屋に入った瞬間に装備の胸当てどころか下着まで外したようで、平原の時よりも柔らかい感触を俺は背中から受けている。


 そして前には普段の戦闘用の服を脱ぎ捨てて、キャミソール一枚と下着だけになったキャシーが俺に抱き着いている……これに関してはいつも通りだ。


「寂しかったからこうしてリベルと一緒に居たかったけど、ダメなの? ルシアの方がいいの?」


「ひっ」


 ルシアが怯えているけど、俺の方向からはアリシア姉さんがどんな表情をルシアに向けたのかが解らない。


 二度目になるけれど、もう一度言っておこう。


「姉さん、ルシアは俺の仲間だ。さっきみたいに危害を加えようとは二度としないで欲しい……まあ、さっきのは悪魔のせいだから、姉さんがそんなことするわけないって信じてるけどさ」


「っっ!? えっ、ええ……そうね。ルシアとは、これから仲良くしていくから……」


 こう言っておけばアリシア姉さんは大丈夫だろう。


 四人で同じ部屋になるのは狭そうだけど別にいいとして、俺はアリシア姉さんとキャシーから、聞かなければならないことがあった。

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