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流れ時…1ロスト・クロッカー3

夕陽が差し込む。

店はどんどん閉まりはじめている。

習い事などが終わった子供が長屋へ帰って行くのがちらちら見えはじめる。


探し始めて何時間たったか……

さすがに疲れてきた。

過去神は一向に姿を現さない。


「そろそろ……暗くなるし明日にしようか。」

「呑気だわね……。別に私はいいけど……どうするの?」

「宿行こう。」


「お金あるの?」

「あるよ。この時代が管轄だった時にすこしだけとっておいたんだ。」


現代神は手から手品のように慶長小判や万延大判、寛永通宝など年代バラバラなお金を取り出す。

挿絵(By みてみん)


「けっこう……大金だと思うんだけど?」

「これのどれか見せればたぶんヒットするよ!」

「てきとう……。」

「ま、まあ、いいじゃないか。行こう?」

二人は近くの旅籠の中に入って行った。


案の定、なんかのお金がヒットしたのか番頭の顔つきがコロッと変わっていた。

現代神とアヤは二階にある二人部屋に通された。


床は畳で行燈が唯一の光源だった。


「個室にしてくれたんだね。いい旅籠だね。」

そう言うと現代神は少し湿った布団をひくと横になった。


「ねぇ、時計使って現代に戻って寝れば良かったんじゃない?」

「うん、まあ、でも、もうお金払っちゃったし。」


その言葉を最後に現代神はごろんと寝返りをうち、何も言わなかった。


現代神からかすかな寝息が聞こえてきたのでアヤも薄っぺらい布団を敷いて横になった。


しかし……寝られない……


横になって目を閉じていると色々不安になってくる。


だいたいここはいつもなじみがあった場所ではない。


当たり前だわ……。さっきまで現代にいたのよ?


それに現代神がいなくなったら自分はもう現代に帰れない。

とりあえず、怖くなった。


怖くなったので気をまぎらわそうといつも常備している紙とボールペンでためしに未来の時計を描いてみた。


……こんな時計しか思い浮かばないな。未来の時計ってどうなってんだろう。


アヤはなんとなく3200年と書くとどこにでもありそうな時計の絵をぼーっと見つめた。


しばらくいろいろ模索してみたが疲れのせいか強い眠気が襲ってきた。

アヤは夢の中に引きずり込まれた。



ゴォンゴォンゴォン!

鐘の音が響いている。


「はっ!」


アヤは飛び起きた。

悲鳴と鐘の音が響きわたっている。


「え?」

起きてから周りを見回すと目の前が真っ赤だった。

同時にすさまじい熱風と炎がアヤを襲い始めた。


「あぅ……あつっ……」

火事だあ! と外から声が聞こえる。


「火事!」

アヤは逃げようとして止まった。現代神がいなかった。


「げっ……現代神!」

叫んでも返事はない。


探している余裕は彼女にはなかった。

火の手が上がり始めた部屋の障子戸を開け、外へ飛んだ。


うかつにもここが二階であるという事を忘れていた。

心臓が浮くような感覚が襲った後、すぐに地面に激突した。


「……いったあ……」


骨が軽く折れる勢いで飛んだが幸い、落ちた時の外傷は擦り傷程度ですんだ。

アヤはゆっくり起き上ると愕然とした表情になった。


「……嘘……。」

まわりは火の海だった。


あちらこちらで必死の取り壊し作業が行われている。

京都は逃げ惑う人々でごった返していた。

火はごうごうと音を立てて容赦なく家々を焼く。


アヤはひたすら走った。


冗談じゃない。


現代神もいない、京都は火事。

とりあえず火がまわっていないところを必死で探した。

熱いのと煙でくらくらしてきたがなんとか火がまわっていない茂みへ出る事ができた。


「げほ……げほ……」

小さな川が流れている叢に座り込んだ。

腰が抜けて立てなかった。


それから遠くで赤く燃えている街並みを恐怖の目で見つめた。

煙がもうもうと立っている。

ここもじきに火が移りそうだ。


もっと遠くへ行こうとよろよろと腰をあげたら目の前で現代神が心配そうに立っていた。


「大丈夫? ここにいたのかあ。探したんだよ。」

アヤは一気に力が抜けてしまった。


「……ど、どこに行ってたの? こっちだって探したのよ。」

「え? ああ、ごめん。ちょっと過去神を探していたんだよ。」

現代神はアヤに手を伸ばして立たせた。


「過去神を?」

「京都がこうなったのはたぶん、あいつのせいだよ。あいつが天明の大火をずらしたんだ。」


「時代をゆがませて大火を持ってきたって事? 過去神が?」

「そうなるんじゃないかな?」


二人が考えを巡らせているとまたあの異様な気を感じた。


「俺がなんだ?」

アヤはビクッと震えた。


「君が歴史をおかしくしたのか……聞きたくてさ。探していたんだ。見つかって良かったよ。」


現代神も冷や汗を流しながら歩いてきた影を睨んだ。


「どうでもよいだろう。この火事で新撰組がなくなってくれればな。」

「やっぱり君が……。なんでそんなに新撰組を消したいんだい?」


「時代に逆らう者だからだ。俺は認めない。」

「あなたが手を出さなくても新撰組は後になくなるわ。」


アヤは震える声でつぶやいたがすぐに現代神に口をふさがれた。


「アヤ、余計な事言わないで。過去神がまた何かやって時代を歪ませるかもしれないからさ。」

「……でも……言った方が……。」


「大丈夫だよ。君の新撰組の認識が変わっていなければ彼らはまだどこかで生きている。それに、君の中の歴史が変わっていなければ新撰組はちゃんと歴史通りに動いている。余計な事を言って下手に動かれる方が迷惑だ。」


「そう言うなら、天明の大火は私の中では天明の大火よ? 元治の大火とかじゃないわ。」


「小娘……お前はなんだ?」

過去神は気味悪そうにアヤに話かけてきた。


「私は……その……」

アヤが言葉を濁していると過去神はアヤが持っている時計に目を向けた。


「そうか……お前が時代を脅かす異種か。」

「え?」

過去神の言葉にアヤは思わず声をあげた。


「なに? 時代を脅かすって……私はただ……この現代神に……。」

過去神の目つきがさらに厳しくなり、刀の柄に手を伸ばした。


「逃げよう! アヤ! 彼は今正気じゃない!

なにがあったか知らないけど時代のゆがみでおかしくなってる!」


「ええ? う、うん。」

アヤが走り出そうとした時、目の前で風を切る音がした。


「ひっ!」

二、三歩無意識に下がった。


気がつくと手に持っていた時計が真二つになって地面に落ちていた。


「とっ……時計が!」


過去神は恐怖で震えているアヤの顔に剣先を合わせた。


「女子供を斬るのは俺の理念に反するが……しかたあるまい。」


「ま、待って……な……何を言っているの!」


「今、楽にしてやる……。いたぶる趣味はないのでな、なるべく一瞬で終わらせる。」


「アヤ!」

現代神が叫んでいた。


なんだかわからないがこのままだと殺される。

いきなりの事で頭がパニックを起こしていたが、アヤは焦りながら考えた。


……現代神……

そうだ!


アヤは横で震えている現代神の手をつかむと、先程描いた時計の絵を咄嗟に現代神の頭に押し付けた。


目の前が白くなった。



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