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流れ時…5プラント・ガーデン・メモリー16

 五歩進む毎に歴史が動いているのがわかる。


ここはそういう歴史書らしい。

反対側の泉に近づくにつれて村人がはっきりと見えるようになった。


村人達は血色よく健康体で、どの人もおだやかな顔をしている。先に餓死寸前の人々を見ていたせいか村人達がやけに太って見えた。


 「この泉を埋め立てるなんて……。」

 村人の中の誰かが声を発した。


 「そんな事、冗談ですよねぇ?」

 「お上がそう決めたんだ。俺達は逆らえねぇよ。」

 村の男が表情暗くつぶやいた。


 「ただ見ていろっていうの?」


 先程歴史書で見たと思われる女性が男性に叫んだ。女性はあの歴史書よりもだいぶ太っていた。


 「しかたねぇだろ。埋め立てて土地にするって言ってんだから。俺達村の人間がお上に口だせるか?殺されちまうぞ。」


 「……そうだけど……。」

 村人達は途方に暮れているようだ。


 「やはり埋め立てられたのですね。この泉は……。」

 「……村の人は埋め立てに賛成してないみたいね……。」

 ヒエンとアヤはこっそりとつぶやいた。


 「この歴史書、けっこう編集されているみたいね~。」

 突然草姫がアヤとヒエンに向かい声をかけた。


 「え?」


 「いらない所を見せないようにしているのよ~。


だから歴史が進むのが早いの~。前も言ったでしょ?ここは木の記憶なの~。


その木の記憶を見えるようにした神が作者と呼ばれているの~って。その作者がいらないところを排除してこの歴史書をつくったのよ~。」


 「なるほど……。」

 アヤ達が頷いていると草姫が真剣な顔で話しはじめた。


 「なんかおかしいと思って分析したらこの作者がわかったわ~。


私は木から色々わかるの~。この本は生きている木。


誰が書いたかなんて木……つまり本に触れればわかる……。


この本の作者は天記神……あいつが書いた作品だわ~。あいつなら木の記憶を見せる事ができるわ~。


それとタイトルも改ざんされているの~。この本のタイトルは『冷林地方の悲劇』ではなく『花泉姫神の一生』……。」


 「そう……なの?なんで題名を変えたのかしら……。」

 アヤの言葉に草姫の表情が険しくなっていく。


 「そうねぇ~。きっとあいつは……すべて知っていたんだわ~……。タケル様の居場所も私がしようとしている事も……全部。」


 「え……?全部知ってた……?」

 草姫の発言にアヤとヒエンの顔が曇る。


 「そうですね……。


わたくしも今考えればおかしい点がいくつか出て来ました。


まず、図書館の管理者なのに誰がどこにいるのかわかっていなかった事。


わからなかったら神が入った本を普通に本棚にしまうなんて考えられません。

どこにいるのかわからなくなってしまいますからね。


本棚にしまえるという事はどこにいるのか把握しているという事ではないでしょうか。」


 ヒエンがアヤを仰ぐ。


 「……。よく考えれば彼、けっこう怪しいわね……。


確かに、少し時間をいじってしまった時もすぐに気がつかれた。なんだか色々と知ってて黙認している感じがあるわね。


タイトルの改ざんをする意味はどこにあるのかしら……。」


 「それにやたらと草姫さんと花姫さんに詳しくなかったですか?まあ、それは本の神様だからと言われたらそうかもしれないですけど……。」


 「これ……なぜこんなにも編集されているのかしら~。省いたどうでもいい所に大切な事が隠れている気がするのよ~。ねぇ?」


 天記神に対する疑問が良く考えればいっぱい出てきた。


 「編集して大事な事を隠したって事ですか?」

 ヒエンに向かい草姫はくすりと笑った。


 「だって~、そう考えちゃうじゃな~い?そ・れ・に、あの神、はじめて会った私を知っていたのよ~?」


 「天記神はあなたが有名だって言ってたわ。」

 アヤの発言に草姫は首を傾げた。


 「そんなわけないわ~。だいたい、私はタケル様にも知られていなかったのよ~?あなた達も私を知らないでしょ~?」


 「……。」


 確かにそうだ。草花、山、土地で有名な神の兄妹が草泉姫神を知らない。


それなのに天記神は知り尽くしているかのように詳しい。


アヤの事やカエルの事は「誰かしら?」という感じだったところをみるとすべての神を彼が把握し、知っているわけではなさそうだった。


 「じゃあ、彼もなんかしらでこの件に関わっているって事かしら?」

 「そう考えるのが妥当ですね……。」


 「でも、じゃあなんで彼は素直に私達が望む本を出してくれたの?何かを隠したいなら別の本を渡すはずじゃない?」


 「もっと大きな話かもしれません……。天記神に全員騙されているなんて事は……。」

 ヒエンがそこまで口にした時、草姫が声を上げた。


 「ちょ……ちょっと見てよ~!泉が半分なくなっているわ~?」

 「う、ウソ……。」


 アヤとヒエンが我に返り見てみると確かに泉は半分埋め立てられていた。


いつの間にか村人ではない人間達が多く行き交い、土を運ぶ作業が進められていた。


あの綺麗だった泉の水はもう濁りきっており透きとおっていた水面下はもう茶色くなっていて見えない。村人は遠くの方でただ立っているだけだった。


 泉からふと目を離すと埋め立てられた泉の上で慌てている花姫が映った。


 「な、何しているの!やめなさい!」

 花姫は動揺しているのか声が聞こえるはずのない人間に直接話しかけている。


 そんな慌てている花姫の元に急に冷林が現れた。


 「冷林様!」

 冷林は何も言わずにただ浮いているだけだった。


 「ええ。大丈夫です。何とかします。


ここで私がやらなければこの土地を守る資格はありません!

あなたからもらったこの土地を弱小ながら守らせてください。」


 冷林は花姫を心配しているようだ。助けようかと声をかけているらしい。


 「私にやらせてください。ちゃんと考えがあるんです。」

 花姫は冷林に頭を下げた。冷林は何も言わずに頷いた。


 「ごめんなさい。」


 冷林は何かあったら自分が責任をとろうと言ったらしい。それの答えとして花姫があやまった。冷林はその後、何の前触れもなく消えて行った。


 「―さんのやり方でやってみる。」


 花姫は誰かの名前を言った。だが不思議とそこだけは何かノイズが入ったように聞き取れなかった。


 「ちょっと気になるわね……。今の。誰かの名前を言ったわ。」

 「綻び、みつけた~!」


 眉をひそめたアヤに素早く目線を動かした草姫は何かを感じ取るように目を見開いた。


 「戻ってみましょう。」


 「ちょっと私ができるだけ木の記憶を引き出してみるわ~。


ブロックされているからけっこー大変だけど~。

ふふふ。これはわかりやすい綻びを残したものね~天記神。」


 アヤとヒエンにウインクを投げた草姫が最初に戻った。その後でアヤとヒエンも五歩足を戻す。


 「―神さんのやり方でやってみる。禁忌だけどきっとうまくいく。あの男はきっと色々知っているだろうから……。」


 花姫の言葉が一言プラスされた。やはり、言った言葉も所々省かれているらしい。


 「もう一度戻してみるわ~。さっきよりも神の名前が聞こえた気がしない~?」


 草姫がまたまた五歩戻る。アヤとヒエンも後に続く。


ちなみに草姫がどうやって省かれた所を持ってきているのかはわからない。木の記憶を引き出せる何かがあるのかもしれない。


 「天記神さんのやり方でやってみる。


禁忌だけどきっとうまくいく。あの男はきっと色々知っているだろうからその後の対策もきっと大丈夫……。


タケルに認めてもらうためのいい機会なのだから頑張らないと。禁忌だから冷林様に知られたら大変だしね。気をつけないと。」


 ほぼノイズだらけでうまく聞き取れなかったがおそらくこんな事を言っている。


この花姫の言葉はだいぶん省略されていたようだ。


 「天記神……。今、天記神って言ったわよね?ついに名前が出たわね。」


 「……こういう綻びがあると入り込みやすいのにな~。ていうかあいつ、妹に禁忌を教えたって事~?」


 アヤと草姫は顔を見合わせた。


 「天記神は禁忌を花姫さんに教えて結果として花姫さんを消してしまったというわけですね?これは立派な犯罪ですよ。


何をしたのかはわかりませんがあの神はこの件を隠していたという事ですね。」


 「そういう事よね……。こういう綻びをもっと見つけていくわよ。」

 アヤとヒエンと草姫はお互い頷き合うと先に進んだ。


 目の前では相変わらず花姫が立ち尽くしたままだ。途方に暮れたように地面を見つめていた。


 「……違うわね~……。」

 草姫はまた声を上げた。ヒエンとアヤは咄嗟に立ち止った。


 「どうしたの?」

 「あれ、他に誰かいるわね~……。」


 草姫は何かを感じ取ったらしい。アヤ達にはただ花姫が呆然と立ち尽くしているように見えていた。


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