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1話 追放と反撃

 リベル・エストロウ16歳――と、ぼくは自分の存在を思い返す。


「聞いているのか? お前はこの家には不要だ! 今すぐに出て行け!」


 ――そうだ。

 今のぼくは父上に呼び出されて、家を追放されようとしている。


 エストロウ家の三男として産まれたぼくは、2人の兄上、そしてアリシア姉さんと妹のキャシーよりも遥かに劣っていた。


 兄から蔑まれ、アリシア姉さんとキャシーには期待されたプレッシャーで追い詰められ、命を断とうと何度も考え――そして今、父上から勘当を宣言されてしまう。


 精神的に追い詰められて、生きることを諦めた瞬間――突然ぼくの頭の中に、前世の記憶が入ってくる。


 前世の記憶。


 それは、ただの妄想による現実逃避にしては鮮明かつ壮大な戦いの日々で……ぼくは、いや、俺は自分がいかに小さなことで悩んでいたのかを理解した。


「わかりました。先ほどの話にあった数枚の金貨をください。今すぐに出発します……今まで育ててくれたことは、感謝いたします」


「……ふん。感謝するというのなら、実力で示して欲しかったがな」


 父は目を合わせようともしない辺り、すぐにでも俺には消えて欲しいのだろう。


 恐らく色々と手続きを済ませた後だろうし、これはもう、俺が何をしても覆りそうにない。


 何より……俺はもう、この家には居たくなかった。


 アリシア姉さんと妹のキャシーが気になるけれど……こうなってしまったのだから、仕方がないだろう。


 × × ×


 俺は屋敷を出ながら思案する。

 ひとまずは街に向かい、旅の準備をするべきだろう。


「さて、と……」


 俺はエストロウ家の三男……この国に居れば、没落少年だと馬鹿にされる可能性が高い。


 街で最低限の食料を購入して、馬車に乗って他国に向かう……昔から家を出て冒険者になろうと何度も考えていたから、行く候補は三国まで決まっている。


 どうせなら一番遠い場所に行くべきだろう。

 俺はこれからのことを考えながら歩いていると、目の前に、見知った二人の青年が武器を向けて立ち塞がる。


 その二人のことは、俺が一番よく知っていた。


「……なんのつもりですか、兄さん?」


 エストロウ家の長男であるアルク兄さんは剣を、次男のエルト兄さんは杖を持ち、いきなり俺に対して武器と敵意を向けてくる。


 もう私有地ではないからか、まるで盗賊と対面したかのような気分になってしまった。


 咄嗟に俺は兄達に尋ねてみると、兄達は何が楽しいのか、俺に剣の刃と杖の先端を見せつけながら、普段通りの蔑むような笑みを浮かべて。


「ははははっ! 出来損ないの弟が出て行くと聞いてな! 1人で生きていく厳しさを教えてやろうと思ったのさ!!」


「命まではとらないが、腰にさげた金貨の袋、そして剣と杖は貰う……父上は、お前に甘すぎる」


 なるほど、最後の最後まで愚弟の俺を痛めつけたいということか。


 この2人と会うのも最後になるだろう……せっかくだから、俺は思ったままのことを口にする。


「まったく、アリシア姉さんとキャシーが俺にベッタリだったからって、嫉妬するのもいい加減にしてくださいよ」


「……なんだと?」


「お前今、なんて言った?」


 兄達……いや、アルクとエルトは、俺の発言が信じられないようだ。


 今までの軟弱だったリベルは大人しく、いつもアリシア姉さんに泣きついていた。

 その場面でも、この二人は思い返しているのかもしれない。


「事実を言いました。兄さん達は傲慢で妹の二人よりも弱いくせに、兄ぶろうとしてるから嫌われてるんですよ」


「貴様ぁっ!!」


 前世の記憶を思い返すと……激昂しながら刃を向けて斬りかかってくるアルクの動きに、俺は憐れみを感じてしまう。


 今までは恐怖のせいで俺は本来の力が出せなかったけれど、前世の動きを頭の中で体感しているからか、鈍すぎるアルクの剣を左手で掴む。


 そのまま右の手の平を突き出して、俺は右手から暴風を発生させることで、アルクを大きく吹き飛ばし、意識をなくすと。


「なっ……なんだその魔法は!?」


 そう魔法使いのエルトが驚愕した叫び声をあげて、俺は首を僅かに傾げながらも、すぐに納得する。


 そうか。

 風魔法はもう、この国だと伝説の代物だったな。

 

 説明すると面倒そうだから、適当に誤魔化すとしよう。


「……そうだな、俺はアルクの剣を受け止めて、それから押し飛ばしただけだが、あまりにも弱すぎる」


「ふ、ふざけるんじゃ――」


 俺は動揺して動けないでいるエルトに説明しながら、一瞬で引き抜いた剣の刃をエルトの首元に向ける。


 恐らくエルトは間合いに入られたことすら理解できていないだろう……全身から冷や汗を噴出して、声も出せないでいた。


「お前には倒れている兄さんを運んでもらわなければならないんだが……その前に、お前達の持っている物を全て渡して貰おうか」


「えっ……ひっ!?」


 エルトが文句を言いかけたから、俺は首筋に向けている剣の刃を動かすことで僅かに皮膚を切り、続けて宣言する。


「命まではとらない……兄さんが俺に言ったことだろ?」


 その発言でエルトは理解できたのか、武器と装備、持っていた金貨を全て俺に渡し、アルクを背負いながら逃げていく。


 前世の戦いのイメージを思い返し、思い通り身体を動かすことに成功した俺は、思わず自分の両手を眺めながら。


「……アリシア姉さんとキャシーの期待に応えるだけの力があったのに、それを自覚するのは追放された後か」

 

 本来の力を発揮すれば、俺は兄達よりも強く……そして、姉さんとキャシーよりも強くなると言ってくれた姉妹の過度な期待に、本当に応えることができたのだろう。


 そこに申し訳なさを感じながら……本来の力を使いこなせるようになった俺の、新たな人生が始まろうとしていた。

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