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流れ時…5プラント・ガーデン・メモリー13

 「怒られちゃったねぇ……。おお、くわばらくわばら。」


 カエルはふうとため息をつくと本に手を伸ばした。


 「悲劇……ですか。アヤさん、大丈夫ですか?動けますか?」


 「大丈夫よ。この縁起でもないタイトルの本にさっさと入りましょう。」


 まだ疲れは完全にとれていないがアヤは本をぱらりとめくった。


ヒエンとカエルは「よしっ!」と意気込んで目を閉じていた。


 気がつくと先程と同じ場所にいた。


だがカラカラの大地ではなく、木々は青々と茂っている。心地よい風がアヤ達を通り過ぎた。


気温は適温だ。


 「おお!ここは蛙がいっぱいいるねっ!」

 カエルは元気にぴょんぴょん飛び回っていた。


 「蛙がいっぱい?さっきと同じ所よね?あなた、蛙がいないって言ってたじゃない。」


 アヤは先ほど入った本についてカエルに問いかけた。


 「さっきはいなかったんだよ。ここは日照りじゃないねっ!」

 カエルは笑顔でこう答えた。


 「ああ、やはりこの地域は日照りではなかったのですね。……それが突然、日照りになった……。」


 「なんでかしら……。」


 「それがこの本に書いてあるんでしょっ!ほら!いこ!」


 今回やけに行動力があるカエルがヒエンとアヤを引っ張る。


アヤとヒエンは顔を見合わせながらカエルに続く。青々と茂る林を歩いているとキツネが走り回っているのが見えた。


キツネ達は先ほどの本とは正反対に元気に走り回っている。


 「なんか身体がうずくなあ!近くに水辺でもあるのかなっ!」


 カエルは一人元気に道を駆けて行った。


 「あなた、あの村に向かっているの?」

 「んー、わからない!でもなんかこっちな気がする!」


 何の気がするのかわからないがどこに行ったらいいのかわからないのでとりあえずカエルについて行く事にした。


 「こちらに行きますと、先程の村がある方面ですね。」


 ヒエンはあたりを見回しながら草花を眺めている。色とりどりの野草が花咲き、とても美しい。


木々も背伸びをしているかのようにピンと立っている。


 「なんだかさっきのを見ちゃうと……ショックが大きくなるばかりね……。この後、あの生気のない森になるのよね……。」


 アヤは複雑な表情でカエルに続く。しばらく歩くと林が開けた。


 「え……?」


 アヤ達は驚きの声を上げた。目の前に大きな泉が広がっていたからだ。


 「あれ?あの村に行く途中に泉あった?」

 「いずみ?」


 アヤとヒエンも頭を捻る。


泉は透明度が高く、風に揺られた水がチャポチャポと心地よい音を立てながら寄せては退いている。


水面越しに小さい魚が泳いでいるのが見え、遠目で見ると光の関係か澄んだ青色の水がずっと続いていた。


しばらくきれいな泉にアヤ達は心を奪われていた。


太陽に照らされた泉は幻想的で思わずぼうっとしてしまうほどだ。


 しばらくして我に返ったアヤが声を上げた。


 「ここ、あの何にもない空き地みたいな所じゃないの?」


 「あっ!」


 ヒエンとカエルも声を上げた。ここは村人がミノさんを埋めた所だ。


あの何もないただの広い土地だ。


 「泉だったのね……。」

 「埋め立てられたんだ……。ここ……。」


 カエルが美しい泉を眺めながら悲しそうにつぶやいた。


 「え?」


 「埋め立てられたんだよ。この泉。蛙が沢山住んでいる泉が簡単に干上がるはずないもんねっ!」


 カエルが泉の水をそっとすくう。カエルの手からキラキラと光る水が滴っていく。


 「カエルさんの仮説はあっていると思います。わたくしもこの泉は日照りでなくなったのではなく、埋め立てられたと……。」


 「そっか。やっぱ人間が悪いんだ。人間がねぇ……。埋め立てなんて人間しかできないし。」


 カエルはヒエンの声を聞き流しながら泉を眺め、つぶやく。


 「カエル?」


 アヤがカエルに声をかけようとした時、後ろから声がかかった。


 「ここはきれいだろう?お前達の言った通り、ここは埋め立てられたんだ。」


 男の声だった。三人は咄嗟に振り向いた。


本の中で直に話しかけてくるという事はこの時代の者ではないという事だ。


 「お、お兄様……。」


 ヒエンは嬉しいのか悲しいのか不思議な顔をしていた。


アヤ達のすぐ後ろには先程本で見たイソタケル神とまったく同じ風貌の男が立っていた。


ツルのような緑色の髪と緑色の瞳、精悍な顔つき、水色の着物。


この彼は本の中のイソタケル神ではなく、おそらく本物だろう。


 「ヒエン、僕を探していたのか。大丈夫だ。すぐに戻る。だからお前はいったん本から出るんだ。」


 イソタケル神はそっとヒエンをなでる。


 「我ら蛙達の救世主!会いたかったよー!けっこう簡単に見つかった!」


 「お前は……カエルか。」


 イソタケル神はヒエンから手を放すとカエルの方を向いた。


 「あの林、森を救ったうわさは聞いているよっ!蛙達もずいぶん助けてくれたらしいねっ!


詳しい事は知らないけどさ。しかし、この原因をつくったのが人間だったとは……。」


 カエルはイソタケル神を仰ぎながらつぶやいた。


 「僕はこの泉を元に戻したいんだ。そのために動いている。


冷林をなかった事にすればあれがあの林を守る事もなくなる。


そして今度は僕がこの林を守り、花姫を育てる。


そうすれば泉が埋め立てられるなんてことが起こるはずがないし、花姫が消えてしまう事もない。」


 「おお!すごいねっ!それ、ほんとにできんの?本の中だけど。」


 イソタケル神の言葉にカエルは興味を抱いていた。カエルにとっては花姫云々よりも泉のが大切な話らしい。


 「できる。ここは歴史書だ。歴史書ごと変えてしまうのだ。」


 「お、お兄様!そんな事は許されません!」


 途中でヒエンが口を挟んだ。カエルはなぜかあからさまに嫌そうな顔をした。


 「泉を元に戻すのはさんせーい!


確かに、冷林なんていなくてもいいし。

あたし達は冷林に助けられたわけじゃない。


あたしらはイソタケル神に助けてもらったんだ。冷林なんてどうなってもいいよっ!


歴史書変えてそれが常識になるようにしちゃえばいいじゃん!」


 「カエルさん!ダメです!」


 「そう?ダメかなあ?あたし、いいと思うんだけど。」

 ヒエンの言葉にカエルは首をひねった。


純粋に悪い事だと思っていないようだ。


 「カエル、僕の手伝いをしないか?」

 イソタケル神はにこりとカエルに笑いかけた。


 「え?マジ!手伝う!手伝うよっ!


しょうもない人間達も助けてあげられるんだから、さいっこうな話じゃないかっ!」


 カエルも楽しそうに笑う。アヤは状況を見ているだけで何もしなかった。


 「ダメですって!カエルさん!」

 カエルは叫んだヒエンを睨みつけた。


 「うるさいな。何がダメだっていうのっ!


冷林が犠牲になるだけで皆助かるんだよ?


泉も蛙も皆平和に暮らせるんだ!


その改変を本の中だけでできるならこんなおいしい話ないじゃないかっ!


ヒエンもあのひどい有様をみたでしょ!」


 「歴史はもう歴史としてあります!それを変えるなんて許されない行為です!」


 カエルとヒエンはお互い睨みあっている。


意見はすれ違い、食い違う。


そんな中、イソタケル神はアヤに目を向けていた。


 「お前は時神だな?」

 「そ、そうよ。」


 アヤはイソタケル神を怯えた目で見上げた。


何と言っても怖かった。

イソタケル神は神話でとても有名な神だ。


おまけにスサノオ尊の息子だ。


ヒエンもスサノオ尊の娘だがそれとはなんだか違う力を感じる。


ヒエンは温かさを感じるがイソタケル神は荒々しさを感じる。持っているものの種類が違う。


 「なつかしいな。時神現代神に会ったのはこれで四人目だ。」


 時神は転生を繰り返して存在している。


現在いる時神よりも強い力を持つ時神が出てきた時、その現在存在している時神は消滅する仕組みだ。


イソタケル神はアヤの他に三人の時神現代神に会ったらしい。


時神は元々、過去、現代、未来にそれぞれ一人ずついる。過去神、未来神も現代神同様、転生を繰り返して存在している。


 「四人目ね……。」

 「時神、お前は本の中で時間が操れるな?」


 「……。」


 アヤはイソタケル神の問いにあえて答えなかった。 


 「お前は一緒に来てもらおうか。」

 「嫌と言ったら?」

 「あたしがゆるさないよっ!」


 アヤの問いに答えたのはカエルだった。


カエルはいたずらっ子のような顔で微笑むと傘をアヤに突きつけた。


傘はいきなり現れたのでどこに隠してあったのかは不明だ。おそらくカエルの霊的武器なのだろう。


 「あなた、どうしたのよ……?」


 「泉が元に戻るんなら戻したいだけだよっ!アヤの能力はきっと大事だ。だから一緒に来てもらう!よくわかんないけどっ!」


 カエルが叫んだ時、カエルの持つ傘の先端が光り始めた。


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