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流れ時…5プラント・ガーデン・メモリー8

 アヤもヒエンもカエルに続き走り出した。

不思議と着物は重くなくアヤは軽やかに地面を蹴っている。


 普通よりも速く走れているような気がする。


 「あのキツネ、思ったより足速いなァ……。」

 カエルは雨が降っていないと弱いのかすぐに息切れを起こした。

アヤはカエルを励まし後ろからつついて走らせる。


 「頑張って!」

 「ああ、待ってくださーい!」

 「頑張ってってば!」


 アヤはヨタヨタと後ろを走っているヒエンにも声をかけ続ける。

ヒエンを引っ張りカエルをつつきながら忙しなくアヤは走り続けた。


気がつくと例の空き地にたどり着いていた。

草も何もないただ広い場所。


キツネはその広い土地を駆け、道からそれて再び林の中へと姿を消した。


 「さっき、私達がいた方じゃない方向へ行ったわ。」

 「とりあえず追いかけましょう……。はあ……はあ……。」

 ヒエンはまたヨロヨロと走り出す。


 「ちょっとしっかりしなさいよ……。ほら、カエルも!」

 「うーん……頑張るよぉ……。」


 カエルは覇気のない声を出すとヨタヨタと走り出す。

ヨタヨタヨロヨロしている二人を引っ張りながらアヤはキツネを追った。


なんで自分がこんなにむきになっているのかわからないがあのキツネは追わなければならないと思った。


 キツネを追い、獣道へと足を踏み入れた時、空間が変わった。


 「なんか今、変だったわよね?」

 アヤはすぐに異変に気がつきあたりを見回していた。


 「はあ……はあ……あれですよ……。


きっと別の歴史書に入ったんじゃないですか?何か所かリンクしているって言ってたじゃないですか……。ぜぇぜぇ……。」


 「あなた、頭、よくキレるわね……。息もきれているけど……。」

 息が上がって苦しそうなヒエンにアヤはため息をついた。


 「あれー?なんか雰囲気変わったね?今、ポヤンって変わったよね?」

 カエルは不思議そうにあたりを見回していた。


 「カエルより冷静だわ。」

 「そ、そうですか?」

 アヤはカエルを呆れた目で眺めながらつぶやいた。


 「それよりキツネ追おうよっ!」

 カエルが走り去ったキツネを指差しながら叫ぶ。


 「あ、そうね!行きましょう!」

 アヤ達はまた走りだした。キツネは険しい山道を飛びながら登っていく。


ごつごつした岩がアヤ達の行く手を阻む。

ロッククライミングとまではいかないがかなりきつい。


 「あのキツネ……どんな体力してんのっ?こんなの登れるわけないじゃん!」

 先程、山を全速力で駆け降りていたカエルが今やこんな状態だ。


 「確かに……。おかしいわね。」


 アヤは顔をしかめながら岩を登る。

ヒエンに至ってはもう話す気力がないようだ。

 気力と戦いながら三人はなんとか岩を登りきった。


 「女の子が歩くとこじゃないよ……。まったく……。」


 カエルは足首を抑えながらため息をついた。


 「ここはあの例の林ですね……。あの岩山を登ってもここにたどり着くんですね……ぜえぜえ。」


 ヒエンは今にも倒れそうになりながらあたりを分析する。


岩山を登るとそこは先程までいたあの緑が濃い林だった。

ここだけは日照りをあまり感じさせず緑が覆い茂っている。


 「ヒエンはこんな状態でも色々見ているのね。すごいわ……。」

 アヤももう歩く気力が沸いてこないくらい疲れていた。


 「そ、そうでしょうか?」

 「ええ。」


 アヤもとりあえず周りを見わたす。キツネは少し先で立ち止まっていた。


キツネの足はガクガクと揺れている。

キツネ自身も体力の限界をとうに超えているらしい。


 「あのキツネさん、きっと全速力で走らないとこの岩山登れなかったんですね。」


 「確かにねっ。あんな状態だったら途中で倒れちゃうもんね。もう勢いで登ってたのかなァ?」


 ヒエンとカエルの言った通り、キツネは普通に立てていない。

よく見ると所々怪我をしている。


岩山を登った時にあちらこちらかすったり木の枝ですれたりしたのかもしれない。


 「あのキツネさんは何度もこの道を行き来しているって事ですね。」

 「全速力で……ね。」


 あのキツネがミノさんだとするならミノさんの体つきの理由も少しわかったような気がする。


神になったミノさんの体つきは人間の男性と変わらないが筋肉がつきすぎず脂肪もあまりない。


そんな体つきだ。ひょろっと細いのに筋肉はある程度ついている。

なかなかしまりのある身体だ。


 「あっ!」


 カエルがいきなり叫んだ。

何事かとアヤ達もカエルが見ている方向に目を向ける。


キツネのすぐ横で赤茄子トマト、胡瓜などの野菜がいきなり出現した。

季節はずれの柿やサツマイモなどもあった。


 「あれ……例の野菜じゃない!」


 「いきなり出現しましたね。ほんの少し、神の気配がこのあたりまわっています。」

 「冷林かしら。」


 そういえばなんだかここら辺だけ他の場所と違い、涼しい。

そしてなんだが潤っているようにも見える。


来た当初は気がつかなかったがこうやって里に下りてからここへ来るとそれが顕著にわかる。


 「ここの木々は人々の信仰を糧に生きているようですね。」

 「人々の信仰……やっぱり冷林よね。」


 「それだけではないかもしれないです。ここの木々は違うものも混ざっているように思えます。現代の時とは感覚がまるで違いますね。」


 ヒエンは近くにある木をそっと撫でた。木種の神は何かを感じ取ったらしい。


 「おっ!あれ見て!」

 またカエルが叫んだ。アヤ達は木から目を離すと再びキツネに目を向ける。


 「何よ?」


 先程と何も変わっていない。

キツネが野菜の匂いをクンクンと嗅いでいるだけだ。


アヤはまた木に目を向けようとした時、林の奥の方で何かが目に入った。

底冷えするような何かがアヤを駆け巡る。


もう一度、林の奥の方に目を向ける。


 「れっ……冷林……。」


 林の奥の方でこちらを見ている水色の物体。


人型クッキーのような単純な形をしたぬいぐるみがどこにあるのかもわからない目でじっとこちらを凝視している。


人型クッキーの顔部分にはナルトのような渦巻きが描いてあるだけで目も鼻も口も何もない。


 冷林はこちらを見ているだけで向かっては来なかった。

 しばらく冷林と向き合っていると今度はキツネの横が光り出した。


 「今度は何よ……。」


 アヤは冷林から目を離し、光の方に目を向けた。

光はすぐに消え、一人の女が現れた。


女は菫色の着物を着ており、金色の長髪をなびかせながらキツネを撫でていた。

 とてもきれいな女性だったがこの林には浮いていた。


 「あなたが何をしたいのか、私にはわかる……。」

 女はキツネを撫でながらキツネに言葉をかける。


 「でも、あなたはもうこの辺でやめるべきだ。元の里に戻したいのだろう?


私はあなたを手伝っているがもうそろそろ私自身も限界だ。


かわいそうなキツネよ……。もうこれを期に人間と関係を絶て。


あの里の人間はもうおしまいだ。あなたの声は届いていない。こんな結果を招いたのは私の力不足だったのだ……。


あなたは何も悪くない……。だから……もう……。」


 女はキツネの耳にそっとささやく。キツネは女を見上げているだけだった。


 「あなたが神々の責任をおう事はないし元に戻そうとしなくてもいい。


あなたはまだ元気なうちにこの界隈から出て行くべきだ。

ここまで頑張ったのだ。


なんなら私が潤っている大地へと連れて行ってあげようか?」


 女の言葉にキツネは一度目を閉じると首を大きく振った。


そしてそのまま小ぶりの赤茄子トマトをひとつくわえるとまた全速力で走り去った。アヤ達の横を高速で飛んで行き、そのまま岩山を飛び降りて行った。


 「やめろっ!もう行っても意味ないんだ!人間はあなたを信じていない!」

 女は叫んだがもうすでにキツネは走り去った後だった。


 「っく……。もうダメね……。私が彼の生までも無駄にしてしまったと……あなたはお思いなのでしょうね……。冷林様。」


 女は目に涙を浮かべながら後ろでただ佇む冷林を睨みつけた。

冷林は何も言わなかった。


 「私は……神様失格ね……。最後に……タケルに会いたかった……。あの神なら……馬鹿な私をきっと叱ってくれた……。」


 女はただ泣き崩れていた。アヤ達は何も言えずただじっとその場に佇んでいた。


そのうち、遠くの方で何度も銃声が響きはじめた。


アヤ達はハッと銃声が聞こえた方を振り向いた。里の方からだった。

アヤの中に一つの予想が横切る。アヤは咄嗟に走り出した。


 「あ、アヤ!」

 「アヤさん!」


 カエルとヒエンはアヤを呼んだがアヤには聞こえなかった。

予想していた事がおそらく現実で起こっている。


アヤは無我夢中で走った。


足に枝がひっかかろうと葉っぱに頬を切られよとかまわず走り続ける。


喉があつくなってくる感覚を覚えながらアヤは獣道を駆け、広い空き地を抜け、村の近くへとたどり着いた。


 「……っ。」

 アヤは苦しそうに息をしながら怯えたように足を止めた。

アヤの目の前であのキツネが血まみれで倒れていた。



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