流れ時…5プラント・ガーデン・メモリー9
「ミノ……。」
アヤはキツネを抱き上げた。まだかろうじて息があった。
キツネは目に涙を浮かべながら苦しそうに息をしていた。
「アヤさん!」
「アヤ!」
ヒエンとカエルもアヤに追いつき肩で息をしながら立ち尽くした。
「だめ……。死んじゃだめ……。ミノ!」
「あ、アヤさん。ここは本の中です。しっかりしてください!」
ヒエンがアヤを止めに入るがアヤは気が動転しているのか平静ではなく、ヒエンを突き放した。
「……アヤ、ここは歴史書だよ!昔話に書いてあったじゃん。」
「私が助ける。」
「ダメだって!」
カエルもアヤを止めるがアヤは聞かない。
アヤは身体から時間の鎖を出現させた。
自分でもどうやったかはよくわからないがこの時はなぜか必死に時間の鎖を出していた。キツネを撃たれる前の状態に戻そうとしていた。
キツネの傷口は徐々に塞がっていた。
「アヤさん!ダメです!」
ヒエンが叫んだ時、痩せこけた男性がこちらに向かってきていた。
おそらく村人だ。
ヒエンとカエルはアヤを無理やりひっぺ返すと近くの草むらへ連れて行った。
「ミノが死んじゃうわ!」
「アヤさん、彼は死んでいいんです!」
ヒエンの言葉が悪かったのかアヤの目つきが鋭くなった。
「死んでいいって何よ!」
ヒエンに掴みかかろうとしたアヤをカエルが素早くポカンと殴った。
「アヤ、落ち着きなってば。現代でミノさん、生きてるでしょ。ここでアヤが助けちゃったら今生きているミノさんどうなるのさっ!」
「あ……。」
カエルの言葉で我に返ったアヤは恥ずかしそうに下を向いた。
「それにしてもなんで本の中なのにアヤさんの力が発動したのでしょうか?」
ヒエンはほっとした顔をカエルに向けると話題を変えた。アヤはまだ動揺しているのか顔を両手で覆っていた。
「知らないよっ。ああ、びっくりした。
アヤがあんなになるなんてねっ。
ミノさんに恋しちゃってんじゃないの?
あ、そういえばさっき、あの女神がタケルって言ってなかった?」
「ああ、それも疑問ですね。タケルとはイソタケルの事でしょうか。そうなると私の兄ですね。あの女神は誰なのでしょうか……?」
「待って待って。話さっきのに戻すけどさ、なんでキツネが撃たれたばっかなのにもう村人が登場しているのさ?」
先程から話がコロコロ変わるのでヒエンは頭を捻った。
「何の話でしょうか?」
「キツネの話だよっ。あの昔話だと翌日に村人が死んだキツネを発見するんじゃなかったっけ?」
「ああ!そうですねっ!」
「私のせいかもしれないわ……。」
カエルとヒエンの会話に割りこむようにアヤがつぶやいた。
「時間の鎖を出しちゃったから?」
「ええ。まわりの時間とか歴史とか丸無視して時間の鎖が出ちゃったの。
ただ、ミノの怪我を治そうとしただけだからあんまり考えてなかったわ。
現世でやってたらあたり一帯グッチャグチャだったわね……。」
時神が出す時間の鎖は時間を止めたり、巻き戻したりできるが
現世でそれをやると周りの建物や生き物などの歴史、時間を完璧に把握して制御しないと時間の鎖を出した後、
時間がおかしくなるところが出てしまう。
故に時神は現世で時間関係をいじる事は禁止されている。
人間の時間を監視するのが時神の役目だ。
「ああ、それで仕組みはわかりませんが本の中の時間が一日ずれてしまったんですね……。」
キツネを見ると流れていた血はこびりつき、茶色く変色している。
土を汚していた血液も乾いて地面に張りついている。
キツネはもう息をしていないだろう。
村人の男がキツネを蹴りあげたがそのやせ細った身体を見て慌ててキツネを抱き上げた。そのままキツネを抱え男は村へと戻って行った。
「さて、これからミノさんになるのかなっ?」
カエルは村人が去って行った方向を眺めながらつぶやいた。
「追ってもいい?」
アヤが控えめにヒエン達を見上げた。
ヒエン達の目的はイソタケル神を探す事だ。
ミノさんの生きざまを見る事ではない。
本当ならばあの女神をもっとよく調べるべきだったのだがアヤの勝手で村へと戻ってきてしまった。
アヤは自分のしてしまった事に頭を抱えていた。
「いいですよ。もうここまで来てしまいましたし。」
「逆にここまで来たら気になっちゃうよっ!」
ヒエンとカエルはアヤに笑いかけた。
「ごめんなさい……。」
「そんな……あやまらないでください。アヤさんの気持ちはとても素敵です。」
「まあ、なんでもいいよっ!はやくいこっ!」
カエルがヒエンとアヤを引っ張るので二人は引っ張られるまま草むらを出た。
「ありがとう。カエル。」
「え?何?聞こえなかったァ!」
「なんでもないわ。」
アヤはとぼけているカエルにそう言うと村人が歩いて行った方へ歩き出した。




