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流れ時…5プラント・ガーデン・メモリー10

 しばらく歩くと村人達の声が聞こえてきた。


 「このキツネ……俺達に食べ物を届けに来ていたんだ……。神の使いかもしれない……。それを撃ち殺してしまった……。」

 村人の男は顔を真っ青にして他の村人達を見回す。他の村人の顔も青い。


 「まずいぞ……。今すぐ祭らなければたたり神になるかもしれない。」


 「今すぐ祭司と巫女を呼べ!」


 「祭司はもういないだろ!巫女は病にふせっている!とてもじゃないが立てる状態じゃない!」

 村人達は慌てていた。


 「今立っている村人を全員集めてあの地へ連れて行け!」

 「我々だけで祭事をやるというのか!供える物も何もないじゃないか!」


 村長ももういないのか村は統率がとれていないようだ。


 「しかたない。何人か命を捨てる覚悟を持て。」


 一番年長だと思われる村人の男がそう命じた。村人達はただ息を飲むだけだった。


 しばらくしてこのままだと皆死んでしまうと確信した村人達はぞろぞろとキツネを抱え歩き出す。


「あの人達……死ぬ気なの?」

「……。」

 アヤのつぶやきをヒエンとカエルは黙って聞いていた。


 そのまま待機していたが村人がいなくなってしまったのでアヤ達は再び動き出した。村人達はあの広い土地に集まっていた。

 

 やはりここは祭事を行う場所だったのか。

 もうすでに何人かの村人は自害していた。アヤ達は思わず目をそらした。


 祭事は見ていられるものではなかった。


 神主も誰もいないこの祭事は皆本当にあっているのかもわからずに行っているようだ。村人はそこらにあるカラカラの草をむしるとキツネの上にかぶせはじめた。


 火打石をつかって火をつける。


 キツネを燃やす気らしい。


「ミノは……たたり神になる事を恐れられて祭られたのね……。」


 アヤはなんだか複雑だった。

 あんなに優しいキツネがたたり神と恐れられている。


 これは信仰ではない。

 厄災を持ちこまないでくれと願われているのだ。

 昔話とは違う結果にアヤはショックを受け、下を向いた。


 アヤが落ち込んでいる最中も炎は轟々とキツネを焼く。村人は泣きながらこれ以上悪い方向へいかぬよう願っている。


 やがて村人は徐々に村へと引き返して行った。

 村人達はこれでよかったのかと煤けた草を眺めながら不安げな顔で去って行く。


 残った数人の村人が骨になりきれていないキツネを地面に埋める。

 その周りに自害した村人を添えるように埋めた。


 カエルとヒエンも悲痛な顔で埋められるキツネと村人達を見ている。

 あんまり見たいものではなかった。


 あまりのショックに三人は呆然としばらく佇んでいた。村人はもういない。


 「なんて言えばいいか……わからないですね……。」

 やっとの事でヒエンが口を開いた。


 いくら歴史書といえども実際に見ると耐えられるものではなかった。


 気がつくと日が沈んでいた。

 オレンジ色の夕陽がアヤ達を眩しく照らす。


 どうすればいいかわからずにただ呆然としているとザッザッと土を蹴る足音が聞こえた。そしてすぐにアヤ達の目に金色のきれいな髪が映る。


 現れたのはあの女神だった。


 夕陽は傾き徐々に星が見え始める。

 埋められたキツネの上にぼんやりと若い男性の影が映りはじめた。

 

アヤは咄嗟にミノさんだとわかった。影は徐々に鮮明になっていく。

 頭にキツネ耳をはやした男性が座り込む形で現れた。

 

 キリッとした水色の瞳、濃い黄色の髪、間違いなくミノさんだった。

 いまと違う所は髪が腰辺りまである事と雰囲気が違った。そして裸だった。


 「あ……。」

 アヤはパッと目を離した。色々髪で隠れているがなんだか恥ずかしかった。


 「すっぽんぽんだねっ。ミノさんたら。」

 カエルは逆に興味があるのかミノさんを上から下から眺めている。


 「や、やめなさい……。カエルさん。」


 ヒエンも恥ずかしかったのかカエルの目を手でおさえた。

 いきなりの事で三人とも戸惑っていた。

 そんな事をしている間に話はどんどん進んでいく。


 「たたり神に……なってしまったのか?」

 女はミノさんに対しつぶやいた。ミノさんからは異様な気が出ている。


 「……俺は……こんな事をしたかったわけじゃない……。人間に死ねって言ったわけじゃない!」

 ミノさんは立ち上がると女をまっすぐ見つめ叫んだ。


 「わかっている。わかっている……。」

 女は苦しそうに下を向いた。


 「人間は死にたかったのか?

 だったら今の俺がもっとも苦しい殺し方をしてやる。

 

人間がそれで満足するならなっ!食物も受け取らず俺を撃ち殺した……。

 

 人間はよほどこの界隈を嫌っているようだな。そんなに死にたかったのか?

 俺はいままで何をしていたんだ!」


 ミノさんは狂ったように叫び出した。


 「落ち着け。名もなき神よ。

 あなたの心が人間に理解されなかっただけだ。

 

 私が出した食物も悪かったのだろう。

 あれは高天原で現在栽培されている野菜達だ。この界隈にはないものだった。

 

 あなたの手助けをするのに十分な食物がこのあたりにはなかったのだ……。

 

 だから高天原のを持って来てしまった……。

 それ故、人間は幻だと思ってしまった。あなたが死んだのも私のせいなんだ!」


 女は必死にミノさんを止めた。涙をこらえている顔だった。本当はとてもメンタルの弱い神なのかもしれない。


 「違うな。俺はそうは思わない。おたくは悪くないだろ。

 

 もともとは人間が招いた結果だ。そうだろう?

 

 俺はこの村の人間を滅ぼす。

 もうほとんど残ってねぇだろ。


 食ってねぇから立ってるやつなんか数人だろうよ。」


 「頼む!思いとどまってくれ!頼む!」

 女はミノさんにすがるがミノさんは女を突き飛ばした。


 「何言ってんかわかんねぇんだよ!

 思いとどまるってなんだよ。俺は知らねぇな。」


 「……っ。」

 女は一瞬顔を強張らせるとミノさんから離れた。


 「わかった……。でもあなたにはここを守ってもらわねばならない。

 私の信仰はもうないに等しい。消えるのも時間の問題だ。

 

 私の代わりにこの地を守ってもらわねば困るのだ……。実りの神として土地神として……。花泉姫神はないずみひめのかみ、それだけは守りたい。」

 

 「別にいいが、じゃあ、人間を消してからでもいいよな。」


 「違う!違うんだ!……くっ……このままでは彼が厄神になってしまう……。これも私のせいか……。」


 金髪の女、花泉姫神は手を前にかざすとミノさん目がけて白い光を飛ばした。


 「……?なんだ?これ。」

 「じっとしていろ。あなたの為になる事だ……。」


 ミノさんはきょとんとしていたが花泉姫神はどんどんやつれていく。

 あたたかい白い光がミノさんを包みこむ。

 

 ミノさんの目つきがだんだんと穏やかになっていった。

 雰囲気も現代にいるミノさんに近づいてきた。

 刹那、白い光が突然消えた。


 「うっ……。」

 花泉姫神はいきなり苦しそうにその場に倒れ込んだ。


 「おたく、何をしたんだ?大丈夫か?」

 ミノさんは呆然と花泉姫神を見つめていた。


 「ああ……。どうだ?あたたかいだろう?あなたが持つべき力は……人間を消す力ではない……。こちらの力だ……。完璧に渡せなかったか……。私ももうダメだな……。」


 「……。」

 ミノさんは花泉姫神から目を離すとそっと目を閉じた。



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